聖母の悪戯と嘘に、賢者は溺れ始める。 愚者に糾弾された聖母は、静かに泣いた。 * * * 冷や汗がじっとり、身体を湿らせている。 嫌な夢を見たと鈴代は首を左右に振る。『母親の心を踏みにじるだなんて恐ろしい。人を殺したと同じよ』 あなたには関係ないことだと無視していたら余計彼女を怒らせた。傷つけるために人の過去を勝手に漁って、弱みにして、近づく彼女が苦手だった。『あなたは魔女みたいね。綺麗な顔して冷淡なことを平気で吐いて、気に食わないことがあると人を平気で殺してしまう』 それはあなたのことじゃないの? なんて心の中で反撃していたわたしを彼女は知らない。『あたしが命名してあげるわ! あなたに泉観だなんて晴れやかな名前は似合わないもの。人殺しの魔女、なんてみんなに知られたらきっと誰もあなたを相手にしなくてよ』 押し付けがましい一方通行の罵詈雑言。彼女自身が歪んでいることに、彼女は気づいていないのだろう。確かに、彼女に目をつけられたことで、鈴代は誰からも相手にされなくなった。味方になったところで救えることはないと知っていたから。彼らの判断は賢明だと鈴代自身も思う。『傑作ね。人殺しの魔女!』 もう、あのこは死んでしまったというのに、未だに夢に出てくるなんて。罪悪感の成せる技かもしれない。 ラベンダーの香りのするお線香だった。早春の空に、白い煙が眩しかった。遺体を焼いても白い煙が出るんだなと呆然と、そんなこと思った。 天誅と葬儀で囁いたのは誰だっけ。泣いたフリしてみんなで影で嘲笑ってやろうよ、なんて誘われたっけ。断ったら。『さっすが人殺しの魔女!』 けらけらけら、笑われた。みんな喜んでいた。彼女が死んでしまったことにホッとしていた。どういう風に死んだかなんてどうでもよかった。不幸な事故として片付けられたことすら彼女たちは知らなかっただろう。ただ、葬儀の時に鈴代が彼女の姉に責められたのを見た誰かや、彼女が死んだときに鈴代が傍にいたことを知った誰かが「もしかしたら鈴代さんの完全犯罪かも」なんて面白がって噂していたから。結果的に、鈴代は孤立してしまったけれど。 中学三年が終わる早春。みんな幼くて自分で自分の意見に対して自信を持てなかった頃の話。附属の高校に進んで、新しいクラスになってからも、根も葉もないバカげた噂だけが一人歩きを続
Zuletzt aktualisiert : 2026-09-03 Mehr lesen