青春も愛した人も裏切ってしまった生まれ変わった小泉奈月(こいずみ なつき)は、真っ先に離婚協議書を手に青山元治(あおやま もとはる)のもとを訪れ、口を開けば二言だけだった。
「離婚に同意するわ。
子どもを一人、私が連れていく」
元治は協議書をめくる手を止め、視線を上げると、一瞬だけ驚きが過ったが、すぐにいつもの冷淡さで覆い隠した。
「四人の子どもの中で、わざわざあの病弱な子を選ぶのか」
彼は指先で机を軽く叩きながら、探るような口調で言う。「奈月、今度はまた何を企んでいる」
「信じるかどうかは勝手、署名して」
奈月は協議書を彼の前へ押しやった。
元治はペンを握ったまま空中で動きを止め、三十秒ほど経った後、いきなり身を乗り出して署名すると、ペンを机に叩きつけるように置いた。
「言ったことは必ず守れ」