All Chapters of 銀の怪盗は真夜中に覚醒する: Chapter 51 - Chapter 60

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第51話 騒動の終焉

※冒頭に少し過激な描写があります。お食事中の方はお気をつけください。 俺は口元を押さえ、全速力で校舎へ駆け込む。 そう……。 ひたすらトイレを求めて――「う、ぐっ……」 視界が乱れ、頭がクラクラする。 喉の奥まで、一気に酸っぱいものが込み上げてくる。(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!) 真っ青な顔をしながらひたすら走る。「シ、シルバー!?」 ログチーが慌てて服の中で暴れる。「んん、ん…んな!」(今、喋んな!) 階段を飛ばし、トイレへ直行。 バンッ!! 個室のドアを閉めて、そこにある便器と向き合った瞬間――「おえぇぇぇぇぇ……!!」「うわぁ……」 ログチーがドン引きした声を出す。「んるへぇ……」(うるせぇ……) 俺は便器に突っ伏したまま、荒い呼吸を繰り返す。(ま、間に合って良かった……) 割れそうな頭の痛みと、吐いたのにまだ胃がムカムカしていて気分は最悪。「……はぁ……はぁ……」「分身なんか……もう二度とやらねぇ」 拳を握りしめながら、俺は誓った。 そして、第二波が来る。 相手がログチーとはいえ、俺は最悪の瞬間を晒してしまった。◻︎◻︎◻︎ どれぐらい時間が経ったんだろう。 便器に突っ伏していた俺は、ようやく個室から脱出した。 分身も消えたので、俺は誰もいないことを確認し、「revert」と呟く。 ふと、鏡に映った自分を見る。「アレ?」 疲れた顔をした俺がいつもの制服を着ている。「なんで……?分身が着てたハズじゃあ?」 ログチーが時計の中でケラケラと笑う。「そこはオレのチカラに決まってんだろー感謝したまえ、シルバー!」 口を開かずに俺は返す。「調子乗んな!」 ログチーは沈黙した。 トイレを出て、夕方の校舎内を歩く。 カバンを取りに教室へ向かった。 教室前―― 中を覗くと誰もいない。(ホッ……) そそくさと中に入り、カバンを取る。 少しだけ安堵したため息が漏れた。「さて、帰るか!」 教室を出た瞬間―― 目の前に桐生が立っていた。(……なんだ、この既視感?)「黒川……見つけたわよ?」「は?」 無意識に身体が萎縮する。「今日という今日は、逃がさないわよ?」 桐生がニヤリと笑う。 膝から崩れ落ちる俺。 頭を押さえながら、俺は脳内で叫んでいた。 なんて日
last updateLast Updated : 2026-09-08
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第52話 度重なる災難

「あら、またこんなところで寝てたのね」 母さんが笑っている。「由紀子に似て可愛い寝顔だなぁ……」 子供の頃の、夢……? 遠くで声が聞こえた―― どれくらい眠っていたんだろう。 ぼんやり目を開けると、父さんが俺を背負っていた。「……っ!」「ん?起きたのか?」 背中が温かい。 なんだか懐かしい気持ちになる。「……父さん」「ん?」「あのまま放っておいてくれて良かったのに」 掠れた声で言う。「ん、まあな」「でも、やっぱり布団がいいだろう」「父さんは枕が変わると眠れないんだ」「……」「……じゃあ、自分で行くから降ろせよ」「んー?たまにはいいんじゃないか」 父さんは、はははと笑う。「……もうそんな子供《ガキ》じゃねぇし」「いくつになったって、お前は父さん達の子供だ…辛い時は甘えればいいんだ」 父さんが珍しく真面目なことを言うからなんだか照れ臭い。「……腰痛めんぞ?」「それはマズイな?母さんが泣くかもしれない」「は?意味わかんねぇし、てか降ろせよ!」 母さんが後ろから呆れた声を出す。「二人とも、夜中に騒がないの!」「ほら、母さんに怒られたじゃないか!」「俺のせいかよ!」「もうあなた達、いい加減にしなさい!」 結局母さんが一番うるさかった。 自室―― 結局俺はそのまま父さんに背負われたまま部屋のベッドに横になる。 父さんと母さんがこっちを見ながら小さく「おやすみ」と呟いた。 翌朝――「……ん」 時刻は6時半。 珍しく目覚ましが鳴る前に目が覚めた。 身体はまだ少し重い。でも胃の気持ち悪さは消えていた。ベッドの上でぼんやり天井を見る。 ふと、昨日のことを思い出す。 分身《ニセモノ》のこと、桐生のこと、大地の言葉、そして蒼乃―― 無意識に顔を覆う。「黒歴史とはこういうことか……」 枕に顔を埋めながら呻く。 その時―― コンコンとノックの音。「紫音ー?起きてるー?」 母さんの声。「……起きてる」 母さんがドアを開けて、俺の顔を見る。「……顔色、今日は良さそうね」「着替えて、早く降りてらっしゃい」「……わかってる」 ベッドから起き上がる。 制服へ袖を通す。ボタンに手をやる。 昨日、分身《ニセモノ》がきっちり留めていた制服。「……」 俺は、珍しく第二ボタンまで留めた。「…
last updateLast Updated : 2026-09-10
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第53話 不穏なメッセージ

 人生にはどうしても避けられないことがある。 父さんが昔そんなことを言っていた――「紫音、人生には三つの坂があるんだ」「三つの坂?」「そうだ、人生を表す三つの坂だ」「聞きたいか?」「いや、別に……」 父さんは、そんな俺の言葉を無視して続ける。「ひとつは上り坂、順風満帆を表す。 ふたつめの下り坂はさっきとは逆で物事が上手くいかない時だ。そしてみっつめは――」 そう、そのまさかだ。 想定外なことが起きること。  俺が白雪姫になるとか、さ 想定外すぎるだろっ!! 絶対におかしい。何度考えてもおかしい!! 俺は男だ!なんで白雪姫なんだ!誰か説明してくれ!! 机に突っ伏したままの俺に、大地が声をかけてくる。「紫音、顔死んでるぞ?」「……むしろ死んだほうが幸せかもしれねぇ」「重っ」 横にいたノブが吹き出す。「まだ引きずってんのかよ」 ナオが笑う。 俺は机に顔を押し付けたまま答える。「一生引きずる」 三人が一斉に爆笑した。「そんな嫌か?」 ナオが呆れたように言う。「嫌に決まってんだろ!」 勢いよく顔を上げる。「お前ら想像してみろよ!」「学年全員の前で!さらに絶対親も見にくる……」「白雪姫の格好させられる、俺!」 ノブが腹を抱えて笑う。「似合いそう」「黙れ!」「てか、昨日のお前可愛かったしな」「それは俺じゃな――」 そう言いかけて、言葉を濁す。「……いや、俺だな」「大丈夫か?紫音」 大地が首を傾げる。 説明出来る訳がない。分身が勝手に引き受けました、なんて……「はぁ……」 再び机に突っ伏す。 こうなったら分身を身代わりに——  いやいやいや、無理だろ!また新たなトラブルになりかねない…… 頭をガシガシ掻きながら、机に突っ伏してる俺に、ナオがトドメを刺した――「紫音……」「なんだよ」「王子役とのキスシーン頑張れよ」「は?」 状況が読み込めず固まる。「……今なんて言った?」 ノブがニヤニヤしている。 ナオが続ける。「だからキスシーン」「白雪姫は王子様のキスで目覚める」「はあああああ?」 拳に力が入る。 俺は少し殺意を込めながら呟いた……「滝沢(担任)殺す!!」 その時だった――「あれ……?」 教室の空気が少し変わる。 声のした方を見る。 白石だった。
last updateLast Updated : 2026-09-11
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第54話 不在の学級委員

 教室に戻ると、妙な静けさが漂っていた。白石を見ると顔が真っ青になっている。 さっきのメッセージと何か関係があるのか? 俺はポケットの中のカードを握りしめた。カードの熱が、まだ指先に残っている。 そうこう言ってる間に一限目が始まる。 一限目は誰の授業だっけ? 教室に入ってきたのは日本史担当の山﨑《ザキヤマ》だった。 (またお前かよ!) 目線が合わないよう視線を逸らす。 逸らした先には白石が見えた。何となく具合が悪そうに見える。 (まあ、俺が気にする必要もないんだけど) ふとため息をつき、目線を前にやると山﨑《ザキヤマ》と目が合った。 (げっ!) 無意識に眉をひそめる。 が―― 山﨑《ザキヤマ》はこっちを見て赤くなっている。 気持ち悪っ 背筋がゾクゾクと悪寒が走る。 再度視線を逸らす。 視線の先は空席。 あそこなたしか、坂中の席…… でも当の本人はいない―― 坂中って目立たないけど、毎日来てるイメージだったのに。 まあ、たまには休む日もあるか…… 重い瞼をどうにか押し上げながら、授業を真面目に受けた。 昼休み―― 昼飯をいつものメンバーで食べる。「おっ!紫音、今日唐揚げ入ってんじゃん!もーらい!っと」 ノブが、俺の好物の唐揚げを奪う。「コラッ!取るなよ!仕返しだ!」 そう言って、ノブの卵焼きを奪う。「美味っ!」「うまい!」 お互いに言う。「お前ら、静かに食え!」 ナオが呆れ顔で言う。「ははっ」 ふと大地を見ると、珍しく弁当に手をつけずに一点を見つめている。 視線の先には、白石がいた。「大地、食わねーのか?」 声をかける。「あ、ああ……今から、食う……」 (このヘタレめ、これは俺が人肌脱ぐしかないのか?)  大地だけ聞こえるように耳打ちする。「気になるのか?白石の様子」「……っ!?」 図星をつかれたかのように真っ赤になる大地。 (わかりやす……)「お前、話しかけてこいよ」「いやいやいや、無理!」「一緒に行ってやるから、さ」 大地はコクコクっと嬉しそうに頷いた。 ノブとナオがニヤニヤしながらこっちを見ていたが、無視して二人で白石の元に向かった。「白石」 声をかける。「……黒川くん……と長瀬くん」 やっぱり顔色が悪い。「ちょっと外で話さねぇ?」 三人で、中庭
last updateLast Updated : 2026-09-12
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第55話 二人の距離感

 腕時計からログチーの声がする。「シルバー、あの場所って、あそこだよね?」「ああ……」 さらに話を続けようとした時――「……誰と話してるの?」 後ろから声が聞こえた。 振り返るとそこには、蒼乃がいた。「……蒼乃」「ど、どうした?」 誤魔化そうとして、思わず声がうわずる。「えっと……探してたの。紫音くんを」「……俺を?」 二人で中庭のベンチに座る。 腕時計から、ログチーが話かけてくる。「シルバー、何やってんのさ?イチャイチャしてる場合じゃないよ?」「……っ!し、してねぇし、黙れ!」 小声で返す。「紫音くん……?」 名前を呼ばれて横を向くと、空の顔がすぐ側にあった。「……っ!」「ちょ、近いから!」 距離を取るようにベンチの端にズレる。 口元に手をやりながら、空を見ると俺を真っ直ぐに見ている。 そして、笑う。「今日は、紫音くんだね」「は?」 意味がわからず、変な声が出た。「昨日……何か違ったし」(昨日……?あっ……あれか) 頭を掻く。「昨日の俺は……忘れろ!」「ぷっ」「笑うな!」 昨日の屋上でのことを思い出す――『仲良くなりたい人がいるの』「……」『お兄さんの声、癒されるね』「……癒される、か」「ん?何か言った?」「いや、何も」 空が、クスッと笑う。「……なんだよ」「何でもないよ……ただ」「ただ?」「ううん……何でもない」「なんだそれ」 ため息をつく。 そろそろ行かないと……「蒼乃、わりぃ」「俺、ちょっと用事あるから行くわ」「あ……うん」「紫音くん……もしかして」 空が俺を見て、すぐに視線を逸らす。「……それって――」「ん?」「……ううん、何でもないっ」「……変な奴」 俺は、空に背中を向け周りに誰もいないことを確認し、ピアスに手を当てた。あの場所、アルカへ――〜空side〜 昼休み―― 今日は絶対に紫音くんと話したい! クラスメイトに声をかけ、教室を出る。「どこにいるのかな……?」 屋上に行ってみるが、姿は見当たらない。中庭を探す。 中庭で彼の声がした。声がした方向へ。「……誰と話してるの?」 紫音くんが驚いたようにこちらを振り向く。「……蒼乃」「ど、どうした?」 何か慌ててるみたいだけど、いつもの紫音くんだ。何だかホッとする。「
last updateLast Updated : 2026-09-13
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第56話 食うか、食われるか

 俺は今、アルカにいる。そう、あのコミュ障男《クロノス》の店。 てか、なんで俺はこんなところで大量の皿洗いをさせられているんだ? 意味がわからん。 腕時計はもちろん外している。水でバグられても困るしな…… スポンジの泡が目に入る。「……くぅ」 こんなことやってる場合じゃないのに……「ああっ!クソッ!終わんねー!!」「てか、食器洗浄機買えよ……」 皿を一枚、さらに一枚と洗っていく。 水が冷たくて、手が悴《かじか》む。「あと少しか……きっつ」 指の痛みを我慢しながら、ただひたすらに皿を洗った。 気づくと後ろにクロノスが立っていた。「……っ!?」 「俺の背後に立つな!!目で殺す気か?」 なぜかクロノスの口元が緩んでいる。「キモ!」 そう言うと、クロノスは少し暗い顔をする。「……相変わらず面倒くせぇ奴だな」 クロノスが静かに呟く。「……終わったらこっちへ来い」 それだけ言って、クロノスはカウンター側へ戻って行った。 その後、店内―― 大量の皿洗いを済まし、クタクタになりながらカウンターに座る。 クロノスに声をかけるが、何も言わない。 カウンターからバターのいい香りがする。気づくと目の前には大盛りのオムライスが置かれた。ソースには『ありがとう❤︎』と描いてある。 ゾワゾワ……。思わず帰りたくなった。「……食え」「ちょっと前に弁当食ったし、いらな――」 クロノスが顔を近づけてきて言う。「食え」(圧……てか、暑苦しっ、それに、いちいち面倒くせぇ……)「……はぁ」 スプーンを取り、オムライスを一口食べた。「なんだこれ……」「うまっ」 思わず夢中で平らげる。 視線を上げると、クロノスが不気味な笑みを讃えている。(だからその顔やめろ!)「ごちそうさまでした!」 オムライスを食べ終わり、再度クロノスに尋ねる。「クロノス、もういいだろ?教えてくれ」「一体何が起きてる?」「このカード、意味がわからねぇ」 カードには残り44:25と表示されている。「連鎖のはじまりだ……」「だから、それが何のことだか……」「坂中の…、クラスメイトの名前があったんだ!こんなの、ほっとけないだろ!」「何もないならいい。だけど……嫌な予感しかしねぇんだよ!」「頼む……クロノス」 クロノスは答えずに、そっとカウ
last updateLast Updated : 2026-09-14
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第57話 深まる違和感

 誰もいない部屋で、俺はまたシルバーへ変わる―― もちろん、正装姿ではなく、清掃員姿で。「……ふぅ」「あれ?シルバー、昨日に戻るんじゃないの?」 ログチーが不思議そうに見ている。 ため息をつき、呆れながらログチーに返す。「……お前、バカだろ?」 ログチーがほっぺたを膨らませながら、耳元で騒ぐ。「バカって何さ?ひどくない?」「……」「え?無視ー?無視なのー?」 ログチーが耳を甘噛みする。「……っ!何すんだよ!」「だってぇ〜、無視するから、さ」 歩きながら、ログチーに言う。「……場所」「んー?場所ー?」「ああ……過去に戻った時、時間は戻るけど、場所は変わらないからさ」「シルバー!」「ん?」「すごいじゃん!意外と考えてる!」 満面の笑みでこちらを見るログチー。「てか、お前がバカなんだよっ」 ログチーは俺の耳を今度は思い切り噛んだ。「……っ!?」(声にならない声) 思わずその場に蹲《うずくま》る。 ログチーが鼻息を荒くしながら「今のはシルバーが悪いんだから!」「……だとしても、加減しろよ!」 耳をさすりながら、俺は周囲を見回す。 誰もいないことを確認しながら、校門を出た。 坂中のことは小学校から知ってる。特に仲が良かったとかではなく、母親同士が仲が良く、アイツの家は知っていた。 とりあえず過去に行く前に坂中が自宅にいるかどうかを確かめてからだ! 足早に坂中の自宅へ向かうが、その途中で、一昨日の大通りを通る。「ん?」「どうしたの?シルバー?難しい顔して」「……あ、いや」(なんだ?) 事故があったはずなのに、あれだけ騒がしかった場所なのに……  誰も事故の話をしていない? ……おかしくないか? そういえば、あのバイク…… 人が乗ってたはずなのに、誰もいなかった。違和感だけがどんどん増えていく。 嫌な予感が消えない。もし坂中が家にいなかったら?もし、昨日の事故が関係していたら? もし――「シルバー?」 ログチーが不安そうな声を出すが、俺は全くログチーの声が頭に入ってこなかった。 あれこれ考えてるうちに、坂中の家の近所についた。 視線を向けると家の前にはパトカー。「パトカー?」 様子を近くから伺う。 あれは――「……大地と白石?」 白石の顔が真っ青だ……明らかに様子がおかし
last updateLast Updated : 2026-09-15
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第58話 選んだ選択

 中に入っていたのは、一枚の写真。「……ただの写真?」 写っているのは、二人の人物。坂中と、少し年上の男が右に映っている。何か見たことがあるような?ないような。「……!?」 人物の後ろに見覚えのあるバイク。「これ…」 このバイク、事故の時にあったバイクだ。でも、あの現場にバイク運転手はいなかった。この男に何か関係があるのか?「意味わかんねぇ」 クロノスがただの写真なんか渡すはずがない。ったく!説明しろっての。「クソッ!」 頭をガシガシと掻く。とりあえず今の現状を確認しないと……さて、どうするか?「なあ、ログチー」 ログチーは半分眠そうにしている。ほんとコイツは空気を読まない。軽くデコピンをする。「いたいっ!何するのさー!」「この状況で寝るな!」 文句をブツブツ言いながら、俺の首元でモゾモゾ動いている。「あのさ……」 俺はログチーに耳打ちした。◻︎◻︎◻︎ 坂中宅―― 静かな住宅街。日も落ちて辺りはだいぶ暗くなっている。顔に当たる風を冷たく感じた。視線を上げると、警官が白石と大地と話している。俺は何げないふりをしながら後ろから近づく。話している警官が俺に気づいた。「……お前、誰だ?」「……」 落ち着け、俺。 帽子を目深く被り、俺は今警官と同じ服装をしている。「本部から派遣されました!し、白山です!お手伝いにきました!」 警官らしく、とりあえず敬礼してみる。「……」「そうか」  警官は小さくため息をついた。「じ、自分も話を聞きたいであります!」 警官が俺の顔を見る。「……お前、」 思わず視線を逸らす。警官がため息をつきながら「お前!ピアス禁止だぞ?後でちゃんと外せよ?」「は?」(そこかよ!)「ん?」「あ、いや、はい……」 警官を少し警戒しながら、俺は大地と白石を目で追う。相変わらず白石の顔色が悪く、大地も不安そうな顔をしている。 結局あのまま、白石についててやったんだ大地。こんな時なのに、親友の頑張りに思わず顔が緩む。部活サボってるのはおいといて。「おまわりさん、俺の顔に何か?」 大地が尋ねてくる。「い、いや、別に」「……あれ?おまわりさん、どっかで会ったことある?」 ギクッ。 肩が少し震える。帽子で目元を隠しながら返した。「き、気のせいじゃないかな、はは」 シルバーで学
last updateLast Updated : 2026-09-16
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第59話 鳴り響く忘却の音

 誰もいない公園。 街頭も少なく、周りは完全に夜になっていた。 分身―― 分身を出す時は、どれくらいの時間かを思い浮かべないと丸一日分身を消せない。無理やり消そうとすると、俺にその代償が降りかかる。 難儀な能力。 俺はピアスに手をあて、目を瞑る。 目を開けると、目の前に俺そっくりの分身が姿を現した。ちなみに土下座はしていない。 分身を見る。何となくまだオドオドしている。 小さくため息を吐く。「……あの、さ、分身。ちょっと頼んでいいか?」 分身はなぜか涙目でコクコクと頷く。「シルバー様ぁ…」「その顔で涙ぐむな!気持ち悪ぃ」「あ…いや、悪ぃ。そういうことが言いたいんじゃなくて、お前にしか頼めないことがあるんだ」 分身が俺を見つめる。「…俺が戻るまで、大地と一緒にいてくれないか?とにかくアイツから目を離さないでやって欲しい」「万が一、大地に何かあるようなら、意地でも守ってくれ…頼む」「……シルバー、様」 忠告したのにも関わらず、分身が泣き出す。「泣くな!同じ顔で泣かれると超不快なんだよ!」「ヒック…だって…シルバー様、ヒック…こないだ冷たかったのになんだか今日は優しくて」「うるせぇ…」 ため息をついた後、分身に言う。「…とにかく頼めるか?」「てか、お前にしか頼めない」 分身はコクコクと頷いた。 ログチーが心配そうに俺を見る。「シルバー?大丈夫なの?」「分身何するかわかんないよ?」 ログチーに視線を向ける。「…ログチー」「……お前は分身とここに残れるか?」「えっ?それって…」 ログチーが肩で不安そうに俺を見る。「今回は俺一人で行く…」「シルバー…」「頼むよ、な?相棒」「わかったよ…シルバー」「…サンキュ、大地のこと頼むな」ログチーを分身の肩に乗せ、頭を撫でる。「さて…」「ログチー、変装して行く!頼む!」「オッケー!」 俺の髪が銀色に変わる。 黒の帽子に、黒縁眼鏡、白のアウターに黒いパンツ。腰にはチェーン。「…よし」 俺は目を閉じて、頭の中でイメージする。 時間のズレ、空間を掴むようなイメージ。昨日の時間、昨日の夕方へ。 空間が歪み始める。足元の感覚がなくなる。 画面が真っ白になっていく。 ログチーの声が、かすかに聞こえた気がした。 目を開けると、周りは夕焼けが差していた。
last updateLast Updated : 2026-09-17
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第60話 消えかけている顔

 大通りには人がたくさんいるのに、車の音も、人の声も、まるで何かで包まれたみたいに音が薄く聞こえる。「……なんだ、これ」 左耳の熱はまだ残っている。  ピアスが脈打つたびに、周囲の景色がわずかに揺らいだ。 さっきの音は──  やっぱり耳《ピアス》で鳴ったんじゃない。『忘れるな』 その言葉が、今度は耳の奥じゃなくて、大通りのざわめきの中に混じって聞こえた気がした。 ピロリン、ピロリン…… スマホの着信音が鳴り、呆然としていた坂中がハッと我に返って電話を取る。「…お兄ちゃん?」「え?よく聞こえない…」「う、うん……。わかった」 坂中が電話を切る。「何か、あったのか?」「さっきの電話って、探してたお兄さん?」 坂中が眉をひそめる。「…なんで兄のこと、知ってるんですか?」「いや、さっきお兄さんの話してたじゃん?」「えっ?」「私が?」「ああ…」「なんか、必死だった。必死に事故のこと聞いててさ」「事故……?」「ごめんなさい、思い出せない」「とにかく私、行かないと…」 坂中はスマホを握りしめる。その手はわずかに震えていた。「待て!」 坂中の腕を掴む。「悪ぃけど、俺もついていく」「え?なんで…?」 何かお前に起こるかも…なんて言ったって信じてもらえねぇ…。でも── 「理由は言えない。けど頼む…」 坂中は困ったように視線を落とした。 この人、一体なんなの? なんで、こんなに必死なの? 名前も知らない。 信用できる理由もない。 本当なら断るべきなのに。 でも―― 兄のことを考えると、一人で行くのは怖かった。それに、理由はわからないけど、この人は大丈夫な気がする…。ただの勘だけど。「……わかった」 坂中は少しため息をついた後、小さく呟いた。〜ログチーside〜「シルバー!絶対に!絶対に無事に戻ってきてね」 紫音を見送りながらログチーは叫んだ。声が届いたかどうかはわからない。「シルバー…」 ログチーの心配をよそに分身はログチーを撫でてくる。「わぁ、柔らかいなぁ…」 分身を見るログチー。「…なんか気持ち悪い!」 ログチーは分身から降り、地面に立つ。「キミはシルバーの分身!しっかりしてよ!ニセシルバー!」「ちゃんとしてくれないとさ、オレが残った意味ないし!」「う、うん!わかった!
last updateLast Updated : 2026-09-18
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