試食会は思ってた以上の盛り上がりを見せていた。 「お願いします」 次々とやってくる料理のオーダーは焦燥感を煽る。 けれど焦れば、火加減を間違えてしまう。 こんな狭間で戦う料理人の気持ちを思うと、毎日の食事に絶え間ない感謝が浮かんでくる。 (慎ちゃんは私になら出来るって言ってたけど・・・・・・) 量が途方もなく、とても終わりが見えない。 「交代しましょうか?」 そう願い出るシェフもいる。 でも慎ちゃんが私に任せた仕事なのだ。 「お気遣いありがとう。でも、私にやらせて欲しい」 彼とてプロ。本社の『クイーンパーチ』で腕を振るうのだから上澄みの一流だ。 私にそこまでの技量や実力はない。 頼れるのは感覚だけ。 「このマグロは、私がやります」 他の誰にも任せられない。 「何か手伝えることがあったら、言ってくださいね」 そして火入れが終わったマグロのコンフィを皿に盛り付ける。 「上がりました!」 ウェイターに渡して、また次へ―― 「香織」 私の肩をゆったりと包む手があった。 「忙しそうだね」 「思ってた以上に。ビックリよ」 厨房の端で遠くから眺める慎ちゃんに苦笑した。 「お客さんの反応、すっごく良いよ。特にこのマグロが」 「本当?」 まさかとは思った。 でも、疑うよりも証拠をと言い、慎ちゃんが各テーブルに用意していたアンケートを見せる。 ――この料理を海上で食べれることを楽しみにしています――アイザック・フネシュキー 「フネシュキーって、あのデザイナーの?」 名前を聞いて驚嘆してしまう。 フネシュキーと言えば、数多の工業品を手掛けてきたデザイナーだ。 美食家としても有名で、その彼がこのアンケートを直筆で書いて置いていった。 「今回のデザインコンペに彼は参加してないからね。まさにお忍びで来て、何も言わずに帰ったって感じ」 嬉しいを通り越して、現実味が無くなっていく。 「香織って、やっぱり凄いね」 「ううん。慎ちゃんのおかげ。ありがとう」 こんな機会を用意してくれた慎ちゃんが全ての発端で、私がこのレシピを作ったわけじゃない。 精一杯の感謝を込めて、私はゆっくりと唇を近づけていく。 「香織?」 「・・・・・・ありがとう」
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