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俺の前世

Author: をち。
last update Last Updated: 2025-04-15 12:22:43

俺は女が嫌いだ。

ついでに言えば人間嫌いだし、友達面して近づいてくる奴らも大嫌いだ。

要するに人間が嫌いなのだ。

一人がいい。放っておいて欲しい。

俺がこう思うようになったのには、俺の前世が関係していた。

前世の俺は父と母、姉と俺という4人家族。

お嬢様育ちで、親父が稼いだ金を湯水のように使うだけの母親。その母の影響で弟は好き勝手命令できる存在だと勘違いしているオタクの姉。

俺は、そんな二人に「ねえ、洗濯はまだあ?」だの「コーヒー淹れてよ。熱いのにして!」「ケーキが食べたい。直ぐに買ってきて!」だのと、奴隷のようにこき使われて育った。断れば奴らは「男なんだからそれくらいして当たり前でしょう?男はね、女を守るものなんだから」と二人がかりで俺を責めるのだ。

親父は「海外に単身赴任になった」とさっさと家を出てしまっていたから、俺は馬鹿みたいに「この家で男は俺だけなんだ。父さんの代わりに俺が二人を守らなきゃ」だなんて思って、必死に二人の世話をやいていたのだ。笑えるだろ?

今思えば、女二人によってたかって洗脳された状態だったのかもしれない。

学校でだけは母と姉から解放されて本当の自分でいられた。でも部活には入れず、学校が終わるとまっすぐ家に帰らなきゃいけなかった。

だって、俺が夕飯を作ったり家事をしないと家が回らないのだ。洗濯しなきゃ服は勝手に綺麗にはならないし、食事を作らないとレトルトやカップヌードルばかり食べることになる。それが嫌なら、俺がやるしかなかった。

だから放課後や休みに友人に遊びに誘われても、断るしかない。そんな俺はみんなからしたら少し距離があるように思えたんだろう。友達はたくさんいたが、心を許した親友はできなかった。そんな自分が寂しくてみじめだった。

俺の唯一の楽しみは、夜ひとりで楽しめるゲームやアニメだけだったんだ。

だが中学になると、俺に初めて親友ができた。

そいつの名は阿須那レオン。中学生になるのを機に他の学区から引っ越してきたのだという。

俺がと飛鳥という苗字だから、アスカとアスナで名簿順の席が前後になった。

彼は外国の地が入っているとかで、目が碧かった。おまけに田舎の中学では場違いなほどの美形で、そのせいで皆に少し遠巻きにされていた。みんなちょうど思春期だったから恥ずかしさもありどう接していいのか分からなかったのだろう。

実は、俺も最初は少し苦手だと思った。

だが、話をしてみると彼は王子様みたいな外見のくせに気取らない性格。妙に俺と気が合ったのだ。おまけにレオンもアニメとゲームが好きだった。はまっていたゲームが同じだったことで、あっという間に俺たちは打ち解けた。

放課後レオンから当たり前のように「一緒に遊ぼう」と誘われ「ああ、また」と思った。俺は断らなきゃいけない。そうしたら、きっとレオンも俺から離れていくんだろうな……。せっかくできた友達なのに……。寂しかった。断りたくないなあと思った。

ところが俺が「家事をしなくちゃいけないから帰らなきゃ」というと、彼はあっさりとこう言ったのだ。

「じゃあ、俺がアスカの家に行くよ。それならいいでしょ?俺も家事?手伝うからさ!さっさと終わらせて一緒にゲームしようぜ!」

太陽みたいな笑い顔。

母と姉に怒られるかもと思ったが、レオンと遊びたかった俺は、わずかな期待を胸にレオンを連れて家に帰ったのだった。

家でゴロゴロしていた母と姉は、俺が友人を連れてきたことに驚いていた。だが、二人とも某アイドル似の礼儀正しい美少年が気に入ったようだ。意外なほどに歓迎された。

それからも「レオンくんいつ来るの?」「もっと連れていらっしゃいよ!」というほどになったのだった。

一方のレオンは、俺の家に来て数回ほどで母と姉の異常さに気付いたらしい。

ある日真面目な表情で俺にこう言った。

「なあ。お前んちっておかしい。アスカばっかり一人で頑張ってるじゃん。なんでお母さんもお姉さんも何もしないの?アスカだけがこき使われて言いなりになってるの?」

改めて他人の口から言われてみると、自分がすごくみじめな存在に思えた。そのせいか、俺はぶっきらぼうにまるで言い訳のようなことを口にしてしていた。

「………ほら、うちって親父が単身赴任でいないだろ?男って俺だけだからさ。俺が二人を守んなきゃ」

「それって親の責任だろ?お前は子供なんだからさ。お前の母さんがやるべきことなんじゃないの?」

「…………母さんは……ほら、アレだから…………」

あとは言えなかった。

そんな俺にレオンは不満そうだったが、これ以上どうしようもないと彼も分かっていたのだろう。それ以来何も言わなくなった。ただ黙って俺の家に来て遊んでくれた。

俺の事情ごと俺を受け入れてくれるレオンに俺は懐いた。いつも彼と共にいるようになった。

そしてレオンは、まるで母親の代わりのように俺の世話を焼くようになったのだった。

高校に上がると、中学とはうって変わってレオンの人気が爆発した。

バスケ部の期待の新人で、アイドルのように恵まれた容姿。頭も良くて学年トップ。これで人気が出ないわけがないのだ。

レオンはしょっちゅう女子に呼び出され、告白されるようになる。

ところがレオン本人は、相変わらず俺にべったり。中学からの延長で、朝は俺の家に迎えに来て、帰りは部活が終わると俺の家に寄って俺が作った飯を食う。

「たまには自分の家で食えよ」といいたくもなるが、「飯のお礼に」と家事を手伝ってくれる上に緩衝材としてうまく母と姉の機嫌をとってくれるので、何もいえない。

で、食事の後は俺とゲームをして一緒に宿題をして帰っていく、というのがいつものパターンだった。

これが出会ったときからずっと変わらない俺たちの習慣だったが、高校に上がるとそれが問題になった。俺たちがあまりにも一緒にいるせいで、レオンに振られた女子が「あの二人おかしいでしょ」「アスカくんが阿須那くんを束縛しているのでは?」「阿須那君は優しいからアスカ君のことが見捨てられないんだ」などと言い出したのだ。

その噂は一気に広がり、俺は女子から嫌がらせをされたり悪評をたてられたりするようになった。

レオンが席を外したすきに「阿須那くんから離れなさいよ!いいかげん解放してあげたら?」と罵られたり、ノートや教科書を隠されたり。ありとあらゆる嫌がらせを仕掛けてくる。

うんざりした俺はレオンに「学校では少し距離を置こうぜ」と提案した。でも、それにレオンが納得しなかった。曰く「関係ない奴らのために何で俺たちが離れなきゃなんないの?」だそうだ。

代わりにレオンは「アスカは俺の大事な人なんだ。俺が好きでアスカと居る。俺はアスカと離れるつもりはないから!」とみんなに向かって宣言した。だが……これは悪手だった。

「男のくせにレオンのお気に入り」なのだと妬まれ、俺は女子連中からさらに嫌がらせされるようになったのだった。

そうなるともう俺には苦痛しかない。いくらレオンが庇ってくれても、限界がある。

家では母と姉が俺を召使扱いし、学校ではクラスの女子や見ず知らずの女子が俺に悪意を向けて来る。

心休まるときがなく、俺は疲れ切っていた。

学校は、母や姉の横やりがなく俺が俺でいられる唯一の場所だったのに。それすら失ってしまった。

レオンが俺を庇えば庇うほど女子の俺への当たりは強くなる。おまけに男にまで俺は避けられるようになった。過敏になったレオンが周りを威嚇するからだ。

俺の周りから人がいなくなるのと反比例するように、レオンは「アスカは俺が守る」と俺にくっついて離れなくなった。そのせいで周りのヘイトがなぜか全て俺に向かうようになる。

どうして俺が恨まれなきゃいけないんだ?憎まれなきゃいけないんだ?レオンがほんの少し俺との距離を考えてくれれば済む話だろう?どうしてレオンは俺から離れてくれない?

別に友人をやめろと言っているわけじゃない。家に来るなというわけじゃない。人前では過剰なスキンシップを控えろと言っているだけなのだ。普通にして欲しいだけなのだ。

ここから俺とレオンの関係はおかしくなっていく。俺がレオンと距離を置こうとすればするほど、レオンは俺を束縛するようになる。

レオンには、俺と離れるつもりはなかった。彼は常に俺を側に置きたがり、俺の周りから彼以外の人を排除するようになっていった。

気が抜ける場所がない。俺は、心底ひとりになりたかった。

進学先を選ぶとき、レオンは当たり前のように俺にこう言った。

「大学進学は遠くにしようかな。アスカはさっさと家を出たほうがいいだろう?俺、上京するから、お前も一緒に上京したらいい。それで一緒に住もう?そうすれば家賃だって節約できるだろう?学費は親父さんが出すとして、食費くらいならバイトで何とかなるとおもうぞ?親父さんに相談してみろよ」

そうすれば俺は学校でも家でも一日中レオンに束縛されることになる。ゾッとした。そのどこに俺の自由があるというんだ?

だが皮肉なことにこのレオンの言葉が俺の希望になった。「大学進学を期に家を出る」という部分だ。何もかもを捨てて家を出る。その先に俺の幸せがある気がしたのだ。

俺はレオンと同じ大学も受験する一方で、寮がある地方の大学をこっそりと受けた。

これを逃せばチャンスはない。

家事をしながら必死に勉強し、無事に希望の大学に合格した。

母と姉、レオンに気付かれぬよう、こっそりと寮に入る準備を進めた。

父親が協力してくれたのが幸いだった。俺を母と姉の人身御供にしているという自覚があったのかもしれない。

ついに家を出るその日。

心労と無理のたたった俺は、疲れのあまり歩道橋の上でふらついた。

そして一気に階段から転げ落ち……頭を打って死んだ。

遠のく意識の中で、これまでの人生と神を呪いながら……。

こうして俺は悪役令息カイト・ゴールドウィンに転生した。

俺が人間嫌いな理由が分かっただろう?

前世の俺の周りにはろくな奴が居なかった。

俺は母と姉に搾取され、振り回され続けた。

信じた親友は俺を束縛するようになった。

そいつのせいで俺は女子から嫌がらせをされ、男子には避けられ、学校という唯一の居場所を失った。

だから今度は俺はひとりで生きる。

誰の言うことも聞かないで俺のためだけに生きる。

地位と能力を活かして好き勝手に振る舞い、やりたいことをするのだ。

俺はそれを前世頑張った分の正当な権利だと思っている。

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