父と子は元カノしか愛せない?私が離婚したら、なんで二人とも発狂した?紗夜は文翔を十年間密かに想い続け、彼との結婚を「念願叶った」と信じていた。
たとえ彼が冷たい鉄塊のような男でも、自分の愛で少しずつ温められると思っていた。
しかし、現実は彼の冷たい視線と無関心しか返ってこなかった。
彼は元カノにはとことん優しく接するのに、紗夜にはまるで捨てられたゴミのように冷たく、疎ましく、蔑むような扱いをした。
それでも紗夜は全てを耐えてきた。
二人の間にはひとりの息子がいたからだ。
息子のために、愛のない結婚という牢獄に身を閉じ込め、「長沢奥様」の肩書きを守ることを選んだ。
だが、彼女が誘拐された夜、文翔は彩の傍にいて一晩中帰って来なかった。
さらに、彼女が何よりも愛していた息子までが彼女を捨て、彩を「本当の母親」だと言い出したのだ。
紗夜はその瞬間、やっと悟った。
冷えきった夫も、心の通わぬ息子も、もう要らない。
これからは自分のために生きる、と。
離婚後、紗夜はかつての夢だったフラワーデザインの道を再び歩み始め、起業して大金を稼ぎ、数々の賞を総なめにした。
恋愛は花を育てるようなもの、自分自身をもう一度鮮やかに咲かせるために、彼女は日々を生きていた。
そんな彼女の元には男たちが群がり始め、焦った元夫・文翔は目を赤くして土下座しながら懇願した。
「紗夜、愛してる......頼む、離れないでくれ......」
紗夜は冷たく笑った。
「長沢さん、もう遅いのよ」
息子が彼女の脚にすがって泣いた。
「ママ、僕を捨てないで!」
彼女は無表情のまま彼を振り払い、言った。
「ママなんて呼ばないで。私はあんたの母親じゃないわ」