観ているとすぐに伝わってくるのは、演技の“手ざわり”に細かく気を配っている俳優ほど、役と一体になるスピードが早いということです。私の目には『
嫉妬の化身』で最も工夫を凝らして役作りをしていたのは、ゴン・ヒョジン演じるピョ・ナリだと感じました。単に明るくドジなヒロインというだけでなく、自尊心や不安、職業に対する誇りが同居するキャラクターを、表情の微妙な揺らぎや声のトーン、身のこなしで丁寧に表現していた。とくに情報を伝える場面とプライベートの落差を自然に見せる手つきや視線の使い方に、その下準備の密度が表れていると思います。
私自身、何度も繰り返し同じシーンを見返したくなることが多く、細部での違いに気づくたびに感心しました。例えば、放送用のマイクを扱うときの緊張の出し方や、カメラの前での瞬時の切り替え、オフのときにだけ見せるリラックスした表情──そうした“プロの気配”を作り込むには現場でのリハーサルや実際の報道現場を観察するなど地味な準備が必要だったはずです。演じる人物が置かれた社会的立場や職業的な矛盾を視聴者に無理なく伝える点で、細部の工夫が全体の説得力に直結していました。
もちろんジョ・ジュンソクの演技にも目を見張るものがあり、彼も役作りにかなりの工夫をしているのが伝わってきます。アナウンサーという職種特有の話し方や姿勢、そして表向きの冷静さの裏にある感情の乱れを、台詞回しや間の取り方で上手く表現していました。個人的には、二人の掛け合いのリズムや化学反応が何度も胸にくる瞬間を生み出していて、それは双方が相手のテンポをきちんと研究していたからこそだと思います。脇を固めるキャストもキャラクターの癖を際立たせる小さな工夫をしていて、全体としての調和がとれているのもこの作品の魅力です。
総じて言えば、最も目立つ工夫はゴン・ヒョジンにあったと私は感じますが、それは彼女一人だけの力ではなく共演者との相互作用と監督の演出スタイルがあってこそ映えるものです。演技の細部に宿る“説得力”を積み上げる努力が視聴体験を豊かにしていて、そこにこの作品の大きな魅力があると改めて思います。