良妻卒業~夫が全財産を隠し子へ~
夫の北条浩平(ほうじょう こうへい)がインタビューで、自分の財産の分与はもう決めてあると話していた。
記者が、「奥さんと息子さんには、きっとそれなりの金額が残されるんでしょうね」と冗談っぽく言った。
浩平は優しく笑って、静かに首を振った。
「妻と息子には、生活に困らない程度のお金を残しただけなんです。
それ以外の財産は、すべて養女に譲ることにしています。
これは約束なんです。あの子を一生、何ひとつ不自由なく暮らせるようにするって、彼女のお母さんのお墓の前で誓ったんですよ」
子供たちの食事の支度をしていた私の手は、ぴたりと止まった。私ははっとして、テレビに目を向けた。
テレビの中の浩平は、若くして亡くなった初恋の人について、その思い出を熱心に語っていた。
やがて、記者が再び口を開いた。
「そのことを……奥さんはご存じですか?」
浩平は一瞬戸惑ったようだが、笑顔は崩さなかった。
「ええ。妻が反対することはありませんよ。
彼女はこの数年間、養女の面倒もよく見てくれています。雇った家政婦より、よっぽど優秀ですよ」
私はエプロンを外し、養女・北条由花(ほうじょう ゆいか)のおもちゃを拾ってあげていた息子・北条洵(ほうじょう じゅん)を抱き上げて、子供部屋に戻った。
結婚して5年。もう我慢の限界だった。
どうせ、私たち親子には何一つ残らないんだ。だったら、こんなお手伝い役、もうごめんだ。やりたい人がやればいい。