名前自体は昔ながらの町屋や商店にありがちな組み合わせで、特定の一作にのみ属する固有名ではなく、作品の中で“町の小さな店”を象徴するために使われることが多いように見えます。『伊勢屋』という屋号は江戸・明治期から大衆のあいだで広く使われてきたので、作家や映画制作者がローカル感を出すときに『
土手の伊勢屋』のような呼び方を採用するケースが散見されます。つまり、ひとつの代表作を指し示すよりも、複数の小説や映画のなかで“ありそうな店名”として登場しているパターンが多いのです。
個人的に資料をあたるときは、まず史料や地域史、古典的大衆小説、戦前・戦後の町人ドラマあたりを当たるのが手っ取り早いと思います。大衆文学や人情劇、あるいは商店や下町を描いた映画には共通してこうした屋号が散りばめられているので、断片的に現れることが多いです。だから「この店名が出る作品一覧」を求めると、必ずしも公式なカタログがあるわけではなく、複数の一次資料(古い雑誌、映画の台本、地域の口承記録)を組み合わせて探す必要があります。私は図書館のデジタルコレクションや古書検索サービスでの全文検索をよく使いますが、そうすると同名の店が別々の作品に登場しているのが分かり、どれがフィクションでどれが実在店に基づくかを見極める助けになります。
探し方のコツをひとつ挙げると、検索語を工夫することです。単に土手の伊勢屋だけを投げるより、『土手の伊勢屋』を引用符でくくった全文検索や、登場人物名・年代・地域キーワードを併用するとヒット率が上がります。また、映画の場合は台本やクレジットだけでなく、当時の映画評や上映案内、番組表などに屋号が書かれていることがあるので、新聞データベースも有効です。地方史誌や郷土資料には実在の店として記録されているケースもあるため、地域名が分かれば市町村立図書館の蔵書や古地図も当たってみると面白い発見があります。
最後に一言。こうした伝統的な屋号は、作品のなかで生活感を添える小道具として非常に魅力的ですから、見つけるとついニヤリとしてしまいます。作品ごとに微妙に違う使われ方を比べてみると、作家や映像制作者の目線や時代背景が透けて見えて、探検気分が味わえます。