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七年経っても、心の灯はまだ灯らず

七年経っても、心の灯はまだ灯らず

産後の養生期間を終えたばかりの神原美蘭(かんばら みらん)は、子どもを連れて出生届を提出するため、役所へ向かった。 「すみません、この子の名前は賀茂律(かも りつ)です」 職員がキーボードを数回叩いたが、眉間の皺は次第に深くなっていった。 「賀茂桐真(かも とうま)さん名義の戸籍には、すでに賀茂律という名前の子どもが登録されていますよ」 美蘭は一瞬ぽかんとして、聞き間違いかと思った。 「そんなはずないです、うちの子はまだ生まれて1ヶ月なんですよ!」 その言葉が終わらないうちに、ポケットの中のスマホが震えた。 画面を開くと、桐真の秘書である浅草紗雪(あさくさ さゆき)から送られてきた写真だった。 写真には、桐真が左手で紗雪の腰を抱き、右手で6歳くらいの男の子を抱えている姿が写っていた。3人は幼稚園の入口の前に立ち、まぶしいほどに笑っていた。 その男の子の胸についた名札には、「賀茂律」という3文字がはっきりと書かれていた。
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消えた温もり、戻らぬ日々

消えた温もり、戻らぬ日々

桜庭梨央(さくらば りお)は夫にとって高嶺の花である森本結衣(もりもと ゆい)の運転する車に轢かれた。 病室で目を覚ますと、夫の相良時哉(あいら ときや)が二人の子供を連れて病床のそばに立っていた。 梨央が目覚めたことに気づくと、三人は責めるような表情を浮かべた。 時哉は眉をひそめた。「大丈夫か?なぜあんなに不注意に歩いていたんだ?」 長男の相良悠樹(あいら ゆうき)は唇を尖らせて文句を言った。「ママ、どうして突然結衣さんの車の前に飛び出したの?結衣さんを怖がらせちゃったじゃないか」 次男の相良拓海(あいら たくみ)も頷いて同調した。「そうだよ。結衣さん、ずっと泣いてた。全部ママのせいだ!」 梨央は布団の中の手を固く握りしめた。目の前のまだ若い夫と幼い子供たちを見つめ、涙が溢れてきた。 神が梨央にもう一度やり直すチャンスを与えてくれて、彼女は50年前に生まれ変わった! この年、梨央は三十歳、夫の時哉は三十五歳。時哉は学士院の最年少会員になったばかりで、国の未来を担う逸材として、その前途は洋々たるものだった。 そして、二人には十歳になる双子の悠樹と拓海がいた。
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中古PCの壁紙が婚約者の裸でした

中古PCの壁紙が婚約者の裸でした

私は三枝麗奈(さえぐさ れいな)。 ある日、フリマアプリで中古のノートパソコンを購入した。 届いた箱を開け、何気なく電源を入れる。すると、立ち上がった画面の壁紙に映し出されたのは――婚約者の手塚有博(てづか ありひろ)の、全裸の無修正写真だった。 頭の中が、一瞬で真っ白になる。 どういうこと? まさか神様のいたずら? 有博の持ち物が巡り巡って、また私のところに戻ってきたってこと? 混乱したまま、有博に電話をかけようとスマホを手に取った、そのときだった。 知らない番号から、着信が何度も続けざまに入る。 恐る恐る出ると、受話器の向こうから若い女の声が飛び込んできた。 「すみません!彼氏のパソコンを間違えて送っちゃいました!そのパソコンの中に大事な仕事のファイルが入ってるんです。絶対に触らないでください! すぐ本来送るはずだったパソコン、送り直します!送料も全部こちらで負担しますので、中のファイル、本当に触らないでくださいね!」 電話越しに響くその言葉が、胸の奥に重く沈んだ。 甘ったるい声が、やけに耳に残る。 有博には――いつから、私以外の彼女がいたの?
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万有禊ぐ天津甕星

万有禊ぐ天津甕星

門開きて、其は来たる── 幼少期に両親を【敷島】なる特務機関によって殺され、天涯孤独の身の上となった"私"は、"日ノ本の裏御三家"と呼ばれる巨大な一族に保護され、それまでの名前と人生の全てを捨てて、新たに"御陵奏"という名前を貰う。 やがて成長し、15歳になった私は裏御三家に属する巫女として認可され、日本を脅かす超常的存在・まつろわぬ神々の調査と、彼らの復活を未然に防ぐ役割を託されることとなる。 調査のため赴いた、海と山に面した町・此岸町。足を踏み入れた先は、地獄と呼ぶことすら生温いほどに悍ましい場所だった。 夕闇に蠢く種々の異形、排他的な町民、大日本帝国の復活を目論み暗躍する怨敵、特務機関【敷島】。そのような脅威に晒されながらも、裏御三家への恩義に報いるべく懸命に調査を進める私だったが── 果たして【敷島】はこの忌まわしい土地で何をしようとしているのか。そして、異形や町民たちが畏怖し、信仰している天津甕星とは何者なのか。 これより始まるは、過酷な運命という名の荒波に翻弄されながらも懸命に抗う、一人の少女の物語。
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弁護士夫婦〜利益を選ぶ夫と正義を選んだ妻〜

弁護士夫婦〜利益を選ぶ夫と正義を選んだ妻〜

白川澪(しらかわ みお)が空港で離婚協議書の内容を淡々と確認していると、親友である黒崎夏美(くろさき なつみ)が彼女を迎えにきた。 「澪!学生時代のディベート大会で、柴田くんと討論してる動画がバズってるじゃん!」 澪を見るなり、夏美が興奮を隠しきれない様子で、声を弾ませる。 「ネットじゃ『神ビジュアルの二人』って大騒ぎだよ。それに、その二人が今どうなってるかみんな知りたがってるし、推しカップルだって盛り上がってるんだから」 画面をスクロールさせていた澪の指先が、微かに止まった。 しかし、夏美は澪の異変に気づくこともなく、まくし立てるように言葉を続ける。 「当時のクラスメイトたち、解説まで始めてるんだよ。澪が反対派の代表として、法学部の憧れの的だった柴田くんを堂々と口説き落とした伝説の試合を、みんなが絶賛してる。 二人が付き合い始めた時なんて、私たちの大学に通う人たちのSNSが全部澪と柴田くんでもちきりだったもんね。誰もが澪が柴田くんを落としたなんて言ってたけど、彼が即座にプロポーズしてきて、みんなの鼻を明かしてやってさ……」
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平野の果てに青き山

平野の果てに青き山

離婚して五年目、東雲舟也(しののめ ふなや)は訴状を提出し、神野清花(じんの さやか)に離婚時に財産分与で受け取った3,340,013円の返還を求めた。 彼が金額をそこまで細かく請求したのは、記憶力が良いからではない。 それは、年下の新しい彼女――園田万莉(そのだ まり)が「退屈だ」と言い、面白がって波風を立てるようけしかけたからだ。 法廷で、彼は最後まで眉一つ動かさなかったが、当時の出費の一つ一つを鮮明に覚えていた。 清花が彼に会いにY国の首都へ行くために利用した格安航空券の16,620円でさえ、彼は調べ上げていた。 8年間愛し合い、5年間結婚生活を送り、最も苦しい時期、舟也の留学費用のために、清花は自分の病気の薬さえ、最も安価なジェネリックに替えていた。 しかし、それらすべてを、舟也は知らない。 この裁判のため、清花の銀行口座が凍結され、病院から薬をもらえないようになったことも、彼は知らない。 そして当時、末期腎不全に陥った舟也に、自分の腎臓を内緒で提供した清花が、薬の中断により医師から余命を宣告されたことも、彼は知らない。
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過去の五年間に、さよならを

過去の五年間に、さよならを

結城深也(ゆうき しんや)と秘密裏に付き合って五年。周りの誰もが、私たちは犬猿の仲だと思っている。 共通の友人の結婚式の前に、独身パーティーが開かれた。 花嫁の提案で、独身男性は全員が目隠しをして、その前を独身女性たちが歩くことになった。香りで女性の身分を当てて、一番好きな香りの女性と一日限定のカップルになるというゲームだ。 私はわざとゆっくり歩き、深也の目の前で一瞬だけ立ち止まった。 しかし、目隠しが外されたその瞬間。 彼が両腕で強く抱きしめていたのは、その幼馴染であり、ずっと心の中で忘れられない人、夏目杏奈(なつめ あんな)だった。 「すげえな結城!あんなに香水が混ざってたのに、一発で杏奈ちゃんを当てたなんて。神様もお似合いだって言ってるぜ!」 杏奈は感動で泣き出しそうで、深也も彼女を見下ろして甘やかすように笑っている。 二人とも、ずっとその腕を離そうとはしない。 二メートル離れた場所に立つ私は、ふと笑みをこぼした。 昨夜、彼はベッドで私の胸元にある傷跡にキスして、結婚すると言っていたのに。 どうして瞬きする間に、全部忘れてしまったのだろう。
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婚約者が他の女に年越し料理を作ったので、別れを決めた

婚約者が他の女に年越し料理を作ったので、別れを決めた

大晦日の夜、婚約者の神楽蓮(かぐら れん)は、私と年越しを過ごすために帰ってこなかった。 届いたのは、冷凍年越しそばが一袋だけ。 メッセージも、たった一言。 【よいお年を】 電話を切ったばかりの私は、すぐにインスタで彼の秘書・白石沙耶(しらいし さや)が投稿した写真を目にした。 テーブルいっぱいに並んだ豪華なご馳走。添えられた文は―― 【誰かさんが地元の味を食べさせたいって、一日中キッチンに立ってくれた。ありがとう、大好き】 私はもう、以前みたいに問い詰めたりはしなかった。ただ一人で、海外に行った。 私が姿を消して一日目、友人から一本の動画が送られてきた。 動画の中で、蓮は沙耶を抱き寄せながら、笑ってこう言っていた。「ただ拗ねてるだけだって。そのうち泣きながら戻ってくるって」 ――そして、一か月後。 今度は蓮が、狂ったみたいに私を探し回っていた。 「そば、打てるようになったんだ。これから一生、お前のために作る。だから戻ってきて、食べてくれないか?」 でも彼は、最後まで知らなかった。 私が一番嫌いな食べ物が、そばだったことを。
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残雪が帰り道を照らす

残雪が帰り道を照らす

夫が交通事故に遭ってから、なんだか神経質でおかしな人になってしまった。 私はたくさんの医師に相談したが、彼を刺激しないように、なるべく彼に合わせてあげてくださいと言うばかりだった。 彼は主寝室に私がいるのが嫌だと言うので、私は荷物をまとめて隣の部屋に移った。 彼は隣家の女の子が癌になってしまって、最期の時を彼女のそばで過ごしたいと言うので、私はその隣家の女の子を家に迎え入れた。 ところが、私は夜中に胃が痛くて胃薬を探しに行ったとき、安井晴紀(やすい はるき)の優しい声を耳にした。 「清華、ちゃんと生きていくんだよ。そうじゃなきゃ、俺も死んでしまう」 橋本清華(はしもと さやか)が喘ぎながら甘い声で言う。「でも、知花(ちか)さんは本当に骨髄をくれる気があるの?」 「もちろんさ。たとえ俺のために死んでくれと言ったって、彼女もきっと心から喜んでやってくれる」 私はその場で呆然と立ち尽くし、涙が止めどなくあふれ出た。 その通りだ。五年前、私は彼に腎臓をひとつ提供したことがあった。 あの頃、私は本当に彼を愛していて、死んでもいいと思っていた。 しかし今の私は、ただ彼のもとを去りたいだけ。
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迢迢たるこの想い

迢迢たるこの想い

経栄市では誰もが知っている。陸川家の御曹司は藤原美織(ふじわら みおり)に狂おしいほど恋い焦がれ、あらゆる手を使って彼女を元夫から奪い取ったのだと。 不倫略奪の末に美織を手に入れた彼は、彼女の周囲に現れるありとあらゆる異性に神経を尖らせていた。 美織が仕事中、男性の同僚とほんの少し言葉を交わしただけで、その夜には執拗に問い詰められる。 仕事帰りにふと犬に餌をやれば、その犬の飼い主が女だと確認できるまで気が済まない。 誰かがうっかり美織の元夫の名を口にしようものなら、彼はたちまち警戒を強め、彼女の腰を強く引き寄せ、不機嫌もあらわに言い放つ。 「今の美織の夫は俺だ。あの男の話を蒸し返す奴は、全員会社から消えてもらう」 誰もが口を揃えて言った。美織は離婚して、ようやく本当の相手に巡り合えたのだと。 新聞の一面を飾った盛大な結婚式、値のつけようもない王冠やジュエリー、一年も予約してようやく手に入れたウェディングドレス――陸川凌雅(りくがわ りょうが)は、その愛も真心もすべて彼女の前に差し出していた。 美織自身も、そうだと信じていた。結婚して二年目、彼女は思いがけず妊娠するまで。
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