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身代わりの恋が終わるとき
身代わりの恋が終わるとき
Author: 言野朝子

第1話

Author: 言野朝子
私が笑ったのを見て、千絵美は怯えたように、何歩も後ずさった。そのまま智之の胸の中へ逃げ込んだ。

声を震わせながら言った。

「道田さんが急に笑う時は、暴れ出す合図だって聞いた。智之、私、怖い……」

智之は眉を上げ、からかうように私を見た。

「亜紀も有名人になったな。みんな、すっかり怖がってるぞ」

ソファにだらりと腰を下ろし、腕の中の女をぎゅっと抱き寄せた。

「千絵美はお前を怖がりすぎてる。M町の家へ引っ越せ。時間が空いたら会いに行く」

見慣れた智之の顔は、私がずっと想い続けてきたあの人にそっくりだ。

智之がその顔で、今、私を追い出している。

私は笑みを浮かべ、二人の前まで歩いていった。

そして手を伸ばし、千絵美の頬に触れるふりをした。

彼女は血の気が引いた。

智之が勢いよく私の手首をつかみ、その表情が冷ややかになった。

「亜紀。これまではお前を甘やかして、好き放題させてきた。けれど、これからはそうさせない。まだわからないのか?」

その声は凍るように冷たい。

「もう、亜紀を甘やかすつもりはない。この家から出ていけ。

千絵美は他の女とは違う。亜紀が好き勝手に手を出していい相手じゃない」

私は手を引っ込め、くすっと笑った。

そして青ざめた千絵美の頬を、ぽんぽんと軽く叩いた。

「こんな顔、殴って台無しにするわけないでしょ?私以上にあの人に似てる女なんて、そうそういないものね」

智之にウインクして、弾むような声で言った。

「じゃあ、お邪魔しないでおくね」

そう言って、背を向けた。

けれど智之は立ち上がり、私の手首をつかんだ。

「また何を企んでる?いい子ぶるつもりか?」

私は手を振りほどき、完璧な笑みを浮かべた。

「二人の幸せを心から祈ってるわ。理想的な身代わりを見つけるのがどれほど難しいか、私には痛いほど分かってるもの!」

今日までの智之は、あまりにも理想的な身代わりだった。

体つきも、顔立ちも、声も、その性格さえ。

亡くなった元夫・赤羽大和(あかば やまと)と、ほとんど見分けがつかないほどそっくりだった。

私がどれだけわがままを言っても、どれだけ騒いでも、大和と同じように、限りなく甘やかしてくれた。

夢中になっていたのは、ただ甘やかされる感覚だった。

けれど今、新しい女が現れた。

智之は、もう私を甘やかさない。

それなら、もう私にとって立派な身代わりではない。

智之の顔色が、ますます険しくなった。

声を低くして言った。

「千絵美に手を出すな。彼女に何かあったら、必ずお前に責任を取らせる」

私は一瞬、言葉を失った。

かつて彼が私を庇っていたときも、みんなに向かって、同じように言っていた。

「誰だろうと亜紀に手を出すな。俺が許さない」

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