もう、引き止めない
結婚式まで後一週間、婚約者の立花晶也(たちばなあきや)が突然、先に初恋の相手と結婚式を挙げて、それから私と結婚するのだと言い出した。
初恋の相手の母親が亡くなり、遺言で二人の結婚を望んでいたからだ。
「夢乃(ゆめの)の母さんは、生前ずっと娘の幸せな結婚を願ってた。ただその遺志を叶えてやりたいだけなんだ。変に勘ぐらないでくれ」
でもその日は、会社が私たちの世紀の結婚式当日に、真愛シリーズのジュエリー発売が決まっていた。
彼は苛立ったように言った。「たかが数百億じゃないか。夢乃の親孝行のほうが大事だろ?本気で金が欲しいなら、他の相手でも探して結婚すればいい」
その冷たい言葉に、私はすべてを悟った。背を向けて、実家に電話をかける。
「お兄ちゃん、新しい結婚相手を紹介して」