記憶をたどると、最初に目に浮かぶのは古びた建物の風鈴がかすかに鳴る音だった。物語は都会の片隅に佇む寄宿舎風の建物、'
メゾンエトワール'に新しい住人がやってくるところから始まる。そこには年齢も職業も背景もばらばらな人々が暮らしていて、それぞれが抱える事情や傷が少しずつ顔を出していく。私はその新参者の視点で物語を追い、隣室の絵描きや遠慮がちな年配の女性、夜勤帰りの青年といった登場人物たちと関わるなかで、建物自体が一種の「居場所」として機能していることに気づく。
各エピソードは基本的に一話完結の短い物語を積み重ねる形で進み、住人たちの過去や秘密が断片的に明かされる。中心的な軸としては、建物にまつわるある古い出来事──何年も前に起きた別れや未解決の確執──が背景にあり、それが時折現在の人間関係に影響を与える。私は物語の中で、小さな誤解やすれ違いが会話や共同作業を通してほどかれていく過程にぐっと来た。例えば、誰かが持ち込んだ古い星形のペンダントがきっかけで、かつての住人の物語が呼び戻され、今の住人たちが互いに支え合う流れが生まれる──そんな象徴的なモチーフが効果的に使われている。
結末は派手なものではなく、むしろ日常の積み重ねが未来を少しだけ変えていくことを示す穏やかな着地だ。私は登場人物たちがそれぞれ自分なりの一歩を踏み出す場面に胸が温かくなった。テーマは「居場所」「再生」「他者とのつながり」であり、詳しい事件の解決よりも人と人との関係の修復に重きが置かれている。物語のトーンは優しく、時に切なく、でも全体としては希望を残す。読む・観ると、誰かの小さな親切が思いがけず救いになる瞬間を何度も思い出すだろうと感じた。