眉目秀麗な人物に深みを与えるには、外見と内面のギャップを緻密に設計するのが鍵だと考えている。まず外見が与える前提(好感、信頼、羨望)を利用して、物語の中でその前提が揺らぐ瞬間を作ると説得力が増す。僕は表面的な完璧さを「覆い」とみなし、その下にある矛盾や小さな欠落を丁寧に描くことを心がける。例えば、社交場での洗練された振る舞いの裏に、会話を切る癖や無意識に目をそらす瞬間、小さな自己否定の呟きがあると、読者は見た目から一歩踏み込んで人物を理解しようとするようになる。
次に、決断の瞬間における内的葛藤の描写に重きを置いている。選択肢が二つ以上ある場面で、どの道を選ぶにしても代償が明確に感じられるようにし、登場人物が選ぶ動機を小さな記憶や身体反応で裏付ける。僕は感情を大仰に説明するよりも、指先が震える、息の入り方が変わる、過去の断片的な回想がフラッシュする、といった手法で観客に察してもらう。そこには自己防衛や
虚栄心、あるいは隠された優しさが混ざり合っていると説得力が出る。
最後に、信頼性を操作することも有効だと感じる。眉目秀麗な人物は他者の投影を受けやすいから、周囲の描写を通して多面的に見せることで奥行きが生まれる。ある登場人物からは英雄に見え、別の視点からは冷酷に見える――その差異を物語に組み込めば、外見の印象だけでは説明できない人間性が立ち上がる。具体例として、'ジェームズ・ボンド'的な容貌の魅力を持つ人物に、夜の仕事で見せる孤独や、子どもの頃に結んだ誓いの微妙な歪みを絡めれば、観客は「見た目が全てではない」と納得するだろう。こうした手触りのある細部が揃えば、見た目の良さが単なる飾りではなく、物語を動かす本質的要素になると信じている。