勝手な奴らに振り回されたあげく22歳で事故死した俺は、なんと恋愛ありBLありの乙女ゲームの世界に転生していた。 今世の俺は完全無欠を誇る筆頭公爵家嫡男のラスボス悪役令息。 好き勝手にしてやるはずが…なんでみんな俺に惚れる?!主人公はあっちだろ?! そうこれは、このゲームの全てを熟知している全スチル回収済みの俺が 攻略対象を避け、好き勝手に異世界無双!をするはずだった物語。
View More悪役令息に転生した俺は、悪役としての花道を行く……はずだった。
俺の名はアスカ・ゴールドウイン。
帝国の筆頭公爵家の嫡男にして完全無欠の悪役令息、それが俺だ。自ら完全無欠というとまるで痛い男のようだが、単なる客観的事実なのだから仕方ない。
そう、ここは乙女ゲームの世界。俺はそのラスボス悪役令息なのである。
なぜそんなことが分かるのかって?
実は俺には前世の記憶があるのだ。
前世の俺は、いわゆる「真面目に頑張る」人間だった。そして自分の欲望に忠実な奴らにこき使われ搾取され、さんざん翻弄されたあげく、最後は過労による事故であっけなく死んだ。
自由になる準備をしていた矢先だった。享年22歳。みじめで短い一生だ。
死ぬときにこう思った。
「真面目に善良に生きてきた俺がなんでこんな目に合うんだよ!神なんていない!神がいるんなら、うらんでやる!もし生まれ変われたら、今度は好き勝手に生きるぞ!俺が信じるのは俺だけだ!」
………もしかしたら神はいたのかもしれない。
だって俺は鬼畜のオタク姉がはまっていたBLゲーム「太陽と月のロンド」の登場人物、そう、最強にして最恐の悪役令息アスカ・ゴールドウィンに生まれ変わっていたのだから。……。
俺が前世の記憶を取り戻したのは5歳の時だ。
それまでは自分が人間嫌いな理由も分からなかったし、自分の異常なほどのハイスペックも意味が分からなかった。まあ訳は分からなくとも好き勝手やってはいたのだが。
だがある日、退屈な授業から逃げ二階から飛び降りた俺は、着地に失敗して頭を打った。その時、走馬灯のように脳内を駆け巡ったのが、俺の前世の記憶だった。
5歳の頭に25年分の記憶が流れ込んだんだ。どう考えても容量的に無理がある。そのせいで俺は1週間寝込み、目を覚ましたときには俺のおかれた状況全てを理解していたのだった。
もう笑うしかない。
俺が生まれ変わっていたのはハイスペックなラスボス、いわゆる死にキャラだったのだから。
おいおい、悪役令息かよ!死ぬ前に神を罵ったせいか?
これで俺が神童扱いされている理由も、明らかに異常なハイスペックであることにも納得がいった。全ては俺が「ラスボスだから」だ。敵が強大であれば強大であるほどクリアしたときの感動が大きいのもだからな。
しかもこの乙女ゲームは単なる乙女ゲームではなかった。男と女だけでなく、男同士、女同士、あらゆる恋愛が楽しめるクソみたいな仕様なのだ。
ゲームのメインストーリー通りなら、俺は王子と主人公の障壁として立ちふさがり、断罪され、地方で野垂れ死にする羽目になる。これは他のどのルートに行っても変わらない。
主人公が女なら、俺は主人公に横恋慕し攻略対象と主人公を奪い合い、主人公を手に入れるためにあらゆる悪事に手を出し、断罪される。
主人公が男なら、攻略対象の婚約者として主人公の前に立ちふさがる。嫉妬の炎を燃やし、主人公を貶めるためにあらゆる悪事に手を染め、断罪される。
いずれにしても必ずなにかしらの悪事を働き、どこかに飛ばされたり破産させられたりして野垂れ死ぬのだ。
ハイスペックの設定なんじゃないのか?便利に使われすぎだろう悪役令息!
だが問題ない。
他の奴なら詰んだだろうが、転生したのは他でもない、この俺だ。
俺は鬼畜でオタクな姉に全ルートの攻略をさせられたのだ。全てのスチル回収を命じられていたため相当やりこんだ。
つまり、このクソゲームを熟知しているのである。
幸い今の俺は悪役といえど最高位貴族。ビジュアル的にも文句なしの美形。おまけに頭よし運動神経よし魔力膨大という高スペック、怖いものなしだ!
そもそもゲームの強制力かなんだかしらんが、ここまで最強の設定で「頑張る健気な主人公」やら「お育ちの良いご立派な王子様」やら「王子の側近軍団」程度になぜ敗北する?普通に考えたらあり得ないだろう。
俺はこの俺の新しい人生に、敗北という言葉など存在させない。
ということで、ゲームの進行などまるっと無視させてもらうつもりだ。もちろん断罪も回避する。
攻略対象なんぞどうでもいい。恋愛?知らん!そんなもんは避けて避けて避けまくればいい。俺は俺で好き勝手に異世界無双をさせて貰おうではないか。
そう思っていたのだが………俺はどこで間違った?
主人公に惚れるはずの王子や攻略対象がたちが俺に構い倒してくるのはなぜだ?!
俺は悪役だぞ?可愛いわけあるか!いうのならば「カッコいい」「クール」だろうが!
頼むから俺を放っておいてくれ!
そう、これは完全無欠な俺が他人など気にせず好き勝手生きる……はずだった物語である。
アスナにも手伝わせて二重三重に結界を張り終えれば、そのタイミングで父上が現れた。「火急の話を聞いたが、何があった?!マーゴットには内密にということだが、ティーナに関して何かあったのか?」既に魔力が駄々洩れだ。初めて父上と対面したエリオットが「ひえ…!」と小さく叫び、身を震わせている。仕方ない。さりげなくエリオットを背に庇い、父上の圧を遮断してやった。「アスカ。後ろに隠したのはなんだ?そ奴が何か関わっているのか?」ブワッ!明確な殺気がエリオットに向かって放たれた。庇ってやったのに、無駄だったようだ。エリオットはもはや声すら出ず、蛇に睨まれた子ネズミのようにブルブルと震えている。「父上!射殺しそうな視線を向けるのはやめて下さい。彼はこの件の協力者です。ひとまずその魔力を押さえてください。私やアスナはいいが、彼は慣れておりません。倒れられては話ができません」「そうか。すまなかった」どの部分が父の心に響いたのか、シュっと圧が消滅した。「さあ、さっさと話せ」……父に響いたのは「倒れられて話ができない」という部分だったようだ。まあいい。俺もさっさと済ませたい。「こちらはエリオット・クレイン。クレイン侯爵が外で作った三男です」父上がフンと鼻を鳴らした。「あの俗物か。見たところ、君はヤツとは似ていないようだ。良かったな、アレに似ずにすんで。中身も似ていないことを祈ろう」「幸い豚とは別物です。彼は良い母と祖父に恵まれましたからね。彼はその良心に従い、私にある話を聞かせてくれたのです」「ふむ。話と言うのはクレインに関わることか。あ奴が関わり、マーゴットを離さねばできぬ話……嫌な予感しかせぬ」「結論から申し上げます。クレインを潰します」「ほう」父上の眉が「面白い」と言わんばかりにクイっとあがった。「完膚なきまでに叩きのめし、二度と立ち上がろうなどという気にならぬようその足をもいでおきましょう。それだけのことを奴はしでかしました」「…………ほう………」二度目の「ほう」には隠しきれぬ殺気と冷気が。既にあちこちでピシっピシッと部屋の悲鳴が聞こえだした。「それを前提の上で、落ち着いて聞いていただきたい」アスナがさっとエリオットと自分に結界を張った。良い判断だ。「奴は母上を諦めておりませんでした。むしろまるで女神のように崇
平日だというのにいきなり客を連れて戻った俺に、家人は大騒ぎだった。「アスカ様?どうされたのですか?何かございましたか?」「バート、彼はエリオット。クレイン伯爵の息子で私のクラスに遅れて入学してきた。彼がある恐ろしい情報を私に与えてくれた。父上に報告する必要がある。すぐに父上を呼んでくれ。あと……母上の気をそらせ。どこかに連れ出して欲しい」最後の言葉は小声で伝える。バートは俺の様子でただ事ではないと察したようだ。素早く使用人に指示を出す。「マーゴット様にはアスカ様が戻られたことは内密に。温室に新種の花が咲いたことをお伝えし、そこでのティータイムをお勧めするのだ」「かしこまりました」「ご主人様に、アスカ様が重要な話があるとお伝えしろ。そして第二ダイニングに。」ここで改めてバートはエリオットに向き合った。「ご挨拶が遅れ申し訳ございません。ようこそお越しくださいました。私はこの屋敷で執事をしております、バートと申します。」「ボクこそ突然失礼いたしました。エリオット・クレインです。エリオットと」「では、エリオット様。客間へご案内させて頂きます。主人が参りますまでしばしお待ちくださいませ」バートが先導しようとするのを片手をあげて止めた。「ああ、いい。私が案内するから。バートは父上の所に頼む。その方が早い」執務中の父上は、バートでないと動かないだろう。「ありがとうございます。ではそのように」素早く、しかし美しい礼を残してバートが去ると、エリオットがガクリとその場に崩れ落ちた。「は
「リオ、お前は馬車を拾って校門前で待て。俺は学園長に休みの報告をしてくる。……3日あれば足りる、か?アスナ、お前はレオンに公爵邸に来いと伝令を頼む。巻き込むぞ。あいつが居れば後の処理が格段に楽になる。面倒ごとは押し付けてやろう。よし、行け!」「ええー?3日ですか?!ボク、入学した初日なんですけど……っ」エリオットが何やらわめいているが、知るか!こっちは今この時にも、豚が俺や母上の写真に何かしらしているかもしれないのだぞ?どちらが優先かなど語るまでもあるまい。「後でどうとでもしてやる。さっさと行け!」「あのさ、今授業中じゃね?レオンのクラスに殴り込めって?」「婚約者の精神的貞操の危機なのだ。仕方あるまい。『アスカの命令だ。学園長の許可は得ている』と言えばいい」「はあ?精神的貞操の危機……まあ間違いでは……ない……か?俺の戻りが遅かったら先に行け。後で追いかける」「分かった。頼んだぞ!」後は振り返りもせず学園長室に殴り込……乗り込んだ。ノックと同時にドアを蹴り飛ばす。「失礼する!学園長はいらっしゃるか?」「うわあ!な、な、なんだっ?!」「アスカ・ゴールドウィンだ。私と、私の従者アスナ・ゴールドウィン、本日A‐2に入ったエリオット・クレイン。そして王太子レオン・オルブライト。私の精神的貞操の危機に対処すべく、本日より3日間の休学を申請する。場合により延長する可能性もあるためご承知おきを。以上、可及的速やかな対処を望む。急いでおりますゆえ、異論は認めぬ。では、失礼する!」返事も待たずに飛び出した俺を、学園長は茫然として見送ったのだった。廊下を滑るように疾走すれば、授業終了のチャイムが。教室から次々と生徒たちが廊下に溢れ出てきた。「え?!あ、アスカ様?!」チッ!邪魔だな。「道を開けろ!」前方に向かって威圧を放てば、面白いほどさあっと左右に人が別れた。俺に近い数人は腰を抜かしてしまったようだ。申し訳ないが、緊急事態なのだ。許せよ。「……どうされたのでしょう?」「何かあったのかしら?」ざわつく生徒たちを残し、生徒の間を一瞬のうちに通り抜ける。「感謝するぞ!」学園長室に向かってからここまで5分。戻るころには馬車も準備できているだろう。はたして、校門前にはエリオットと馬車がスタンバイしていた。「あ!ア
単に権力欲におぼれた豚だと思っていたが、想像よりも酷い内容に頭が痛くなりそうだ。そんな俺に、エリオットが申し訳なさそうにおずおずと切り出す。「……あの……非常に申し上げにくいのですが……続きが……」「「まだあるのか?!」」思わずアスナと俺の声が被ってしまった。権力を手にするため、という分かりやすい筋書きが、初恋拗らせ逆恨みストーカーだったというゾッとする事実が分かったのだぞ?母上の私物を集めているだけでゾッとするのに、それよりも言いにくそうに言うこととはなんだ?!「……非常に聞きたくない。少し落ち着かせてくれ」大きく深呼吸をする。この上更に酷い内容だったら、俺は確実に奴を殺る。いっそその方が早いし気持ちがいい。一切の憂いを絶てるし、世の中からゴミも減る。いいことづくめだ。いや、もういいんじゃないか?焼き払えば罪なき者にも被害が出るかもしれないが、直接殺る分には問題ないだろう!と、椅子に座ったままの俺にアスナが後ろから椅子ごと抱き締めてきた。抱き締める、と書くと愛情表現のようにもとれるが、ギリギリギリ、と音のしそうなこれは……「おい!何故俺を拘束する?」「話を聞き前にアスカの身柄を確保しておく方がいい気がする」チッ。勘のいい奴め。無理に解くのは簡単なのだが、俺も話の途中で飛び出さない自信がないのでとりあえずこのまま話を聞こう。「……アスナ様、絶対にアスカ様を放さないでくださいね?あと、アスカ様、これはあくまでも侯爵の行動からボクが推察した話であり、確定ではありませんから。そこだけはご了承ください。それと、ボクはこの件に一切関係ありませんので!!いいですか?ボクは無関係!」必死か!そんなに不味い内容だということか。「いいだろう。お前は無関係だ。では話せ」「あの……その秘密の部屋には、妖精姫様のものが沢山集められていたわけなのですが……」「それは先ほど聞いた」「………その中にアスカ様のコーナーが……」ガタン!!「クソ!アスナ、放せ!というか、お前も来い!焼き払うぞ!放さないのならば、遠隔で……メギ…」「ああああ!!ダメだって!やめろっ!それ隕石落とすヤツだろうが!被害甚大すぎっ!!」渾身の力で口をふさがれた。簡単な魔法ならば無詠唱でいけるのだが、さすがに伝説クラスのメギナとなればそうはいかない。しかし、
「と、とにかく!ボクが言いたかったのは、侯爵が妖精姫に異常なまでに執着しているということなのです。どうやら、過去に婚約を申し込んで断られているようなのですが……お母さまから聞いたことはございませんか?」ふむ。父上のノロケで「マーゴットには多くの輩が惚れていた」だの「私の妻はあらゆる男から憧憬の生刺しを向けられていた」だの「熾烈な争いを勝ち抜いたのが私」だのと聞いたことがある。そういえば「侯爵家の阿呆が権力にものを言わせ『妖精姫は私のものだ』と戯言を抜かしていたのでな。思い知らせてやった」とも言っていたな……もしやそれか?一応確認してみると、アスナもエリオットも額に手をあて首を振った。「絶対それだろ……」「それですね……どう考えても……」よし、纏めてみよう。「つまりは、その豚は恐れ多くも母上に懸想し、母上の実家である伯爵家よりも格上であることから無理矢理に母上を娶ろうと画策してそれを自慢げに吹聴したあげく、実質王国最高権力者に等しい父上にあっけなく返り討ちにされた。それでも未練がましく母上に執着し、図々しくも父上への逆恨みを一方的に募らせていた。母上は父上が公爵家にガッツリと囲い込み守っているから手が出せない。そこで学園という治外法権の場にいる私で過去の恨みを発散しようとした、というわけか?」こうして口にしてみると……「下らん!実に下らん!要は自分に魅力がなくクソだったから振られただけだろうが!父上と豚を並べてみろ!誰だって父上を選ぶだろう!誰があの豚と結婚したい?身分意外は底辺も底辺。容貌はもとより、人格も下劣極まりない男だぞ?」吐き捨てるように告げれば、エリオットが「あのー……」と手を上げた。「一応言っておきますが、学生時代の侯爵は……豚ではな
ここで何を思ったのかエリオットがブルリとその身を震わせた。「ボク、見ちゃったんです」「何を見た?」「侯爵の秘密を。侯爵家には、侯爵様しか入ってはいけないとされる部屋があるのです。そこのカギは侯爵のみがもっていて、誰もその中に何があるのか知らないのです」アスナがコキリと首を慣らした。「ヤバい匂いがプンプンするな」その言葉にエリオットが心底嫌そうな表情をした。「想像以上にヤバいですよ。ボク、あんなに気持ち悪いのを見たのは初めてです」エリオットの語った内容はこういうものだった。無理やり侯爵家の息子として引き取られたエリオット。当然だが侯爵家での扱いは酷いものだった。侯爵が居る時にはいいが、居ない時には正妻から使用人扱い。「まあ、それはまだマシなんです。元々平民なので、家事手伝いは当たり前でしたから。問題はそっちじゃない。ウジ虫のような兄弟の方なのです」正妻の子は二人いて(ちなみに地位をかさに着た素行の悪さで、社交界の鼻つまみ者となっている。それぞれ25歳と23歳だったか?)そいつらに至っては、血のつながりがあるというのにエリオットに欲に満ちた目を向けてくるのだという。正妻が居る時には、皮肉なことに正妻が二人の抑止力となっていた。二人とも両親の前では「良い息子」として振舞っていたから。しかし、二人が居ない時には隙あらばエリオットに手を出そうとする。飲み物に何か入れられ、這う這うの体で自室にカギをかけて閉じ籠ったことまであったそうだ。身の危険を感じたエリオットは、二人に知られない場所を探し、侯爵の秘密の部屋に思い至る。「侯爵しか入れない部屋」というのなら、侯爵不在の際の隠れ家としてちょうどよいのではないか?エリオットは魔法に長けていた。力業に近いアスナとは違い、特に繊細な操作が得意なのだ。そこで秘密の部屋の鍵を魔法で開けてみたのだという。果たしてそれは成功した。「その部屋の中に何があったと思います?……執念です。アスカ様のお母様の肖像画が壁一面に並べられていました。おまけに、恐らくですが、アスカ様のお母様の使用された私物まで……」思わず唾をのみ込む。ゾッとした。寒くもないのに寒気を感じ、思わず腕をさする。「それってストーカーじゃねえか!気持ちわる!」何故か汚いものに触れてしまったかのように手をブルブルと振るアスカ。
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