髪を剃った君の左耳~ピアスホールに残った俺たちの十年
慶林寺の副住職・隆寛(りゅうかん)は、剃り上げた頭と黒い僧衣の下に、ひとつだけ過去を残している。
左耳の、小さな穴。
大学時代、その耳に初めてピアスを通し、息を止めさせたのは、今や商社マンとなった浩人だった。
出家前夜まで激しく求め合いながら、「お前の未来の邪魔にはなれない」と笑って去った隆寛。
数年後、上司の葬儀で再会した二人は、僧侶と故人の部下という仮面を被ったまま、視線だけを交わす。
寺を継ぐ責務、空白の時間、修行で燃やそうとした恋情。
敬語と礼儀で固めた距離の内側で、まだ耳はあの頃と同じように震える。
いずれ、祈りと欲のどちらかを捨てなければならないのだろうか…
答えは、まだ雨音の向こうに隠れている。