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第38話 フネシュキーの悶々

作者: 宵更カシ
last update publish date: 2026-07-27 06:50:33

 レストランの案が決まった折、

「ナニかが足りないんでガスよ」

 綱島グループ本社の会議室で『アイザック・フネシュキー』は嘆いていた。

 数多の製品のデザインを手掛け、顎髭を蓄えて壮齢の巨匠……彼を知るものはそう呼ぶが、これでもまだ30代なのである。

 彼のデザインは、レッドカーペットに煌びやかで豪華さを出しながらも、暖色の照明で落ち着きを両立させた素晴らしい案だ。

 船上レストランに相応しい内装だと、私は思う。

「足りないというと?」

「こうモット、オーシャンという感じが足りないネ」

 両拳を胸元で揺らし、感情を乗せて彼は言う。

「海という感じか・・・・・・」

「船上レストランですものね」

 私も慎太郎も頭を捻るが、

「とても僕には思いつきそうにない」

「私も、かな。少し時間が欲しいかも」

 顔を見合わせて呟いてしまう。

 芸術を見るのは社交性として磨いてきたけれど、

 作るとなると話は別。

 特にその創作を売るとなれば、芸術的センスの他にも多くの人の感性に受け入れられるものを目指さなければならない。

 他者の感性を無視した創作など、所詮は自己満足に過ぎないと、商売を通して学んだか
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     レストランの案が決まった折、「ナニかが足りないんでガスよ」 綱島グループ本社の会議室で『アイザック・フネシュキー』は嘆いていた。 数多の製品のデザインを手掛け、顎髭を蓄えて壮齢の巨匠……彼を知るものはそう呼ぶが、これでもまだ30代なのである。 彼のデザインは、レッドカーペットに煌びやかで豪華さを出しながらも、暖色の照明で落ち着きを両立させた素晴らしい案だ。 船上レストランに相応しい内装だと、私は思う。「足りないというと?」「こうモット、オーシャンという感じが足りないネ」 両拳を胸元で揺らし、感情を乗せて彼は言う。「海という感じか・・・・・・」「船上レストランですものね」 私も慎太郎も頭を捻るが、「とても僕には思いつきそうにない」「私も、かな。少し時間が欲しいかも」 顔を見合わせて呟いてしまう。 芸術を見るのは社交性として磨いてきたけれど、 作るとなると話は別。 特にその創作を売るとなれば、芸術的センスの他にも多くの人の感性に受け入れられるものを目指さなければならない。 他者の感性を無視した創作など、所詮は自己満足に過ぎないと、商売を通して学んだからだ。 ならば、この案通りに出すのが賢明なのだが、『この中で一番素敵だったけれど、なんだかパッとはしない』『もう少し『海』を感じたい』『船上らしさがどこか足りない気がする』 アンケートにはそんな声があったのも事実。「やはりワタシではダメなのか」 と落ち込むフネシュキーさん。「そんなことないですよフネシュキーさん!」「うん。僕も素敵だと思いますよ」 骨が喉に刺さったような気持ちだった。 たった一つ足りない。それだけでこのデザインは未完成という烙印が押されてしまう。 なんとかしてあげたい。そんな気持ちが逸る。 海・・・・・・海。 私はハタと慎太郎を見た。「香織?」「私たちの地元。海沿いの街だった。出会った場所も」 私の言葉で、顔を見合わせて、「フネシュキーさん。帰国までどれくらいあります?」「わんうぃーく」「なら大丈夫だ」「何がでゲス?」 私は新幹線の手配をしながら「日本にはこんなことわざがあるんです。百聞は一見にしかずって」「だから見に行くのさ」 海を感じるのなら、一番良い場所がある。 私たちはフネシュキーを連れて、都会の喧噪を離れてい

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  • 豪華客船で棄てられた社長令嬢の私が、海を統べる剛腕御曹司(幼馴染)に溺愛されています   第34話 懇願と立ち向かう勇気

    「お願い! この通りよ!」 会社の裏手。 私を呼び出したのは、息を切らして走ってきた柊 奏であった。 しかも、私の前で幾度と頭を下げている。「あの、頭を上げてください」「上げられません! もう私にはこれくらいしかできませんから!」 このままだと変な勘違いをされてしまう。 そう思い、私はエレベーターに乗せて社長室に案内した。「ここなら誰にも聞かれませんから」 慎太郎にも告げず、ここを使って良いのか。 そんな戸惑いもあったけれど、「ごめんなさい。あんなところで」 と、奏は調子を取り戻したのか、腕を掴んで呟いた。「でも、コンペで大曲の案を採用しろだなんて、何があったんですか?」 私は裏手に連れ込まれた時に言われた話を思い出して尋ねる。(私に堂々と不正してくれなんて、確実に裏があるわよね) しかし奏は目線を逸らして、「言えない。でも、大変なことになるの!」 そう誤魔化してしまう。「大変なことって?」「それも・・・・・・あいつは言ってなかった」「あいつ?」「大曲 九郎の娘・・・・・・小町よ」 謎は深まるばかりで、ますます分からない。 でも、慎太郎が聞いたらきっとこう言う。「案に修正は・・・・・・ありません」 私はそう告げる。 やってしまえば、綱島グループの信用が失墜しかねない。 それは慎太郎が見放される何よりの理由になってしまう。「お願い! この通りだから!」 ついには床に頭を付ける奏。 すると、「細道から聞いて、戻ってきたよ」 社長室の扉が開いて、慎太郎が現れる。 私はドキリとして気まずい顔をした。「香織の判断は正しい。これは来てくれた皆が決めた案だ。不正はしない」 彼は私の横に座って、「よく言ってくれたね。ありがとう」 優しく撫でて、耳元で甘く囁いてくる。「とにかく顔を上げてくれ。それと、ここなら盗聴される心配もないよ」「え?」 驚いて躊躇い無しに彼女の身体をチェックした。 すると、スーツの裏から盗聴器がボロボロと落ちてくる。「こんなの誰が」「大曲 九郎に付けられました・・・・・・お願いです綱島様! どうかこの通り」 その姿は少し惨めにも思える。「何を言われようとも考えは曲げられない」 慎太郎が告げると、奏は顔を上げる。 その目に浮かぶ涙に、私は堪えられなくなってしまいそうに

  • 豪華客船で棄てられた社長令嬢の私が、海を統べる剛腕御曹司(幼馴染)に溺愛されています   第7話 没落の真実と信ずる者たち

    「私が慎ちゃんの秘書に?」 朝食を食べ終えた折りに、慎ちゃんは興奮気味に言う。「秘書になれば、ずっと一緒にいられるし、仕事に精が出る。勿論、タダでってわけじゃないよ? 細道」「こちらが秘書としての働いて頂いた場合の年俸になります」 額面を見て唖然としてしまう。 日野内グループの取締役を優に超えていたからだ。 けれど、私は秘書の経験もないし、むしろお願いしていた側。 慎ちゃんの仕事の足手まといにならないか心配で、表情が険しくなる。「仕事の事は心配しないで香織。細道もサポートしてくれるし、日野内のおじさんの元でやってた仕事と同じようにしてくれれば良いからさ」「そ、そう・・・・・

  • 豪華客船で棄てられた社長令嬢の私が、海を統べる剛腕御曹司(幼馴染)に溺愛されています   第3話 方舟の中で誓いは呼び起こされる

     大きな船の中に船で入って、「香織っ!」 パイプだらけの物々しい廊下を掛けてきたのは、一人の美青年。 どこか可愛げがあるけど、顔はまるで覚えていない。 でもこの声の感じ。昔どこかで聞いたことあるような。「オサ! 連れてきた」 私を連れてきた男が言うと、「ご苦労だったね。仕事詰めで疲れてるだろう。少し長めに休んでいいぞ」 優しく男達に促した。 目の前で起こり続けた事がまだ信じられない私は呆気に取られている。「どこか具合悪いかい?」「う、ううん。でもごめんなさい」 そして俯きがちになった私。 彼の心配そうな顔が下からから覗いてくる。「なんで謝るの? 何か悪いことしたか

  • 豪華客船で棄てられた社長令嬢の私が、海を統べる剛腕御曹司(幼馴染)に溺愛されています   第2話 海賊たちとオサの声

     冷たい海水から這い上がったとき、デッキからこちらを見下す二人と目が遭う。「ほらあそこ見ろよ。お前のために用意したボートだぞ」 ボートを見つけた私は必死に泳ぐ。 たどり着いて乗ろうとするも、手が滑ってなかなか上がれない。「がんばれがんばれ。早くしないとサメに食われちゃうぞ」「泳がないと餌になっちゃうよぉ香織ちゃん。サメさんも不味くて捨てちゃうかキャハハ」 ようやくたどり着いて這い上がる。 するとデッキでは二人は熱いキスを交わし、「ねぇ私が言った通りでしょう?」「あぁ。これで日野内グループは俺の物だ」「私たち、のでしょ」 手を振ったり、指を差したり――私の命を弄んで笑う。

  • 豪華客船で棄てられた社長令嬢の私が、海を統べる剛腕御曹司(幼馴染)に溺愛されています   第1話 舞踏会からの追放

     終わりという言葉がシャンデリアに照らされ、海原のクルーズ船はざわめきという荒波に揺られる。「私とは終わりって、どうしてなの純?!」「はぁ・・・・・・お前も察しが悪いな。お前よりイイ女が見つかったからに決まってるだろ」 『一条 純』がため息交じりに言う。 なぜなの。真っ先に脳裏を過ったのはそんな問い。「お前の親父の権力には世話になったよ。だが、それも今日までだ。散々、家族をコキ使って金稼ぎしやがって」 今日まで? 初めて見る彼の一面に驚きながらも、その含みのある言葉に引っ掛かる。「あらぁ? この子、何のことか分からないみたいよぉ純」「やっぱお前を捨てて正解だったわ。なぁ|羽

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