なぜか人気俳優に飼われています〜消えるはずだった私がまさか溺愛されているなんて〜

なぜか人気俳優に飼われています〜消えるはずだった私がまさか溺愛されているなんて〜

last updateHuling Na-update : 2025-07-05
By:  KayaIn-update ngayon lang
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「侑さんがもう駄目だと思うなら、残りの人生俺に下さいよ。」 常磐侑34歳。 女優としてしか生きれない不器用な女は人気が低迷して、心を病んでいく。 そんな時に後輩俳優である綿貫昴生が甘い言葉を囁いた。 ※疲れた大人の恋愛ラブストーリー。

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Kabanata 1

人気俳優の告白

 「⃞侑⃞さ⃞ん⃞が⃞全⃞部⃞、⃞失⃞く⃞し⃞て⃞く⃞れ⃞て⃞よ⃞か⃞っ⃞た⃞。⃞」⃞

 「⃞じ⃞ゃ⃞な⃞け⃞れ⃞ば⃞手⃞に⃞入⃞ら⃞な⃞い⃞と⃞こ⃞ろ⃞だ⃞っ⃞た⃞。⃞」⃞

 例えるなら私は一本の煙草《シガレット》。

 火を点ければ中心温度は約800℃にもなる。

 真っ赤に燃え広がり、5,300種類以上もの化学物質を含んだ煙を排出して、後は静かに灰になっていく。

 まるで落ち目女優の人生そのもの。

 「侑《ユウ》さんがもう駄目だと思うなら、残りの人生俺に下さいよ。」

 事務所が同じで、後輩でもある綿貫昂生《わたぬきこうせい》は、今飛ぶ鳥をも落とす勢いで売れている人気俳優である。

 去年主演を務めた映画で、アカデミー賞の優秀主演男優賞を受賞。

 そこから人気が一気に爆発して、今年はドラマの主演だけでも既に3作品目を更新中。

 新たに映画の主演も決まっている。

 加えてCM起用に、テレビ、バラエティ番組への出演依頼も殺到しているんだとか。

まさに今、誰よりも多忙を極めている男だ。

 年齢は私より二つ下の32歳。かみは黒で、瞳は焦茶色。鼻筋が通り、全体的に色気がある。

 容姿も雰囲気もどこか日本人離れしていて、欠点など見つからないくらい完璧だ。

 声は澄んだ低音で、私服はいつもモノトーンにまとめ上げたコーデ。

 香水は爽やかなマリン系を漂わせている。基本的に誰にでも優しい。

 そんな彼がこんな落ち目女優の私に。

 「一体………何の冗談?」

 その言葉を私の口から自然と発生させる程に。おかしな提案だった。

 *

 15歳で朝ドラデビューした私、常磐侑《ときわ ゆう》は一躍時の人となった。

 ———飾らない素朴さの中にも煌めく才能。

 独特な台詞の言い回しや、間の空け方の絶妙さ。滲み出る情熱感。

 彼女の演技は見る人の心を揺さぶる。これぞまさに天性の女優と言えるだろう———

 その時、一緒に映画の仕事をした監督の言葉は当時の雑誌の誌面を飾った。

 そうやって一度人気になると、CMに、テレビ番組のゲストに、ドラマ出演など次々と仕事が舞い込んできた。

 だけど——人気というものはそう長くは続かないものだ。

 「ねえ、この人名前なんだっけ?」

 「えどれ?どの人?

 あー…それ常磐侑だよ。」

 「あ、そうだった!すっかり忘れてたあ」

 「確かに。テレビでも全然見ないからね。」

 立ち寄ったカフェで、スマホの動画を見てる若いOL風の2人組。

 そんな彼女達のすぐそばに当人が座っていても気づかれない程、薄れた存在。

 それが現在《いま》の私————。

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人気俳優の告白
 「⃞侑⃞さ⃞ん⃞が⃞全⃞部⃞、⃞失⃞く⃞し⃞て⃞く⃞れ⃞て⃞よ⃞か⃞っ⃞た⃞。⃞」⃞ 「⃞じ⃞ゃ⃞な⃞け⃞れ⃞ば⃞手⃞に⃞入⃞ら⃞な⃞い⃞と⃞こ⃞ろ⃞だ⃞っ⃞た⃞。⃞」⃞ 例えるなら私は一本の煙草《シガレット》。 火を点ければ中心温度は約800℃にもなる。 真っ赤に燃え広がり、5,300種類以上もの化学物質を含んだ煙を排出して、後は静かに灰になっていく。 まるで落ち目女優の人生そのもの。 「侑《ユウ》さんがもう駄目だと思うなら、残りの人生俺に下さいよ。」 事務所が同じで、後輩でもある綿貫昂生《わたぬきこうせい》は、今飛ぶ鳥をも落とす勢いで売れている人気俳優である。  去年主演を務めた映画で、アカデミー賞の優秀主演男優賞を受賞。 そこから人気が一気に爆発して、今年はドラマの主演だけでも既に3作品目を更新中。 新たに映画の主演も決まっている。 加えてCM起用に、テレビ、バラエティ番組への出演依頼も殺到しているんだとか。まさに今、誰よりも多忙を極めている男だ。 年齢は私より二つ下の32歳。かみは黒で、瞳は焦茶色。鼻筋が通り、全体的に色気がある。 容姿も雰囲気もどこか日本人離れしていて、欠点など見つからないくらい完璧だ。 声は澄んだ低音で、私服はいつもモノトーンにまとめ上げたコーデ。 香水は爽やかなマリン系を漂わせている。基本的に誰にでも優しい。 そんな彼がこんな落ち目女優の私に。 「一体………何の冗談?」 その言葉を私の口から自然と発生させる程に。おかしな提案だった。 * 15歳で朝ドラデビューした私、常磐侑《ときわ ゆう》は一躍時の人となった。 ———飾らない素朴さの中にも煌めく才能。 独特な台詞の言い回しや、間の空け方の絶妙さ。滲み出る情熱感。 彼女の演技は見る人の心を揺さぶる。これぞまさに天性の女優と言えるだろう——— その時、一緒に映画の仕事をした監督の言葉は当時の雑誌の誌面を飾った。 そうやって一度人気になると、CMに、テレビ番組のゲストに、ドラマ出演など次々と仕事が舞い込んできた。 だけど——人気というものはそう長くは続かないものだ。 「ねえ、この人名前なんだっけ?」 「えどれ?どの人? あー…それ常磐侑だよ。」 「あ、そうだった!すっかり忘れてたあ」 「確かに。テレビでも全然見ないからね。
last updateHuling Na-update : 2025-06-17
Magbasa pa
人気俳優の告白
  彼女達はまさか本人がこの場にいるとは思ってもないようで、無邪気にお喋りを続けた。 「なんか、その俳優さん。演技だけは上手かったんだけど他が駄目だったっていうか。バラエティ番組であんまり喋らないし、共演者とも打ち解けるのが苦手だったみたいで…いつの間にかテレビから姿を消したイメージがあるなあ。言って不器用な人…?」 「よく覚えてるね。私はあんまり。この冬のドラマにだって端役でしか出てないし。今何歳くらい?」 「うーん。私が小学生の時で朝ドラの時が15歳っていうから、今は33、4歳くらいじゃないかな?」 「あー……そっかあ。もうそんな歳なんだ」 30歳過ぎれば、もうそんな歳だと言われる。 それに近頃は女優も、俳優と呼ばれる時代だ。  人気絶頂だったあの当時はカフェでコーヒーを飲もうものなら、ファンに囲まれて大騒動が起きる程で。 だけど今はすっかり落ち目だから、気づかれたって面白おかしそうに噂話をされるだけ。 悲しい事に。 それでも女優をやめないのは、私にはそれしかないから。 その子達が言うように私は不器用な人間だ。 * あれがつい昨日の出来事。 そんな私に。なぜ君が……? 「綿貫くん? 冗談で言ってるなら私怒るよ?」 今一緒に共演してる刑事ドラマ。 その主役がこの男。綿貫昴生だ。 今日は私が出る最後の撮影があって、同じ事務所の先輩だからと彼が控え室に挨拶にきた。 その流れで今の告白だ。 「冗談じゃなければ怒らないんですか?」 鏡台を背に寄りかかり、昴生は意味あり気な笑いかたをする。 人気俳優の返す返事はやはり一味違う。 気もする。 「だって侑さんが自分は駄目な人間だって言うから。 もうどうしようもないって。 生きてても仕方ないって言うから。 そんな悲しい事言うくらいなら、どうせもう俳優業にも……この世にも未練なんてないんでしょ? だったら俺に下さいよ。 侑さんの残りの人生を。」 そんな言い方した覚えは—————いや。 したのかな。無意識に。 この後輩くんに。 だって今日のこの仕事が終われば後のスケジュールは真っ白だし、一昨日恋人には別れ話をされるし。  でもこの世に未練がないなんて言ってない。 言ってないよ。 言いたくても。踏み留まったはずなのに。 さっきから和やかに笑うこの男は、確
last updateHuling Na-update : 2025-06-17
Magbasa pa
人気俳優の告白
 死にたいなんて言ってないのに、死にたいと思ってる心を見透かされたのか。 この男は一体誰………? 堂々と私と体の関係を持ちたいと発言する、何やらとんでもない男みたいだ。 「———侑さん。返事は貰えないんですか?」 「ごめん。……私にはそんな気ないよ。」 視線を逸らして私は昴生の告白を淡々と断った。 まるでドラマのセリフみたいに。 ———これまでの女優生活でこんな風にアプローチしてきた男達が何も全くいなかったわけじゃない。 ただしそれもまた、人気絶頂の時だけの話。  そういう人は大抵私と関係を持ちたがった。 私の持つ知名度が欲しかったから。 勿論当時は、そんな男達の告白を断るのも慣れていた。  だけど今は、こんな落ち目女優に好き好んで交際を申し込む人なんていない。  どうせ、からかってるんでしょ? 私は鏡台の前に立つ、背の高い昴生を見上げた。 「ねえ…侑さん。これだけは聞かせてくださいよ。 何で断るんですか? 俺、自分で言うのもなんだけど、今俺ほど売れてる人気俳優なんてこの日本にいないと思うんですけど。 しかも結構稼いでる。 顔もそこそこ悪くはないでしょう? その俺が侑さんを下さいって頼んでるんですよ。美味しい物件だとは思いませんか?」  本当に自分で言っちゃうんだ。 もしかすると私も売れていた時期はこんな風に傲慢だったかも知れない、なんて事をぼんやりと考える。 「……綿貫くん。はっきり言うね。 私はあなたの事は、才能のあるいい俳優だと思ってる。 それに、まだこれからも伸びると思う。 ただ…… 私はあなたには一切興味がない。 顔も好みじゃない。だから……ごめんね。」 「……そっか。 顔が好みじゃないって言われたら、それはどうしようもないですね。」  少し堪えたのか、昴生は前髪をかき上げ、深い溜息を吐いた。 諦めてくれたかな。揶揄《からか》いがいがなくて、本当にごめんね。 そもそもこんな私に、君のように今人生が一番輝いてる人が興味を持ってるなんて、ありえない。  「だけど……興味を持って貰える可能性はありますよね? 例え今はゼロでも?」 話は終了したように思えたのに、昴生は自信ありげに、にこっと笑った。 「なら……いくらでも待ちますよ。 侑さんが俺の事に興味を持つまで。 ————
last updateHuling Na-update : 2025-06-17
Magbasa pa
無価値
 最⃞後⃞に⃞一⃞つ⃞だ⃞け⃞残⃞る⃞な⃞ら⃞、⃞私⃞は⃞—⃞—⃞が⃞い⃞い⃞。⃞  「はい、オーケーです!」 「わー、侑さんお疲れ様でしたー」 最後のシーンを撮り終わると、共演者とスタッフからバラバラとした拍手と、小ぢんまりとした花束が送られた。  最初の数話に出るだけの本当の端役。 しかも殺されて終わりという。 血糊を拭き取り私は慌ただしく挨拶する。 「ありがとうございました。」 拍手が疎になったところで、またスタッフが慌ただしく動き出した。 「はーい、では時間がないので撮影再開しまーす。」 私の演じる役が死んだ所でこのドラマは終わらないし、撮影はまだまだ続く。 忙しそうな共演者とスタッフの後ろ姿を見つめ、私はもう一度深く頭を下げた。 「ねー…まりか見てよあれ。まだスタジオにいるつもりかな?もう出演シーンもないくせに。」 「ホント。さっさと帰れっつの。 まだ自分が売れてる女優だとでも思ってんのかな。」 ヒロイン役で人気俳優の浅井《あさい》まりかと、共演者のアイドルの子が露骨に悪口を囁きながら移動していった。 ひとりだけ切り離された空間。まるで自分の存在がこの世から消えたかのよう。 そうして、撮影所の脇にいる目立たない私を最後に見たのは、あの人だけだった。 綿貫昴生。 彼だけが私を見つめ、謎めいた笑顔を向けていた。 〈————侑さん、また会いましょう〉 声には出さず、器用に口だけ動かしている。 その時の昴生の笑顔は、カメラに写ってないこんな時でも、息を呑むほど美しかった。 * この役が終わったら白紙のスケジュール。 しかもコロナの影響でどの俳優も仕事が激減してる。 それが私ともなると尚更だ。 「ごめんなさい、侑さん。 私が不甲斐ないマネージャーなばかりに。 営業はしてるんですが、中々見つからなくて。」 鳥飼《とりかい》さんは人気が低迷した辺りから私の担当になった、年下の女性マネージャーだ。 帰り道の車の中。鳥飼さんが悲しそうに呟くと、返って申し訳ない気分になった。 「大丈夫だよ、鳥飼さん。 それにこんな私のために一生懸命仕事を探してくれてありがとう。 本来なら私も一緒に営業するべきなのに。 でももう……いよいよ、なのかな。」 「や……やだ、侑さん。そんな。これが最後みたいな言い方しないでく
last updateHuling Na-update : 2025-06-17
Magbasa pa
無価値
 何となく鳥飼さんとの会話が終わるとスマホを開いた。  最近、仕事が無いのを気にして、無意識に自分のエゴサーチをするようになっている。  人からの評価は怖いものだ。 だから余計に見てしまう。 怖いのについホラー映画を見てしまう。 その不可解な衝動に似てる。 「侑さん、エゴサなんて辞めた方がいいですよ?私嫌ですもん。 自分が顔も知らない誰かに悪口言われてるの見ちゃったら、立ち直れませんよ。」 「ん……別にしようと思ってるわけじゃないんだけどつい。 確かにエゴサは怖いけど、逆にこれ見てメンタル鍛えようかなって。 そしたら何か自分の悪い部分が変わるきっかけにならないかな。」 「もー、本当にやめて下さいね。 あれ絶対にメンタルにきますよ? 実際SNSで叩かれた女優さんが自殺とかしちゃってるじゃないですか。」 ハンドルを握りながら鳥飼さんは涙声で言う。 しかし彼女の言葉は耳を素通りした。 自分の評価が露骨に書かれてるSNSなんかで、この所頻繁に見かける言葉がある。 きっとこれを言う人は単にストレスを発散させてるだけか、もしくは本心から悪意を持って言っているかのどちらかなんだろうけれど。 頭から離れない、有機ELディスプレイの画面に羅列した文字。〈常磐侑————死ねばいいのに〉 リアルタイムで載せられる言葉の暴力たち。  確かに私の女優人生において、誰かに嫌われるような理由はいくつも存在していると思う。 まず万人に好かれるなんてある筈がないけれど、私の場合は思い当たる節が多過ぎて反論するのも躊躇ってしまう。 ただ顔も知らない誰かに死を願われるのは、結構堪えるものがある。 それはいつも私の心を深く突き刺す呪いの言葉。  シネバ イイ ノニ *** 悪い予感というものはよく当たる。 いつも悪い未来ばかり想像しているからだ。 「なあ………侑。お前今自分の立場分かってる?」 ふう、っと煙草の煙を吐き出し、事務所の社長である八重樫《やえがし》はデスク上で私と目を合わせる。 まるで塵でも扱ってるみたいな態度で。 今だに紙煙草愛用者の八重樫の部屋は、独特な匂いがする。 「いくら今、綿貫昴生が人気絶頂期と言っても片や仕事もない女優を養うほど、うちの会社は潤ってるわけじゃないんだよ。」 社長の嫌味にも随分慣れた。 売れ
last updateHuling Na-update : 2025-06-17
Magbasa pa
無価値
  不器用で人付き合いが苦手。  どんなに頑張っても場を白けさせてしまい、バラエティ番組はおろかニュースの番宣にさえ出演の声が掛からなくなった。 だから当然女優の仕事も減る。 そんな経緯から人前に立つのが億劫になり、営業もマネージャーに任せてばかり。 ネットでは共演者に態度が悪いと陰口を叩かれている。 本当に女優しかできないつまらない女。 女優でなら役を演じてられるから。自分を曝け出さずに済むから。 けれど今はマルチタスク型の俳優を求める時代だ。 テレビのバラエティ番組でも、ニュース番組のゲストでも受け答えがそれなりにできて、面白いことがある程度言えて、空気が読める人。 私にはそれができない。 与えられた役を演じる事しか。 それしか。 解雇かヌードか。良く考えてみてくれ。 その2択以外ないと八重樫は怖い顔をして言った。  * 「……侑ちゃん。いよいよ解雇を言い渡されたんだって?」 「是枝《これえだ》さん。」 どこで噂を聞きつけたのか、是枝は以前から食事の誘いをひつこくしてくる番組のプロデューサーだ。 今回はこの刑事ドラマで何かと顔を合わせる事が多かった。 僕の顎髭がワイルドだろう?といつも自慢してくる、正直苦手な男。 「ねえ、もし侑ちゃんが望むなら、僕が社長に掛け合ってあげるし、僕のツテで女優の仕事をいくつか紹介してあげる。 だから…ね?いつか食事に行こう?」 この目———この口調。 昔から人をベタベタと触る癖のあるこの人が、食事だけで終わるはずがない。 もう………正直、何もかもがしんどい時にきている。 もしもこの男に体を売れば、私は何か以前の輝きを取り戻せるんだろうか。 裸になってそれを好奇の目に晒せば、私はまた仕事を貰えるんだろうか? そうじゃない。 きっと落ちていく。 きっと私は落ちるだけ落ちていくだろう。 寝たくもない人と寝ればそれも同じこと。 始まりが頂上だったせいで、落ちた時の上り方が分からずに。 こんな時にはつい彼の存在を思い出してしまう。 ————会いたい。もう叶わないけれど。 彼に。もう一度会いたい………………
last updateHuling Na-update : 2025-06-17
Magbasa pa
死なせません
  好⃞き⃞だ⃞よ⃞。⃞侑⃞。⃞  鳥飼さんに送って貰い、誰も待っていないマンションに戻った。 ライトアップされた水槽の中で、元気に泳ぐ熱帯魚だけが私を出迎えてくれる。 いよいよ完全に仕事がなくなる。 そしたら収入がゼロに。 それなりに家賃が高いこのマンションも、すぐに引っ越さなければならないだろう。 軽く夜飯を食べ、お風呂を済ませ、後は暗くした部屋のベッドの中でスマホを見つめた。 ———今も思い出すのは別れたばかりの一般人だった元彼。 情けない事に私は今だに未練を引きずっていた。 つい見てしまうのは、まだ消しきれない彼の電話番号やSNS。 中学が一緒だった同級生の聖《ひじり》とはまだ人気が低迷する前に偶然再会し、それから付き合うようになった。 『好きだよ、侑。』 『侑は人気女優だから、すぐに他の芸能人に取られるんじゃないかって凄く不安だよ。』 『大丈夫だよ。 私は浮気なんか絶対しない。信じて。』 そう言っていた彼も、私の人気の低迷と共に心が離れていった。 『今…侑仕事ないんでしょ? 俺、お前を養えるほど稼ぎないから』 聖。誰もあなたに食べさせて欲しいなんて思ってないよ。 『侑の事好きだけど…ごめん。 それに今、俺の事好きだって言ってくれる子がそばにいる。 そもそも女優と付き合うなんて……俺には初めから無理だったんだ。 ……だからもう俺達、終わりにしよう。』 確かに私達は、普通の恋人のように頻繁には会えなかった。 女優なんだから週刊誌に撮られないようにしろとか、会う頻度を減らせとか、社長からは口を酸っぱくして言われていた。 実際にまだ人気のあった時期は、スケジュール調整が難しくて、全くと言っていいほど会えなかった。
last updateHuling Na-update : 2025-06-18
Magbasa pa
死なせません
  きっと私は女優を辞める選択すらできない。 弱い女。 *  「ありがとう、侑ちゃん。今日は美味しいものをいっぱい食べていいからね。」 待ち合わせたビルの地下駐車場で是枝は周りに人がいないのを確認し、上機嫌に私を車の中に押し込んだ。 今日はあのドラマの撮影が行われていた。 撮影に用がない私は、番組スタッフや綿貫昴生に会わない事を願いながら、隠れるように待機していた。 是枝が約束の時間に現れるまで。 この男と食事して、最後は体を売るのだ。 そう思うと今から気が滅入る。 誰かに密会現場を見られるんじゃないかと心配していた割に、駐車場で誰かと鉢合わせする事もなかった。 やがて是枝が運転する車が夜の街を走り出した。 「今日ね人気店のディナーを予約しといたからね…かなり有名なシェフが……」 ハンドルを握りながら、是枝が得意気に話し始める。 話半分で相槌を打ち、私はまた無意識にスマホを開いていた。 鳥飼さんが、エゴサーチなんてやるもんじゃないって、あんなに言っていたのに。 今の時代、見たくないものを嫌でも見る時代だから、自分で嫌なものを見ないように避けるしかないって。 確かにSNSなどで叩かれた女優や俳優が、自ら命を絶ってしまう。 まさにそんな時代だ。 〈常磐侑、演技下手くそ〉 〈共演者と喋らないとか何様?〉 〈今だに自分が売れてると思ってる〉 〈良かったのはデビュー当時の、朝ドラの時だけ〉 〈嫌いな女優No.1〉 〈死ねばいいのに〉 見たくないものを見る。 知りたくない現実を見る。 自分が人から疎まれてるという事実は、どうしたって消えない。 「はあ、っ、はあっ……」 「侑ちゃん?どうしたの、急に?」 「…&hel
last updateHuling Na-update : 2025-06-18
Magbasa pa
死なせません
 「————ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア」 車の中に響き渡る乱れた呼吸音。 胸…いや心が苦しい。 肺が過剰に空気中の酸素を取り入れて、過剰に二酸化炭素を放出している。  緊張で力が入り、寒いわけでもないのに体がブルブルと震え、冷たい汗が滲んだ。 「ちょ、ちょっと……!侑ちゃん何?怖い怖い怖い! 悪いけど車降りてくれない?」 急ブレーキがかかる。 是枝は急停車し、薄暗い路地裏にあるホテル街に私を一人だけ降ろし、あっさりと車で走り去ってしまった。 きっと私に何かあった時に、自分が責められるのが嫌だったんだろう。 「……っう」  まだ呼吸がままならない。吐きそうだ。 胃が痛んで捩じ上げられる。 気持ち悪い。 怖い。嫌だ。死にそう。 私どうなってる? 長い前髪をかき上げ、汚れたラブホテルの壁に体を傾けた。  「うわ何あれ?」 「きもー。 関わらずにさっさと行こ!」 ホテルから出てきたホストみたいな男とギャル風の女が、怪訝な顔して走り去って行った。 これが今の常磐侑《わたし》だ。 誰にも女優だとは気づかれない、薄れて忘れられた———————  〈常磐侑———死ねばいいのに〉 今頭に浮かぶのはあの言葉ばかり。 もしも今私が死んだら、誰か泣いてくれるだろうか? 家族のいない私の支えは聖だけだった。  その彼は……泣いてくれるだろうか? いや、きっともう聖は泣いてはくれない。 新しい恋人がいるから。 社長は
last updateHuling Na-update : 2025-06-20
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遅咲きの後輩
 侑⃞さ⃞ん⃞、⃞覚⃞悟⃞は⃞で⃞き⃞た⃞ん⃞で⃞す⃞ね⃞?⃞   確かにあなたに一切興味がないと言った。 顔も好みじゃないと。 だけど一つだけ言ってない事がある。 私はあなたの演技にだけは心底惚れていた。  彼は私とは真逆の遅咲きの俳優だった。 12年前———— まだ人気絶頂だった頃に、20歳で俳優デビューした綿貫昴生と出会った。 「初めまして。綿貫昴生です。」 「…初めまして。常磐侑です。」 「知ってます。常磐さんの名前を知らない人なんて、日本のどこにもいないと思いますよ。 むしろそれ、日本人じゃないかも。」 事務所の後輩として紹介された彼は、穏やかな笑顔をして私を見つめていた。 まだ学生のようなあどけなさと、何にも染まっていない素朴さが滲む青年。 少しだけ緊張したような面持ちで、肩にはがっつり力が入っていた。 その初々しさを、今だに覚えている。  「常盤さんには本当にずっと憧れてました。 これからは事務所の先輩後輩として、色々ご指導の程を宜しくお願いしますね。」 「あ……うん。私で良ければ。」 屈託のない顔で微笑まれ、握手を求められたけど、その頃も相変わらず不器用な性格だった私は素っ気なく返事をした。 しかも握手するのに、もたついてしまうという。  どんな役でも演じることができるのに。 私は台本のない素の自分を曝け出すのが、一番苦手だった。  「こら、侑…!ごめんね〜綿貫くん。 侑ってちょっと不器用なとこあるから、言い方は素っ気ないかもだけど気にしないでね。」 当時敏腕マネージャーと言われていた佐久間《さくま》さんは評判通りの人で、こうやって私のフォローをする事も忘れなかった。  その時は昴生
last updateHuling Na-update : 2025-06-20
Magbasa pa
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