私が笑ったのを見て、千絵美は怯えたように、何歩も後ずさった。そのまま智之の胸の中へ逃げ込んだ。声を震わせながら言った。「道田さんが急に笑う時は、暴れ出す合図だって聞いた。智之、私、怖い……」智之は眉を上げ、からかうように私を見た。「亜紀も有名人になったな。みんな、すっかり怖がってるぞ」ソファにだらりと腰を下ろし、腕の中の女をぎゅっと抱き寄せた。「千絵美はお前を怖がりすぎてる。M町の家へ引っ越せ。時間が空いたら会いに行く」見慣れた智之の顔は、私がずっと想い続けてきたあの人にそっくりだ。智之がその顔で、今、私を追い出している。私は笑みを浮かべ、二人の前まで歩いていった。そして手を伸ばし、千絵美の頬に触れるふりをした。彼女は血の気が引いた。智之が勢いよく私の手首をつかみ、その表情が冷ややかになった。「亜紀。これまではお前を甘やかして、好き放題させてきた。けれど、これからはそうさせない。まだわからないのか?」その声は凍るように冷たい。「もう、亜紀を甘やかすつもりはない。この家から出ていけ。千絵美は他の女とは違う。亜紀が好き勝手に手を出していい相手じゃない」私は手を引っ込め、くすっと笑った。そして青ざめた千絵美の頬を、ぽんぽんと軽く叩いた。「こんな顔、殴って台無しにするわけないでしょ?私以上にあの人に似てる女なんて、そうそういないものね」智之にウインクして、弾むような声で言った。「じゃあ、お邪魔しないでおくね」そう言って、背を向けた。けれど智之は立ち上がり、私の手首をつかんだ。「また何を企んでる?いい子ぶるつもりか?」私は手を振りほどき、完璧な笑みを浮かべた。「二人の幸せを心から祈ってるわ。理想的な身代わりを見つけるのがどれほど難しいか、私には痛いほど分かってるもの!」今日までの智之は、あまりにも理想的な身代わりだった。体つきも、顔立ちも、声も、その性格さえ。亡くなった元夫・赤羽大和(あかば やまと)と、ほとんど見分けがつかないほどそっくりだった。私がどれだけわがままを言っても、どれだけ騒いでも、大和と同じように、限りなく甘やかしてくれた。夢中になっていたのは、ただ甘やかされる感覚だった。けれど今、新しい女が現れた。智之は、もう私を甘やかさない。
Read more