深淵から安らぎの港へ「有馬社長の相手になってくれ」
五年前、石垣悠馬(いしがき ゆうま)はたった一言で、私、江口七海(えぐち ななみ)に「玩具」としての本分を教え込んだ。
そして五年後、私は彼の結婚式の控室で、化粧ブラシを手に新婦のメイクをしていた。
そのとき、彼は人前で私を鏡に押しつけ、かすれた声で言った。「五年だ……ようやく戻ってきてくれたのか?」
私はゆっくりと口元のマスクを外した。
「石垣さん、お控えください。私はあなたの婚約者様からご依頼を受けた、専属のメイクアップアーティストです。
何しろ、教えてくれたのはあなたご本人ですから。私たちのような『玩具』が一番覚えるべきなのは、ご主人様の結婚式で笑って奉仕することです」