All Chapters of 銀の怪盗は真夜中に覚醒する: Chapter 41 - Chapter 50

63 Chapters

第41話 嫌な予感

後ろからの視線を何となく感じながらも、振り返らず机に突っ伏していた午後の授業。 いつも以上に何も頭に入ってこない。(アイツ、思いっきり目を逸らした、よな?)「……かわ!」「……黒川!」 先生に名前を呼ばれて、ハッとして立ち上がる。「……あ、俺っすか?」「お前……、ちゃんと授業聞いてたのか?」 少し蔑むような目で俺を見る日本史担当の山﨑。(聞いてない、全く)「……多分?」「……もういい、座れ」 頭を掻きながら、ハハッと苦笑いする。 ナオが呆れてこちらを見ながら、口を動かしている。(……バーカ!って、なんだよ) 教室の中も笑い声で少しざわつく。「……Zakiyama… Want me to rip every last hair out by the roots?」(……ザキヤマめ、髪を毛根から全て抜いてやろうか) 思わず小声で悪態をつく。「黒川、何か言ったか?」 あくびをしながら「何も?」と返した。 後ろでナオが爆笑していた。 俺はその後珍しく真面目に授業を聞いた。 放課後―― チラッと後ろを見る。 相変わらず、クラスメイトに囲まれてる空。「紫音、帰るのか?」 大地が声をかけてくる。「……ああ、お前は部活だろ?」「おう、寂しいのか?」「……んなわけあるかっ」 カバンを持ち、大地に手を振ってから教室を出る。「……スマホ、修理しないとな」 校門を出て、携帯ショップに向かった。◻︎◻︎◻︎ docoda店頭―― 店頭で修理の依頼を申込む。「……黒川様、ご名義はどちら様でしょうか?」「名義……?多分、黒川孝之?」「ご関係は?」「……父ですけど」(……色々面倒くせぇな) そんなこんなのやり取りをしながら、店員と話す。俺のスマホを預かった店員が申し訳なさそうに言ってくる。「あの……黒川様の機種なんですが」「……?」 店員が、タブレットをこちらに向ける。「少し古い型でして、部品交換が難しい状態なんです」「……は?」 思わず間抜けな声が出た。「データ移行して、本体の交換をご検討いただいた方が良いかと……」(マジかよ……)「ちなみに、修理費用は……」「画面交換だけでも、こちらになります」 表示された金額を見て、思わず顔が引きつった。「……高っ」「申し訳ございません……」 店
last updateLast Updated : 2026-08-19
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第42話 走馬灯?昔の記憶

 ランドセルを背負った小さな男の子が、こちらを見る。「……っ!!」 子供の腕を掴み、力任せに歩道側に引き寄せた。バイクはそのままスピードを落とすことなく真っ直ぐに向かってくる。 距離はわずかに10m。(……ダメだ、今度こそ死ぬ) ドクンッ 心臓の音だけが、やけに大きく響いた。 次の瞬間―― 目の前の景色が滲んだ。◻︎◻︎◻︎ 家の縁側、風鈴の音。 夏の香り、蝉の泣き声。 優しい声がする。『紫音、それ、そんなに気にいったのかい?』 麦茶を飲みながら笑う、じいちゃんとばあちゃん。『うん!!だってスマホだよ!色々なこと出来るんだよ!』 ばあちゃんは優しく笑いながら『ばあちゃんのお古で悪いけどねぇ』『……ううん、すっげぇ嬉しい!』『一生大事にするからね!ばあちゃん!』 昔の自分の声……。 ばあちゃんは嬉しそうに笑って俺の頭を撫でた。『優しい子だね、将来が楽しみだねぇ』『ほっほっ儂に似て、イケメンだしのぅ』『あらあら、おじいさんたら……』『ラーメン、つけ麺、儂イケメンー』『じいちゃん、それ古いよ!』 笑い声が頭に響く。(……ばあちゃんごめんな、一生大事に出来なかった) ――キキィィィィィィィィィィーッ  耳を裂くような音が、一気に現実へ引き戻した。 そのまま自分の身体が浮いた感じがした。〜空Side 〜 クラスメイト達からようやく解放された空は少し疲れて、ふうっと息を吐く。 前の席を見ると、紫音の姿はなかった。「……いない」(思いっきり目を逸らしちゃった……。変に思われたよね……)(……でも、屋上で見た姿は) 首をふるふると振る。(確かめもしないで、諦めるのは嫌!) ふと思いつく。「あっ部活なのかも?」 周りを見渡した空は、残ってるクラスメイトに声をかける。(あれ……この人、さっき紫音くんと一緒にいた人)「あの……」「ん?」「えーっと、長瀬くん?」(名札に気がつき名前を呼ぶ)「あ、そうだけど」「えっと、バスケ部ってどこで活動してるのかな?」「えっ?蒼乃さん、バスケ部興味あるの?」 大地が顔を輝かしながら、嬉しそうに尋ねる。「あ……うん、そうなんだ。下手だけどね」「そっかそっか!俺男子部のキャプテンやってるから、一緒に行く?」「……えっ?」 少しびっくりしながらも、空
last updateLast Updated : 2026-08-19
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第43話 私の名は――

 静寂―― 全てのバスケ部員が目を奪われた。「……すげぇ」 大地が興奮気味に言う。「……えっ?ま、まぐれだよっ」 空は戸惑いながら手を横に振る。「……んー、なんつーか、綺麗なフォームだった」 そして少し照れくさそうに、「俺の親友ライバルみたいに」と呟いた。(……それって) 大地に声をかけようとしたと同時に後ろから部員が声をかけてきた。「キャプテン、ちょっと見てもらっていいですか?」「あ、ああ、今行く」 大地は申し訳なさげに「……ごめん、蒼乃、気が済むまで見てってくれよな」 そう言って立ち去る。 空は軽く頷いた後、さっきの余韻に浸るかのようにゴールポストを見つめていた。〜紫音side 〜 ふと気がつくと、身体が浮いて……はなかった。 横断歩道にいたハズなのに、ここは一体どこなんだ? 真っ白な世界。 音もない、人もいない。ただただ同じ景色が広がっている。 周りを少し見渡した後、ふと誰かの気配を感じた。 振り返るとそこには一人の男が立っていた。 白いジャケット。 黒いインナー。 黒いパンツに、白いマント。「……えっ?」 鏡かと思い、思わず自分の姿を見る。特に変わった様子はない。 いつも騒ぎ出すログチーも何も言わない。 (何かがおかしい?) てか、俺と目の前にいる男だけがいる世界……みたいな。 男の顔はよく見えないが、どこかで見たような気もする。 男がこちらを見ている。 思わず俺は男に尋ねた。「……俺は死んだ……のか?」(特にどこも痛くないけど……) 男は答えない。「……てか、お前、誰なんだ?」 男の口角がゆっくり上がる。「……銀の怪盗」「は?」 わけがわからず呆然とする。 男は続けて言う。「私は、銀の怪盗アルジェントだ……」「……アルジェント……って」 聞いたことがあるような………? 数秒考えて――「……アルジェントって、まさか――」「……」「誰だっけ……?」 男がガクッとよろける。「私は世間を騒がす伝説の怪盗、アルジェント……」「……いや、名前アピールはもういいって。よく知らねぇし」(なんか面倒くさいな、このおっさん)「……」 静かな空間に無言の時間が流れる。「ゴホン、ゴホン」 アルジェントが咳払いをする。 思わず口を押さえながら言う。「……風邪かよ
last updateLast Updated : 2026-08-20
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第44話 両親の温もり

自宅―― 「ただいまっ……と」 靴を脱ぎ、ダイニングを覗くと、なぜか母さんが怒っている。 「紫音……おかえりなさい」(何だ……?この威圧感) 今日は珍しく父さんもソファーに座っている。「お、今日唐揚げじゃん!」 匂いにつられて、テーブルを見た。「紫音!」     母さんが、怒った様子で名前を呼ぶ。「……わかってるって、ちゃんと手を洗ってくる……」 言い終わる前に、母さんが静かに話す。「後でいいからとりあえず座りなさい!」   (なんか、すっげぇ怒ってる?) 母さんが目の前に、今日の夕刊を置いた。「これは何?」「ん?」「……新聞?」 俺は首を傾げる。 溜息をつきながら母さんが、新聞の一部をトントンと指で叩く。(……たくっ、何なんだよ) 指で差された場所を見る。「……っ!?」「……見た、わね?」 新聞の一面に『謎の高校生の救出劇』 思わず目を見開く。(まずい、映ってる!)「……はは、何か俺みたいなのが、映ってる……に、似てるな」 母さんが、テーブルをバンッと叩く。 思わず、ビクッとなる。「お母さんが息子の顔を間違えると思う?」 真っ直ぐに俺を見つめてくる。(……うっ) 誤魔化すように視線を逸らす。「……よ、世の中にはさ?よく似た人が3人いるってよく言うじゃん?」  そう言った瞬間、畳み掛けるかのように「じゃあ、残りの2人を連れてきなさいよ」「は?」「……そんなの無理に決まってんじゃん!」「父さんには4人いるぞ?」  横で、父さんがよくわからないことを言う。 母さんが睨む。「あなたは黙って!」 「はい」「ああ、でも探すの大変だぞ?」  母さんが再度父さんを睨んだ。「じゃあいい加減認めなさい!」「いや、おかしいだろ!!」(俺なんだけども……)    父さんがフォローにならないフォローをする。「紫音、おかしい時は笑えばいいと思うぞ?」 「そのおかしいじゃねぇし!」 母さんが、ふぅと溜息をつく。「紫音……」「お母さんほんとにほんとに心配したのよ?」「お願いだから……危険なことはしないでほしいの」「……ねっ?」 視線を下に向けたまま頭を掻く。 手は無意識に鞄を開けていて、例のスマホが鞄から落ちた………「……っ!?」(やっべー!!) 慌てて背中に隠すが、既に見
last updateLast Updated : 2026-08-22
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第45話 ざわめく気持ち

 散々叱られた後、ようやく夕食にありつけた。 唐揚げは少し冷めていたけど、今まで食べた中で一番美味かった気がした。「ごちそうさま」 そう言って、シンクに食器を運ぶ。 母さんはホッとしたように微笑んだ。「……じろじろ見んなよ、ったく」 照れ隠しをするように軽口を叩く。「はいはい、さっさとその汚い身体洗ってきなさい!」 母さんがあしらう様に返す。(……いつもの母さん、だな) 風呂に入って自室に戻る。 ベッドに横になり、今日一日あったことを思い出す―― 蒼乃、空か…… 運命とか、また会えたねとかなんとか嬉しそうに言ってきたと思ったら、いきなり無視かよ……何なんだよ一体!?訳がわからん。 佐伯にしたって、あんな言いづらいことなんでわざわざ俺に話したんだ? アドバイスを求めていた……とか?思うのは自由でしょ……って、 まあ誰が助けたかとか勝手に思うのは、自由に決まってるけどさ…… 女の子ってやっぱよくわかんねぇな。 頭をぐしゃぐしゃっと掻く。 左手を天井に向けて上げる。 目を細めながら、夕方に起きたことを思い出す。 夕方の映像ビジョン 目の前で燃えてたバイク。 子供が震えていた感触。 そして怪盗アルジェント―― 考えるのをやめようとしても、頭の中には、アルジェントの姿が何故か消えない。 目を閉じる。 ――黒川、紫音。 ハッとなり、ベッドから起きる。「そうだ!なんで俺の名前知ってたんだ?」 面識なんてない。 俺がただ覚えていないだけ、なのか?「……全然わからん」 小さく呟きながら、枕に顔を埋うずめるその時――コンコン。(ノックの音))「紫音ー」 ドアの前から母さんの声。「……何ー?」 眠そうな声で返事をする。「大地くんから電話よー」「……は?」 思わず布団から顔を出す。(何故に家電?) 机の上の割れたスマホが目につく。「あ」「……忘れてた」 母さんが呆れたようにため息をつく。「とりあえず早く出なさい。めちゃくちゃ心配してるわよ?」(……大げさなんだよ、アイツ) 面倒そうに立ち上がり、階段を降りる。 リビングに入ると、母さんが受話器を差し出してきた。「ほら」「……」 受話器を耳に当てる。「……もしもし?」『おい紫音!!』 電話口からデカい声が漏れる。 思わず耳
last updateLast Updated : 2026-08-30
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第46話 抑制できない

「紫音、どうしたの?」 電話を切った後、母さんが心配そうに声をかけてくる。「別に。もう寝るから……おやすみ!」 母さんが首を傾げる。父さんは腕を組みながら、真剣な顔で頷く。「なるほど……」「え?あなた、何かわかったの?」「紫音は今、思春期第二形態なんだ」「……第二形態?」「第一形態は反抗。第二形態は無言。第三形態になると、急に母親に優しくなる」 背後から聞こえる意味不明な会話に、俺は廊下で足を止める。(……何言ってんだ、あの親父) すると父さんがさらに続ける。「気をつけろ!第三形態は突然来る……」「言ってることが、よくわからないわ?」「最終的には、ちょっと高い羊羹とか買って帰ってくるかもしれないぞ」「羊羹?万年金欠の紫音あのこが?」 ブチッ……「……うるせぇぇぇ!!」 思わずリビングに向かって叫んだ。 父さんがボソッと呟く。「まだまだ、多感な年頃だなぁ」◻︎◻︎◻︎ 自室―― ベッドに横になるが、眠れない。(クソッ何でこんなにイライラしてんだ俺……)「……ログチー」 時計に向かって無意識に話しかける。「……なあに?シルバー、もう眠いんだけどぉ」(相変わらず呑気な奴……)「……このままじゃ寝れねぇ」「え?シルバー出勤?」「は?別にシルバーは…」 言い終わる前に、既にシルバーに変わっている。 呆れたように額に手を当てる。「……お前な」「えっ?違うの?」「まあ、違わねぇけどさ」「んー?」「いや、部屋覗かれて、俺がいなかったら、また面倒くさい気がして……」 ログチーは首を傾げながら尋ねる。「シルバー、アレまだ使わないの?」「……アレ?なんのことだよ?」「アレだよアレ!クロノスさんの!」「……?」 ログチーが前にクロノスにもらった説明書を見せてくる。「……何だよ」 面倒くさそうに説明書に目を通す。「……分身。ん?……分身!?」「そう、それ!それってさぁ……」「コピーを作れるってことじゃないの?」「……マジ?」 ピアスに手を当てて、分身を思い浮かべる。(やり方合ってる、のか?)「……何の反応も……」「……!?」 視線を下に向けると、俺とそっくりの顔が、何故か目の前で土下座をしている。「……出てきてすみません」「は?」 思わず固まる。「……ブフッ」「あはは
last updateLast Updated : 2026-09-02
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第47話 相反する二人の俺

 翌朝―― カーテンから入る日差しで目が覚める。「ふわぁぁぁっ よく寝たーー」 ベッドから起き上がり大きく伸びをする。「ん……?」(何だ?この違和感?) ふと視線を左に向けると――「……っ!?」 隣で俺(?)がスヤスヤと寝息を立てている。「は?」「……はあああぁぁぁぁん?」 俺の叫びが部屋中に響く。「……シルバー、うるさい!」 時計からログチーの声が聞こえる。「いやいやいやいやいやいや……」(落ち着けるハズがない……) 一旦、頭の整理をしてみる。昨日ピアスを使って分身にせものを出した。で、シルバーになって散歩した。戻ってきて、疲れてそのまま寝た。  朝起きたら、俺にせものがいる。←今ココ「分身コピー!!消してなかったーー!!」「……てか、どうやって消すんだ?」 腕を組みながら、首を傾げる。 とりあえず、気持ち良さげに眠る自分にせものを見てちょっとイライラした。「おい、起きろ!俺にせもの」「……ん」 目をこすりながら分身にせものが起きる。「シルバー様、おはようございま……」 言い終わる前に分身にせものは、ハッとなり、ベッドから降りて土下座する。「寝ていてすみません……」 俺は深いため息をつき、若干イラつきながら「それ、とりあえずやめろ!」「なんかすっげぇ凹むわ!」「……あとさ」「もう出番やくめ終わったし、帰ってくんない?」 そう伝えるとなぜか、分身にせものは、首を横に振った。「は?」「いやいやいや、言い方か?」「俺の言い方が悪かったのか?」 頭をボリボリと掻く。「えーっと、ありがとうございました。そろそろ消えて……いや、戻ってもらえませんか?」 分身にせものは、そんな俺の言葉を無視し、何故か学ランに着替えている。「ちょ、ちょっと待て!」「何してるんだよ!それ、俺の制服」 分身にせものは、ニッコリ笑って部屋を出ていった。「は?」「……はあああぁぁぁぁん?」「紫音ー?」 階下で母さんの声がする。 思わず両手で口を塞ぐ。「……あら、紫音おはよう、何かあったの?」どうやら分身にせものを俺だと思ったみたいだ。(クソッ、どうする?)「とりあえず、消さないと……」  クロノスの説明書を読む。「えーっとなになに」 分身は時間を設定しなければ24時間消えない。もしくは頭に気絶
last updateLast Updated : 2026-09-03
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第48話 俺じゃないのに……

校門前――  俺は茂みからそっと様子を伺っていた。 (……俺、何やってんだろ) 小さく息を吐く。 校門を見ると、分身《にせもの》と大地が、中に入って行くのが見えた。「……よし、行くか」 周りを見渡してから、そそくさと中へ入る。 人通りの少ない場所を通り、屋上へ向かった。屋上――  冷たい風が吹いている。今のところ周りには誰もいない。 屋上から下を眺める。「落ちても……まあ、死にはしねぇだろ、多分……」「……いや、普通に怖ぇ」 顔を左右に振りながら、顔を叩く。「……シャッ」 チェーンを引っかけながら、そろそろと降りて行く。 ログチーがポケットから顔を出し名前を呼ぶ。「シルバー」「何だよ?」「落ちないでね?」「……」「縁起でもないことを言うな!」 ログチーが続けて話す。「ママさん、泣いてたでしょ?」「心配かけたらダメだよ?シルバー」「……わかってるよ」 俺は小さく返事をした。 3階2ーA付近――  足場は狭いものの、ゆっくりと外側から怪しまれないように、窓を拭いた。 中をそっと覗く。(うわ……よりによってザキヤマの授業かよ)  ヒヤヒヤしながら様子を伺う。「……珍しく起きてるな、黒川」(よりによって当てられてるし……)「はい!先生の授業、とても為になります」 笑顔で分身《にせもの》は答えた。 ゾクゾクッ 何だよ、その顔……気持ち悪っ「ん?」(何だ……?教室の様子が?)「……く、黒川、聞いてるならいい」(なんだ、黒川が可愛い……キュン……) クラスの女子達(……何、今の笑顔……キュン……)「キャー!斎藤さんが倒れたわよー」「……先生、谷口くんが鼻血出してます!」 …………(なんじゃそりゃあああああ?) 思わず叫びそうになるのを抑えた。「……シルバー、普段笑わないのも考えものだねぇ」「いや、関係ねーだろ!」 無意識に、空に目が行く。 空は真っ直ぐ前を見ている。(なんだよ、その顔)(みんなも、なんだよ……気づけよ!) 身体から力が抜けたように、手から雑巾が落ちていった―― 「シルバー、大丈夫?ねぇ?」 ログチーが心配そうに尋ねてくる。「……なんか、疲れた」「えっ?」「帰る……」「……シルバー?」 チェーンを使って屋上に戻る。 何とも言えない気持ちのま
last updateLast Updated : 2026-09-04
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第49話 哀しい笑顔

遠くから、グラウンドの掛け声が聞こえる。 空は膝を抱えたまま、こっちを見て、小さく笑う。「……変だよね、私」「そんなことで落ち込むなんて」「いや……」 俺は頭を掻きながら、空を見る。「別に、変じゃないだろ……」「……っ」 空が少し驚いたようにこっちを見る。「気になる相手が、誰にでも優しいとか」「……そういうの、嫌だよな」「俺は……そんな器用なこと出来な――」」 そう言おうとして、口を押さえた。(俺は何言おうとしてんだ……) そんな俺を見て、「お兄さん、優しいね……」と 空がふわっと微笑んだ。「……っ」 帽子を深く被る。 空がこちらをじっと見ている。「……そんな見られたら穴あくから」「ふふっ、照れ屋なんだ、お兄さん」「……べ、別に」「お兄さんの声ってさ……」「……何か癒されるね」 空が小さく呟く。「……っ」 急に照れ臭くなり、俺は思わず立ち上がる。「悪い、そろそろ戻らないと……」「あ、ごめんなさい、お仕事の邪魔して…」 空は申し訳なさそうに俯いている。 俺は首を左右に振る。「……全然、どうせいつもサボってるし……」「気にすんな」 そう言って、無理やり笑った。(なんか哀しそうな笑顔……目が離せないのはどうして……?) 空は、その背中を、しばらく黙って見つめていた――  校舎裏―― 人気のない通路を、俺は無言のまま歩いていた。「……シルバー?」 ログチーが心配そうに顔を覗く。「……なんだよ」「元気ない」「別に……普通」「シルバー、やっぱりその格好だから決まらないとか?」「昼間からコスプレするとか無理……」「正装だってば!清掃だけに」「………」「全然笑えねー」 ログチーは、少しムッとして、俺の服の中に入る。 「ん?」 モゾモゾと動くログチー。「っオイ!やめろっ!ひゃいっ」「くすぐってぇから、あははっ」 ログチーがピョコっと顔を出す。「シルバーがやっと笑った!」「……っ!」「う、うるせぇよ……」「でも……」「ありがとな、ログチー」 無意識にログチーの頭を撫でる。「シルバー、赤くなってる」「なってねぇ!」 無意識に帽子を深く被る。「あはははははっ」「……帰るか」 そう呟いた時、目の前に誰かの人影が見えた。 視線を上げる。「ちょっと、アナタね
last updateLast Updated : 2026-09-05
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第50話 意外な一面

 校舎の端で、ひたすら落ち葉を掃く。 掃いては捨て、掃いては捨ての繰り返し。「……はぁ」(何やってんだ俺……) 隙を見て逃げる算段だったが、桐生がずっと監視してやがる……。「……クソッ」 ログチーが服の中から囁く。「シルバー、貞操の危機だね」 ゾワッと背筋が冷える。「縁起でもないことを言うな!」「サボらず、さっさとやんなさい!」「は、はひっ」 俺の必死さなのか、桐生の押しに負けたのか、落ち葉まみれだった校庭が見違えるほどに綺麗になった。「あら、アナタ、やれば出来んじゃない」「……ま、まあ……」(お前だろ!お前がずっと監視してたから!) 暑さに耐えきれず、上着を脱ぐ。汗でシャツが肌に張りつく。「ん?」 何か、視線を感じる。「……ッ!?」 桐生が俺をマジマジと見ながら「アナタ……身体までイケてるわね」「✕〇※▽〜✕※※!?」(さらば……俺の貞操)  観念したように俺は目を瞑る。「ほら!」「……ん?」 そっと目を開けると、手作りと思われるおにぎりが目の前にあった。「アナタ、お腹すいてるでしょ?」 桐生は今までみたことないような笑顔で「よく、頑張ったわね」「見直したわ、派遣青年!」 背中をバンバンッと叩かれる。 目の前のおにぎりを口にする。「……うまっ」 桐生は少し照れくさそうに視線を逸らす。「それ食べたら帰っていいから、ちゃんとサボらずにまた来なさいよ」 お茶のペットボトルを置いて、桐生はその場から居なくなった。「てか……俺はその派遣社員ではないが……」 空を見上げる。 少しだけ、ほんの少しだけだけど、気持ちが落ちついた。 おにぎりを食べ終え、お茶を飲む。「……ふぅ」 その時だった。 ――バタバタバタッ!! (なんだ!?)「紫音ー!」 聞き慣れた大地の声。「っ!?」 俺は反射的に顔を上げる。 校舎裏へ飛び込んできた大地は、息を切らしながら、俺を見る。「あ、すんません」「こっちに、俺よりちょっとだけ……?いやいや、俺ぐらいの黒髪のイケメン、来ませんでしたか?」(……自分でイケメンて……バカだな、コイツ)「さ、さあ?ここでは見ていない…な」 誤魔化すように帽子を目深に被る。「はぁ……」 大地がため息をつく。「どこ行ったんだよ、たくっ」 俺の視線を感じてか、そ
last updateLast Updated : 2026-09-07
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