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第2話

Author: 言野朝子
胸の奥にかすかに浮かんだ痛みを押し込めた。

私はへらへら笑って言った。

「まさか。今すぐ出ていくよ」

西の田舎にあるM町は、私と智之が出会った場所だった。

初めて顔を合わせたときのことは、今思い出しても笑えてしまう。

二人ともその場に立ち尽くし、互いの顔を食い入るように見つめていた。

あの日、彼はM町で家を買ってくれた。

そして私を囲い込み、ひたすら甘やかしてくれた。

M町の家に着き、ベッドに横たわりながら、私は2日後の航空券を取った。

故郷へ帰り、大和の墓参りをすることにしたのだ。

次の瞬間、家全体が突然停電した。

あたり一面を、押し寄せるような闇が覆う。

大和が亡くなってから、私は暗闇がひどく怖くなった。

震えが止まらなくなるほど、息もできなくなるほど怖い。

思わず智之へ電話をかけた。

暗闇の中で、コール音が何度も何度も響き渡る。

一回鳴るたびに、私の心臓も激しく跳ね上がった。

何度かけたか数えきれないところで、ようやく電話がつながった。

すぐに口を開いた。

「智之、M町の家、電気が落ちたの。早く誰か呼んで見てもらって……」

焦る気持ちでいっぱいだった私の耳に返ってきたのは、千絵美の声だ。

まるで私が何のために電話したのかわかっているかのように、静かな声で言った。

「智之なら、お風呂に入ってる。どうして停電したのか知りたい?

私が道田を怖がりすぎてるから、智之がわざとブレーカーを落としたんだよ。道田に頼みに来させて、惨めな姿を私に見せるんだって。そうしたら、私も少しは怖がらなくなるだろうって」

彼女はくすっと笑った。昼間、あれほど私を怖がっていた様子は、もうどこにもない。

「道田、私にお願いしなよ。頭を下げてくれたら、電気をつけてあげる」

闇が私を包み込んでいる。

思い出すだけで胸が引き裂かれそうになる光景が、少しずつ私の中へ入り込んでくる。

全身に冷や汗が噴き出し、まるで誰かに首を絞められているみたいだ。

智之は、私が暗闇を怖がっていると知ってから、一度も私を闇の中に置かなかった。

私がいる場所は、必ず明かりで満たしてくれた。

一度、偶然の停電で、私が息も絶え絶えになっている姿を目にしたからだ。

それなのに今、彼は自分の手で私を闇の中へ突き落とした。

私は震える手で電話を切った。

目を閉じ、何とか耐え抜こうとした。

それから十分ほどして、玄関の扉が開く音がした。

智之が慌ただしく駆けつけ、私の前に姿を現した。自分の手で明かりをつけてくれた。

世界がまた明るくなった。

全身を冷や汗で濡らし、意識が遠のく私を見て、彼の目に一瞬、いたわるような色が浮かんだ。

そして思わず私へ近づき、抱き上げた。けれど、口から出た言葉は、動きとは裏腹だ。

「意地を張って、頭を下げるくらいなら自分で耐えるっていうのか?

千絵美が心配して、俺に様子を見に行ってやってって頼んだんだ。それなのに、お前は千絵美を脅したのか?電話で脅されて、怖くて眠れないって彼女が泣いてたぞ」

少しずつ意識が戻ってくる。

「彼女の言うことなら何でも信じるの?彼女を脅す理由なんてどこにある?」

智之は、陰鬱な目で私を見つめた。

「本当に亜紀を甘やかしすぎた。千絵美は嘘なんかつかない」

私は鼻で笑った。

智之は立ち上がり、落ち着いた声で言った。

「この家はもう千絵美の名義だ。お前には、しばらくの間住まわせてやるだけだ。いつでも千絵美がお前を追い出せるんだ」

私は顔を上げ、長いあいだ黙って彼を見つめた。

この家を私にくれたとき、彼はこう言った。

「この家は亜紀のために買ったんだ。何があっても、ここは亜紀だけのものだ」

私はその言葉を信じきっていた。

隅々まで心を込めて飾りつけ、お揃いのスリッパやペアルックを用意した。

二人の写真も、あちこちに飾った。

本当に、ここを自分の家だと思っていた。

それなのに今、彼は私に告げた。

ここはもう私のものではなく、別の女のものだと。

「しばらくの間住まわせてやるだけ」という言葉が、あまりにも残酷に胸へ突き刺さった。

けれど幸いなことに、私はもうすぐここを離れる。

静かな声で言った。

「智之が買った家なんだから、どうするかは智之の自由でしょ。私が口を挟む筋合いはないわ」

智之は、私が思っていたほど嬉しそうな顔をしなかった。

眉間の皺は、ますます深くなっていく。

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