冬に囚われた秋海棠
結婚式の三日前、古い荷物を整理していた私は、十年前に神崎湊(かんざき みなと)と一緒に埋めたタイムカプセルのことを思い出した。
彼はそれを聞くと表情を強張らせ、「もう行くのはやめよう」と私を止めた。
「もう随分前のことだし、誰かに掘り返されてるよ」
私は気にせず、一人で母校へと向かった。
しかし、埋めたはずの場所から出てきたのは、大小さまざまな五つのタイムカプセルだった。
二つは私と湊が十年前に埋めたもので、すでに錆びついている。
余計な三つのうち、一つは同じように錆びていて、残りの二つはまだ真新しい。
古い方には、小野寺結衣(おのでら ゆい)の名前が刻まれていた。
そこにはこう書かれていた。
【私の片思いは、一人きりの嵐だった。湊、幸せになってね】
思い出した。彼女は私たちの後ろの席に座っていた、あまり目立たない女子生徒だ。
そして、二つの新しいのには、それぞれ湊と結衣の名前が刻まれている。
埋められた日付は、まさに今日だった。
湊のタイムカプセルにはこうある。
【俺の人生最大の後悔は、お前に結婚式を挙げてやれないことだ】
結衣のタイムカプセルにはこう書かれていた。
【私の人生最大の後悔は、堂々とあなたに『結婚おめでとう』と言えないこと】