花咲の響き、何処とも知らず
「院長先生、この前おっしゃっていたヨーロッパ留学の件については、決めました。私、行きます」
月岡花咲(つきおか はなお)は虚ろな目で鏡を見つめた。そこに映っているのは、青ざめた顔に赤く腫れた目、そしてどこかやつれた自分の姿だった。
電話の向こうで、院長の弾んだ声がすぐに返ってきた。
「やっと決心してくれたのね、それでいい。このチャンスは一度きりよ。ただし、ご主人とちゃんと話しておきなさいね。行ったら三年間は戻れないし、手続きもあるから、遅くとも来週には出発しないと」
花咲は深く息を吸い込んだ。
「大丈夫です。ちゃんと折り合いをつけます」
話しを終えるや否や、彼女は慌ただしく電話を切った。
少しでも遅れれば、泣き声を抑えられなくなりそうだったからだ。
花咲は先週、立て続けに七件の再建手術をこなした。
最後の女の子の患者は、特に強く印象に残っている。
透き通るような白い肌、細い足、あどけない可愛らしさを残す顔立ち。
そして、何よりも驚いたのは、その女の子が自分とどこかよく似ていることだった。