癒えない傷痕と、夜明けの約束「隊長!医療班の女性隊員は全員異動になったのに、どうして田村先生だけ、また異動が認められないんですか?」
一方部屋の外で、ドアを開けようとしていた田村綾子(たむら あやこ)の手が、空中で止まった。部屋の中の会話が、ドア越しに耳に届いてきたからだ。
「これまで、田村先生の異動申請はあなたによって三回も差し戻されています!そのせいで去年、田村先生はお母さんの死に目に会えなかったんですよ!」
その言葉は、鋭い刃物のように綾子の鼓膜を貫き、一語一句が心に深く焼き付くようだった。
「それに、田村先生の体はもう限界です。このままじゃ、みすみす死なせるようなものですよ!」
「分かっている」夏川竜之介(なつかわ りゅうのすけ)の声が聞こえた。「綾子は俺の婚約者だ。俺は誰よりも、彼女の無事を願っている。
だが美咲の戦地レポートは、今が賞のかかった大事な時期なんだ。それに美咲のお兄さんが死んだのは俺の責任だ。だからこそ、この3ヶ月、彼女の安全は絶対に確保しなければいけない。綾子は最高の腕を持っている、彼女がいてくれてこそ、美咲の万全も保障されるってわけだ」