消えゆく月光は掴めない
結婚式当日、私は偶然、柏木佑(かしわぎ ゆう)のLINEにボイスメッセージが一つ、お気に入り登録されているのを見つけた。
再生すると、甘ったるい声が響いた。「佑、会いたいよ」
私が問い詰めると、佑は冷静に答えた。
「下心があったのは認める。でも、これはただ彼女が王様ゲームで負けた罰ゲームなだけで、他には何もない」
二人のチャット履歴も、その言葉を裏付けていた。
ごく日常的で、普通で、決して一線を越えるような内容はなかった。
なのに私は、それを見ながら涙が止まらず、ウェディングドレスを濡らしてしまった。
「佑、彼女をブロックして。そうすれば、式を続けられるわ」
七年にも及ぶ長い恋。ゴールは目前だったのに。
つい最近、妊娠していることも分かったばかり。まさに二重の喜びとなるはずだった。
しかしその時、清掃員の格好をした女の子が突然、血を一口吐き、涙目で走り去った。
それが誰か分かった途端、佑は考える間もなくあの女の子を追いかけた。
私は彼の腕を掴む。「行くなら、一生私と結婚できるなんて思わないで。よく考えて......」
佑は私の指を一本一本こじ開け、硬直したまま去っていった。その後ろ姿が、私の目に焼き付いた。