私が事故った日、彼は元カノを選んだ
私は交通事故で肋骨を折って苦しんでいた。
だがその時、加代雅臣(かしろ まさおみ)は――失恋して酒に溺れる元恋人の小林真智子(こばやし まちこ)の世話にかかりきりだった。
私は必死に電話をかけ、そばに来てほしいと頼んだ。けれど彼は私を責めた。「今、真智子には俺が必要なんだ。お前だって少しは分かってやれないのか?
自分は看護師だろ?自分のことぐらい面倒見られるはずだ」
その言葉に心が折れ、私は別れを告げた。だが彼は逆に怒り出した。「俺はお前にプロポーズするつもりだったんだぞ。うちの会社には何千人もの社員がいる。俺の妻になれるのは誰でもいいわけじゃない。
今日の出来事は、お前が『良き妻』になれるかどうかの試練だったんだ。独立して、大らかで、無条件に俺を支えられるかどうか……
たかがこれくらいのことで音を上げるとは思わなかった!
早苗、お前には心の底から失望した!」
翌日、彼は自分のインスタに元恋人とのツーショット写真をアップした。
私へのメッセージには、こう記されていた。
【よく考え直して、謝りに来なさい。さもなければ、俺はもう別の女と一緒になる】
私は謝りに行くことなく、その街を後にした。
――彼がいる場所から、遠くへ。
そして三年後。
ある金融会社のビルの一階で、私は再び彼と出会った。
着ぐるみ姿の私は動きが鈍く、顔は派手なメイクで覆われていた。息子・進野春樹(しんの はるき)の誕生日のためにサプライズを準備していた。
一方、彼は高価なスーツを着こなし、隣には完璧なメイクを施した真智子を伴っていた。
雅臣は一目で私だと気づき、笑い声をあげた。「早苗、やっぱり俺のことがまだ好きなんだな。
結婚の話を公表したところ、我慢できずに現れた。
しかも、俺の好きなマーベルのキャラクターにわざわざ扮して……必死すぎるだろ。
どうだ?まだ俺と仲直りしたいのか?
ここで土下座して謝るなら、改めて考えてやらなくもない。お前を俺のそばに戻してやってもいいんだぞ」
私は答えなかった。
――たしかに、かつての私は彼を心の底から愛していた。
だが、それはもう過去のこと。
今日は、春樹の誕生日。
この着ぐるみは、春樹にサプライズを贈るためのものだ。