十年前に戻った妻は初恋を選び、すべてを失った
初恋が死んだと知った妻の成瀬美咲(なるせ みさき)は、新婚旅行中のクルーズ船から身を投げ、この世を去った。
そのときになって、ようやく俺は知った。
彼女は一度も、水沢奏太(みずさわ そうた)のことを忘れていなかったのだと。
少女の頃に戻った彼女は、迷いなく俺の手を振りほどき、初恋のもとへ駆けていった。
俺は二人の背中を見送って、そのまま背を向けた。
それから先、俺たちの人生が交わることはなかった。
ただ並んで伸びていくだけの、交わらない二本の平行線になった。
十年後、海市のパーティーで俺たちは再会した。
彼女はすでに社交界の新たな寵児となっていて、奏太の腕に親しげに寄り添いながら姿を見せた。
俺が人を捜して会場に入ってきたのを見ると、彼女は思わず口を開いた。
「どうしてそこまで私に執着するの?たとえ十年待ったとしても、私はあなたを愛したりしないわ」
俺は相手にせず、隅でこっそりケーキをつまみ食いしていた息子の首根っこをつかまえた。
その瞬間、彼女ははっとしたように目を赤くして、俺の手を強くつかんだ。
「わざと私を怒らせようとしてるの?あなた、言ったじゃない。この一生、愛するのは私だけだって」