朝夕、別れを語る
【九条奥さん、十日後に放火で偽装死をご計画の件、弊社への正式なご依頼ということで、よろしいでしょうか?】
このメッセージに、清水梨花(しみず りか)はしばらく言葉を失い、返答しようとしたその時、急にビデオ通話がかかってきた。
「梨花さん、見て!辰昭さんがまたあなたのために大奮発してるよ!」
画面に映し出されたのは、今まさに進行中のオークション会場だった。
前列に座る、気品と見栄えを兼ね備えた一人の貴公子が、何のためらいもなく、次々と数億の骨董品を落札している。
会場内は早くも沸き立っていた。
「九条家の御曹司、奥さんに本当に尽くしてるな。笑顔が見たいだけで、こんなに骨董を買うなんて」
「八十億なんて、彼にとっちゃ端金さね。聞いた話だと、九条さんは奥さんのために梨花荘って邸宅まで建てたらしいぞ。名前だけで、どれだけ奥さんを愛してるか、伝わってくるよな」
その隣で、一人の富豪が鼻で笑った。
「見せかけだけだよ。どうせ裏じゃ、女遊びしてるんだろう」
その一言に、すぐに非難の声が飛び交った。
誰もが九条家の御曹司の溺愛ぶりを語っている。
その囁きに耳を傾けながら、梨花はふっと苦笑した。