怜司は、冷静に状況を分析した。今は、内通者探しをしている場合ではない。周りは靖也の腹心ばかりだ。ここで正面からぶつかれば、事態はますます収拾がつかなくなる。何より、おばあさんの身が危険にさらされるかもしれない。沈黙は10分近くにも及んだ。靖也が、拒否されるのではないかと思い始めた頃、怜司はようやく口を開いた。「……わかった。社長の座は譲る」そして、歯を食いしばりながら釘を刺す。「ただし、おばあさんには手を出すな。もし何かしたら、ただでは済まさない」靖也は得意満面で笑い声を上げた。「さすが怜司、賢明な判断だ。安心しなよ。君が余計なことさえしなければ、おばあさんは無事だから」靖也の目的はあくまで藤井グループだ。貴子に手を出せば、一族内での自身の威信が揺らぐ。会議室を出ると、怜司はひとりで社長室に戻り、椅子に腰を下ろした。最近、あまりにもいろいろなことが起こりすぎた。花梨は煙のように消え、靖也には会社を乗っ取られ、そのうえおばあさんまで脅しの材料にされている。駿のことは、心から信頼していた。だが今、その親友にすら疑いの目を向けざるを得なかった。怜司は眉間に深いしわを寄せた。視線が、デスクの上に飾られた駿とふたりで写った写真に落ちる。かつては一緒に必死で道を切り開き、いくつもの難関を乗り越えてきた。互いに誰よりも信頼し合える無二の親友であり、右腕だった。「……ありえない。駿は、そんなやつじゃない」今の自分は、かつて遥にしたのと同じ過ちを繰り返そうとしているのではないか。もしまた同じように駿を誤って傷つけてしまったら、自分は取り返しのつかないものを失うことになる。窓の外を見つめていた怜司は、ふと自嘲するように笑った。スマホを手に取り、長い間連絡を取っていなかった相手の連絡先を開く。その目は冷たく光っていた。メッセージを送る。【頼みがある】……手入れの行き届いた庭で、莉奈はぼんやりと座って花を眺めていた。母親があんなひどいことをしていたと知ってから、莉奈の胸はずっと痛み続けている。あの日、莉奈は使用人に連れられて外へ遊びに出ていた。だから、母親が凄惨な事件を起こした場面は見ていない。莉奈は遥のことが大好きだった。けれど、母親を破滅させたのも、ほかでもなく遥なのだ。愛憎入り混じる感情が胸を塞ぐ
続きを読む