بيت / 恋愛 / 結婚式の端っこで、君と乾杯を / 53話「私がいなくても」

مشاركة

53話「私がいなくても」

مؤلف: 団紡るう
last update تاريخ النشر: 2026-08-07 10:30:17

 月曜日、出社してすぐに社内システムを開いた。読書支援システム企画のページ。担当者一覧を確認する。

 自分の名前がなかった。

 スクロールを戻す。もう一度、担当者欄に目を通す。別の社員の名前が、瑠衣がいたはずの位置に入っていた。日付を見ると、金曜日の夕方に更新されている。時刻は十七時五十八分。終業時刻の直前だった。

 周囲を見渡す。誰もこちらを見ていない。いつも通りキーボードを打つ音、電話の応答、コピー機の作動音が重なっている。誰かが説明に来るのを、少しの間待った。誰も来なかった。

 瑠衣は画面を閉じ、自分のメールボックスを開いた。担当変更の通知は届いていなかった。もう一度確認する。送信済みトレイも、迷惑メールフォルダも見た。何度確認しても、結果は同じだった。カーソルを画面の上で行ったり来たりさせてから、瑠衣はマウスから手を離した。

 椅子に座り直し、今日の予定を確認する。空いている時間に、別の資料整理の依頼が入っていた。それを開き、作業を始めた。パソコンの画面に表示された作業内容は、いつも自分が任されていたものとは、少しだけ性質の違う仕事だった。ファイルの並び順を整えるだけの作業に
استمر في قراءة هذا الكتاب مجانا
امسح الكود لتنزيل التطبيق
الفصل مغلق

أحدث فصل

  • 結婚式の端っこで、君と乾杯を   59話「仕事として」

     求人票を見返す日が、何度か続いた。机の引き出しから取り出し、蛍光灯の下で文字をなぞり、また戻す。何度目かの夜、瑠衣は求人票の端がすでに柔らかくなっていることに気づいた。折り目の部分が、指の圧で白く筋になっている。手にするたび、同じ場所に視線が落ちる。その繰り返しの中で、瑠衣はある夜、パソコンを開いた。  応募フォームの画面には、いくつもの入力欄が並んでいた。氏名、経歴、志望動機。カーソルが点滅する志望動機の欄で、指の動きが止まった。エアコンの音だけが、静かな部屋の中で低く続いている。窓の外を、遠くの電車の音が一度だけ横切っていった。  しばらく考えてから、文字を打ち込んでいく。書いては消し、また書き直す。何度目かの文面で、ようやく手が止まった。 「広告代理店に勤務していた際、資料整理や企画業務に携わっていたため、貴社の業務に活かせると考えました」  打ち終えた文章を、もう一度読み返す。灯の名前は、どこにも書かなかった。個人的な関係を示す言葉は、一文字も入れなかった。文面を三度読み直し、誤字がないことを確かめてから、画面を見つめたまま、瑠衣はしばらく動かなかった。それから、送信ボタンにカーソルを合わせ、押した。画面が切り替わり、受付完了の表示が出る。それだけのことに、思ったより長く目を落としていた。パソコンを閉じたあとも、しばらく机の前に座ったままだった。 数日後、スマートフォンに着信が入った。灯火書房の採用担当者からだった。面接の日程を告げる声を、瑠衣はメモを取りながら聞いていた。通話を切った後、カレンダーアプリにその日付を入力する。予定の欄が、久しぶりに文字で埋まった。  面接当日、瑠衣は指定された住所へ向かった。ビルの入口に掲げられた社名を確認し、自動ドアをくぐる。ロビーはガラス張りで、朝の光が床のタイルに反射していた。受付で名前を告げると、案内の社員が奥へと導いてくれた。案内の社員は歩きながら、簡単にフロアの説明をしてくれたが、瑠衣の意識は半分、周囲の景色に向いていた。  廊下の両側には、ガラス張りの資料室がいくつも並んでいた。棚には古い書物と、電子端末が並列に置かれている。紙の匂いと、機械の静かな稼働音が混じり合っていた。ラベルの貼られた資料の背に、几帳面な文字で

  • 結婚式の端っこで、君と乾杯を   58話「灯のいる場所」

     午前、ハローワークの求人検索コーナーには、蛍光灯の白い光が均一に落ちていた。 壁際に据えられた棚には、透明なファイルに入った求人票がずらりと並んでいる。空調の音が低く響き、時折、順番を呼ぶアナウンスがそこに重なった。掲示板の隅には、季節外れのポスターが少し色あせたまま貼られている。床のタイルは、朝の混雑の名残でわずかに靴跡が残っていた。長椅子に座る人々の中には、スーツ姿の若者もいれば、瑠衣と同じくらいの年頃の人もいた。 瑠衣はファイルを一枚ずつ手に取り、めくっていった。紙の表面はどれも少し湿り気を帯びていて、指先に薄く貼りつくような感触がある。広告代理店での経験を活かせる仕事。事務職。広報補助。資料整理。見出しの文字を目で追い、給与、勤務時間、勤務地の欄を確認しては、次のファイルへ手を伸ばす。棚の前を数歩ずつ移動しながら、同じ動作を繰り返した。フォントの大きさも、紙の質も、それぞれ少しずつ違っている。会社によって、求人票の作り方にも差があるのだと、瑠衣はぼんやり思った。 なかなか、条件に合うものが見つからなかった。近くの窓口で相談していた別の求職者の声が、途切れ途切れに耳に入る。子どもを連れた女性が、隣のブースで担当者と何か話し込んでいた。瑠衣は担当者のいる窓口へ向かい、腰を下ろした。「前職の経験を活かしたいんですけど、なかなか難しくて」「これまでの経験は十分ありますよ」 担当者はそう言いながら、画面に表示された求人をいくつか印刷してくれた。プリンターの排出音が、静かなフロアに小さく響く。瑠衣はそれを受け取り、また棚の前へ戻った。求人票を一枚ずつ手に取りながら、ゆっくりと歩を進めていく。窓の外では、駐輪場に自転車を停める人

  • 結婚式の端っこで、君と乾杯を   57話「自分で探す」

     退職して数日が経った。瑠衣はハローワークの窓口で、渡された求人票に目を通していた。蛍光灯の下、順番待ちの番号札を握ったまま、掲示板に貼られた案内をひとつずつ確認していく。壁際の椅子には、同じように番号札を持った人が何人も座っていた。誰かの子どもが、母親の膝の上で退屈そうに靴を鳴らしている。 窓口に呼ばれ、担当者の前に座る。持参した職務経歴書を差し出すと、担当者はページをめくりながら、ところどころで小さく頷いた。マウスを操作し、画面に条件を打ち込んでいく手つきは慣れたものだった。「経験はありますね」 担当者はそう言いながら、別の紙をめくった。求人票の束の中から、条件に近いものをいくつか選び出していく。「ただ、希望条件が……」「もう少し若ければ、というところもあって」 瑠衣は求人票の給与欄と勤務地の欄に、順番に目を通した。どれも、これまでの経験とはどこかずれがあった。担当者はパソコンの画面をもう一度確認し、別の業種の求人をいくつか印刷して手渡してくれた。紙の温かさが、まだ機械から出たばかりであることを教えていた。「こちらも一度、見てみてください」 瑠衣は頷き、頭を下げた。「ありがとうございました」 窓口を出て、外の光の中に戻る。手にした求人票の束を鞄にしまい、そのまま次の面接会場へ向かった。何件か面接を受けたが、返事はどれも似たような形だった。担当者の視線が履歴書の生年月日の欄で少し止まる、という同じ動作を何度か見た。面接室を出るたびに、瑠衣はエレベーターの中で自分の姿を鏡に映し、スーツの襟を軽く整え直した。落ち込むより先に、当面の生活をどうするかを考える必要があった。 スマートフォンでフードデリバリーのアプリをダウンロードし、必要な情報を登録した。自転車の後ろに配達バッグを取り付け、街へ出る。最

  • 結婚式の端っこで、君と乾杯を   56話「途中ですから」

     瑠衣は靴を脱ぎ、廊下を歩いた。廊下の照明は控えめな明るさで灯り、壁に映る自分の影が、いつもよりゆっくり動いているように見えた。今朝、同じ廊下を出勤のために通ったときとは、足の運び方がまるで違っていた。リビングのドアを開けると、灯がソファの端に座り、本を読んでいた。顔は上げなかった。ページをめくる音だけが、部屋の中に静かに響いている。「ただいま帰りました」 「お帰りなさい」  灯はそう答えたが、視線は本から離れなかった。瑠衣は鞄を床に置き、灯の向かいに腰を下ろした。革張りのソファが、体の重みでわずかに沈む感触があった。照明の明かりが、灯の横顔に薄い陰影を作っている。窓の外はすでに暗く、庭の木々の輪郭がガラスに滲んでいた。 瑠衣はしばらく、ソファの背に体を預けたまま動かなかった。何かを話そうとして、言葉が出てこなかった。喉の奥に、言葉になる前の何かが止まっているような感覚があった。灯も何も聞かなかった。ページをめくる指の動きだけが、規則的に続いている。時計の音と、紙の擦れる音だけが部屋を満たしていた。壁時計の秒針が、静かな部屋の中でひときわ大きく聞こえた。棚に並んだ本の背表紙が、間接照明の光をわずかに反射していた。  テーブルの上でスマートフォンが震えた。画面を見ると、真衣からのメッセージだった。開くと、スクリーンショットが一枚添付されている。梨香子のSNS投稿だった。  「今日、先輩が辞めました〜 お疲れさまでした!」という文字の下に、花束の絵文字がいくつも並んでいる。コメント欄には「お疲れさまです」「新しい道、応援してます」という言葉が続いていた。投稿には、いつもの梨香子らしい明るいスタンプも添えられていた。  瑠衣はその画面をしばらく見ていた。特に表情は変わらなかった。指先で画面をスクロールし、いくつかのコメントを目で追ってから、また最初の投稿に戻った。誰かが「次のステージも応援してます!」と書き込んでいるのが目に入ったが、それ以上読み進める気にはならなかった。画面の明るさだけが、薄暗いリビングの中でやけにはっきりして見えた。 スマートフォンを、テーブルの上に伏せて置いた。  置いた直後、今度は着信音が鳴った。父からだった。出

  • 結婚式の端っこで、君と乾杯を   55話「退職」

     朝、いつもより早くオフィスに着いた。エレベーターホールには、まだ数人しかいなかった。瑠衣は鞄の内ポケットから白い封筒を取り出し、もう一度指先で角を確かめてから、人事部へ向かった。 廊下を歩く足音が、いつもより大きく聞こえた。窓の外はまだ薄曇りで、ガラス越しの光が床にぼんやりとした線を描いていた。すれ違う社員に会釈をしながら、瑠衣は自分の歩調が普段より少し速いことに気づいた。 人事部のドアをノックする。中から返事があり、瑠衣は入室した。担当者はデスクの向こうで書類を整理していたが、顔を上げると笑顔で椅子を勧めた。 封筒を差し出す。担当者は中身を取り出し、目を通していく。ページをめくる指の動きが、途中で一瞬止まった。「そうですか……お疲れ様でした」 それ以上は聞かれなかった。担当者は表情をあまり変えないまま、手元のファイルを開いた。「最終出勤日は本日で、有給は残っている分すべて消化という形でよろしいですか」「はい」「社会保険の手続きについては、後日書類をお送りします。離職票の発送先は、今のご自宅で間違いありませんか」「はい、それで大丈夫です」 担当者はパソコンの画面に何かを入力しながら、次々と項目を確認していった。退職金の概算、貸与物の返却、最終給与の振込日。瑠衣はひとつずつ相槌を打ちながら、その声を聞いていた。窓の外で、誰かの話し声が遠く聞こえた。 説明が一通り終わると、担当者は手を差し出した。「社員証をお預かりします」 瑠衣は首から下げていた社員証のストラップに手をかけた。留め具を外す間、指先が少しだけ震えた。ケースから取り出し、担当者に手渡す。 担当者はそれを小さなトレイに置いた。カードの表面に印刷された自分の顔写真が、蛍光灯の光を反射している。入社したばかりの頃に撮った写真だった。今の自分より、少し硬い表情をしている。「では、これで手続きは以上です。長い間、お疲れ様でした」 瑠衣は椅子を

  • 結婚式の端っこで、君と乾杯を   54話「最後の確認」

     朝、いつもの時間に出社する。パソコンを立ち上げ、メールを確認する。新着はほとんどなかった。企画関連のフォルダを開いてみたが、更新は何もない。最終更新日の欄には、先週の日付がそのまま残っていた。  今日も、企画会議への招集はなかった。カレンダーには空白が続いている。瑠衣は自分のデスクの周りを見渡した。資料の山は昨日よりも減っていた。片付けるべきものが、もうあまり残っていない。引き出しの中を確認しても、急ぎで対応するべきものは見当たらなかった。フォルダのアイコンを一つずつクリックして、開いては閉じる作業を、しばらく繰り返した。デスクの端に置いたマグカップの底に、飲み残しの茶が薄く沈んでいた。  午前中は、後輩への引き継ぎ作業に充てられた。使っていたフォルダの整理方法、取引先とのやり取りのテンプレート、過去の資料の保管場所。ひとつずつ説明していく。後輩はメモを取りながら頷いていたが、途中から質問が減っていった。教えることがなくなっていくのが、自分でもわかった。最後に残っていたファイルの共有設定を変更し終えると、後輩は軽く頭を下げて自分の席へ戻っていった。  昼前、コピー機の前に立つ。頼まれた枚数を打ち込み、開始ボタンを押す。紙が排出される音を聞きながら、瑠衣は画面に映る自分の順番待ちの表示を見ていた。順番が来るまで、他にすることがなかった。排出トレイに積み重なっていく紙の枚数を、なんとなく目で数えていた。  自分の席に戻り、パソコンの画面を開く。カーソルが点滅するだけの、空白のドキュメントが表示されていた。キーボードに指を乗せたが、何も打たなかった。しばらくして、画面を閉じた。窓の外に目をやると、ビルの谷間を横切る雲が、ゆっくり形を変えていた。  昼休み、給湯室でお茶を淹れていると、背後から声がした。 「先輩」  振り返ると、梨香子が立っていた。手にマグカップを持ち、いつもより明るい表情をしている。 「はい?」 「今回のことで思ったんですけど」  梨香子は少し笑って

  • 結婚式の端っこで、君と乾杯を   5話「広すぎる静寂」

     目が覚めた瞬間、ここが自分の家ではないことを思い出した。  天井が違う。染みがない。高い。白い。  ソファで寝ていた。ベッドは二階にあったが、昨夜は上がる気力がなかった。体を起こすと、リビングの壁一面の本が目に入った。昨日からそこにあった本が、今朝もそこにあった。当たり前だった。  スマホを見た。会社からの着信が二件入っていた。上司の番号だった。折り返した。 「無理して来なくていいぞ」 「出ます」  少し間があった。 「そうか」  それだけだった。電話が切れた。シャワーを浴びて、スーツに着替えた。 株式会社オルビット・コミュニケーションズ。広告代理店。勤続六

  • 結婚式の端っこで、君と乾杯を   4話「書庫の家」

    駅前のベンチに座った。 キャリーケースを足元に置いて、スマホでホテルを検索した。最寄り駅周辺、今夜から、一名。画面に価格が並んだ。一泊八千円。一週間で五万六千円。一か月で……計算したところで閉じた。 ネカフェでもいい。足さえ伸ばせれば。いや、足を伸ばしたい。今日一日立ったり座ったり、笑い声を聞いたり無視されたり、それだけで体が限界に近かった。 ポケットから鍵を出した。 メモを見た。相沢灯。住所。知らない地名。 今日初めて会った人間の家の鍵が、手の中にある。状況だけ取り出すと相当おかしい。しかし今夜の選択肢を並べると、これが一番まともだった。「……行くか」 独り言が出た。誰もい

  • 結婚式の端っこで、君と乾杯を   2話「人生最悪の日、乾杯」

     招待メッセージを三回読んで、やっと気づいた。 "披露宴開始 13:00"  式の時刻が書いていない。私は披露宴にしか呼ばれていない。  駅から会場まで、十分ほど歩いた。招待状を持って、一人で歩いた。  歩いて、何度か立ち止まった。 (あれ、なんで私こんなことしてるんだろう)  もっと怒っていいはずなのに、邪魔しようと考えてもいいはずなのに。  それより心にあるのは"無"だった。  感情より足が動くことがあるんだな、と瑠衣は自分自身に感心していた。 (一番バカなのは、私かもしれない) 受付に並んで、順番が来た。 「江品家で招待されている、江品瑠衣です」  スタッフの女

  • 結婚式の端っこで、君と乾杯を   3話「鍵」

    「ブーケトスのお時間です!」 司会の声が会場に響いた。テーブルから立ち上がる女性たちの気配。瑠衣も立ちかけた。「お客様はご着席でお待ちください」 スタッフが笑顔で近づいてきた。丁寧な声だった。意味は一秒で理解できた。「……わかりました」 ブーケが空中を飛んだ。歓声が上がった。拍手が起きた。瑠衣の円卓だけが、切り取られたように静かだった。 しばらくして、真衣側の友人席から男が一人やってきた。グラスを持ったまま、ふらついた足取りで。酔っていた。「ねえ、君いくつ?」 瑠衣を見て、気さくに話しかけてきた。「二十九です」 男は数秒、止まった。「え」「二十九歳です」「おばさんじ

فصول أخرى
استكشاف وقراءة روايات جيدة مجانية
الوصول المجاني إلى عدد كبير من الروايات الجيدة على تطبيق GoodNovel. تنزيل الكتب التي تحبها وقراءتها كلما وأينما أردت
اقرأ الكتب مجانا في التطبيق
امسح الكود للقراءة على التطبيق
DMCA.com Protection Status