耳に残るフレーズを辿ると、阿川泰子の歌声でまず思い浮かぶのはやはりスタンダードの名曲群だ。私が最初に触れた彼女の録音では、しなやかな表情で歌う'Fly Me to the Moon'が印象的で、その後も多くの人が彼女の'Fly Me to the Moon'を入口にしてジャズに親しんでいる。
別のレコードでは、ソフトに語りかけるような'’Summertime'の解釈が際立っていて、原曲の哀愁を日本語の感度でそっと包み直す手腕に唸った。さらに、しっとりしたバラードである'Misty'や、胸に沁みる'My Funny Valentine'のような曲も、彼女の持つ余裕あるフレージングで新鮮に響く。
聴くたびに気づくのは、曲の骨格を尊重しつつも日本人ならではの繊細さで歌い上げる点だ。私のプレイリストにはいつも彼女のバージョンが入っていて、名曲の別の顔を見せてくれる存在として頼もしい。
阿部敏郎の演技には、日常の中に潜む不気味さを繊細に表現する独特のセンスがあります。特に人間の心理の揺らぎを、最小限の動きと表情で伝えるのが見事です。
『DRIVE MY CAR』での寡黙な演出家役は、言葉少なながらも深い孤独感をにじませていました。あの役作りは、彼の内面表現の技術が光る好例です。彼の演じる人物には、常に何か言いようのない違和感がつきまとい、観客を引き込む磁力があります。
最近の作品を見ていると、役柄の年齢や立場を超えて、普遍的な人間臭さを出せるのが彼の真骨頂だと感じます。