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学園にて1

Author: をち。
last update Last Updated: 2025-04-18 16:30:57

入学から二か月。剣術の授業の後逃げ遅れた俺は、あっという間にクラスメートに囲まれてしまった。

「アスカ様、今日も素晴らしかったです!」

「流石ですわあ!希代の天才だというのは本当ですわね!!完璧ですわ!」

「素晴らしい剣筋だ!あの域に達するにはどれほどの修練を積まれたのですか?!」

全く、相も変わらずうるさいものだ。こうも目をハートにしてくる意味が分からない。俺は彼らに冷酷といっていいような対応しかしていないのに、こいつらはマゾなのか?

「当然だ。貴様らごときが俺を称えるなど一万年早いぞ?」

ニヤリと笑いながら軽く顎をしゃくってみせると、取り巻きどもは嬉しそうに顔を輝かせた。だから何故これで喜ぶ?こいつら、おかしすぎるだろう。

俺が戸惑うのはこういうところだ。

ここの女は俺が知る前世の女たちとは違いすぎる。なんというか……俺に対してあまりにも好意的すぎるのだ。俺のこの「美しい」と言われる容姿のせいか?いや、前世の俺だって容姿は悪くなかった。優しくしているわけでもないのに、いつまでも好意的なわけがわからない。

男どもも俺を妬むどころか羨望の眼差しで褒めたたえてくる。

こういってはアレだが、相当ひどい態度を取っている自覚はある。でも、彼らはどんなに冷淡な態度をとっても俺を慕ってくるのだ。

まあ確かに彼らとて善意の塊というわけではない。取り巻き同士の嫉妬やあれこれはあるようだしな。だがそれも俺にしてみたら子供のお遊びにしか思えない、他愛のないもの。

要はやつらには前世の人間にあったような陰湿さが無いのだ。これでは警戒している俺の方が馬鹿みたいに思えてくる。

実は意識的にあえて冷たく接していたのだが……少し態度を改めるべきか?

などと想いを馳せていたそのとき――

「アスカ様、これ……もしよかったら。」

ひそやかな声とともに、少女が一輪の花を差し出してきた。

地味な茶髪にそばかす混じりの顔、仕立ての良くない制服。貴族社会の底辺――平民上がりの奨学生か。

この衆人環視の中で俺を呼び止めるとは。なかなか勇気があるじゃないか。

そう思った俺は、わずかに唇の端を上げてみせた。

「娘。大した度胸だな」

俺の言葉に少女がびくりと肩を震わせる。

いつもの俺ならここで踵を返して終わりだ。だが、らしくもなくなぜか手を伸ばしてその花を受け取ってしまった。

「……悪くない花だ。特別に受け取ってやる。感謝しろよ?」

俺の言葉で少女が顔をぱあっと輝かせる。

……なんだ、たったこれくらいのことでそんなに喜ぶのか。

純粋な好意を示され、なんだか心臓が少しだけうるさい。

「あ、あの……!だ、だいすきです、アスカ様……!これからもアスカ様のご活躍を応援させて頂くことをお許しくださいませっ」

少女が真っ赤になって叫び、走り去った。

「まあ、なんてこと!」「抜け駆けは禁止ですのに……!」と取り巻きたちがざわめきだした。それをチラリと視線を向けることで黙らせる。

抜け駆け禁止だと?なんだそのルールは。

「俺を好くのがおかしいか?俺は応援されるに値しないとでも?」

「そ、そのようなことは!!」

「お前たちも好きにすればいい。下らぬルールなどで俺に恥をかかせるな。いいな?」

ここで俺はあえてアメを与えて見せた。にこり、とほほ笑んでやったのだ。

俺から笑いかけたのが初めてなだけに、効果はてき面。取り巻きたちは真っ赤になってガクガクと頷いた。

……これであの娘が責められることはないだろう。小娘を庇ったのは単なる気まぐれ。あの花は悪くなかったからな。

俺は唖然としたままの取り巻きたちを残し、颯爽とその場を後にしたのだった。

教室に戻りながら、俺はふと手元の花を見た。小さな白い花。名前など知らないが、大業な七束を渡されるよりもなぜか印象に残る。

前世の庭の片隅に咲いていた小さな花を思い出させるのだ。小学校でもらった種から生えてきた小さな花は大した世話もしていないのに毎年可憐な花を咲かせた。それがとても健気に思えて、いつしか俺は毎年その花が開くのを楽しみにするようになったのだ。

あの花はどうなっただろうか。あれからも毎年可憐な花を咲かせているのかな……。

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    入学から二か月。剣術の授業の後逃げ遅れた俺は、あっという間にクラスメートに囲まれてしまった。「アスカ様、今日も素晴らしかったです!」「流石ですわあ!希代の天才だというのは本当ですわね!!完璧ですわ!」「素晴らしい剣筋だ!あの域に達するにはどれほどの修練を積まれたのですか?!」全く、相も変わらずうるさいものだ。こうも目をハートにしてくる意味が分からない。俺は彼らに冷酷といっていいような対応しかしていないのに、こいつらはマゾなのか?「当然だ。貴様らごときが俺を称えるなど一万年早いぞ?」ニヤリと笑いながら軽く顎をしゃくってみせると、取り巻きどもは嬉しそうに顔を輝かせた。だから何故これで喜ぶ?こいつら、おかしすぎるだろう。俺が戸惑うのはこういうところだ。ここの女は俺が知る前世の女たちとは違いすぎる。なんというか……俺に対してあまりにも好意的すぎるのだ。俺のこの「美しい」と言われる容姿のせいか?いや、前世の俺だって容姿は悪くなかった。優しくしているわけでもないのに、いつまでも好意的なわけがわからない。男どもも俺を妬むどころか羨望の眼差しで褒

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