元カレ再登場、愛人の世話をしろだと
前の入居者からもらった野菜を片手に、三軒目の家賃を取りに行こうとしたその時。
まさかの人物と、団地の入口で鉢合わせた。
男は眉をひそめ、私の手元の野菜をじっと見つめる。
まるで「俺と別れたらこんな暮らししかできないのか」とでも言いたげに。
その視線に気づいて、私は思わず野菜を背中に隠した。
足元の泥水に目を落とした。
――よりによって、こんな古びた団地で。
幼い頃から何不自由なく育ってきた、あの元カレに再会するなんて。
私の仕草を見て、男の目に一瞬だけ哀れみと理解の色がよぎる。
「もう懲りただろ。いいから俺のところに戻ってこい」
その声に反射的に半歩下がる。
「誰があんたと戻るって?」
私の態度に目を細め、男の顔色は一気に曇った。
「……お前、まだ桜雨(あめ)に子どもを産ませたことを怒ってるのか?もう三年だぞ。そろそろ気が済んだだろ。戻ってくれば、また昔みたいにやり直せる」
――三年。
時が経つのは、早いものだ。
家でまだ片言しかしゃべれない娘を思い出し、私は笑みを浮かべて首を振った。
「……もういいわ。あんたは宍戸さん(ししど)と仲良く暮らしなさい。私には、家でご飯を待ってる娘がいるの」