Share

第378話

Author: レイシ大好き
「こんにちは。ここは駐車禁止の場所です。かなり長時間停めていたので、これは違反切符です」

加津也は少しバツの悪い顔をしたが、仕方なく手を伸ばして違反切符を受け取った。

警官は初芽の赤く腫れた唇を一瞥すると、つい口を挟んできた。

「次からは、こういうことは家でやってください。外だと見た目が良くありませんよ」

そう言い残して、そのまま立ち去っていった。

車内には、取り残された加津也と初芽の気まずい沈黙が漂った。

加津也は初芽の赤く腫れた唇と目が合い、途端に気まずそうな表情を浮かべた。

警官に指摘されるまで、そんなことに全然気づいていなかったのだ。

初芽の顔はさらに真っ赤になった。

「もう、早く帰りましょう......」

こんな恥ずかしい状況、もうこれ以上いたくなかった。

これ以上ここにいれば、羞恥で死にそうだ。

今の初芽の頭の中は「地面に穴があったら今すぐ入りたい」その一心だった。

加津也は初芽の恥ずかしそうな顔を見て、目元に笑みを浮かべた。

「ああ、帰ろう」

初芽は「うん」と小さく返事をし、大人しく座り直した。

加津也の口元の笑みはそのままだった。

確かに初芽の容姿は紗雪には及ばないかもしれない。

だが、彼女は本当に素直で従順だった。

それだけで、彼は十分に満足していた。

二人は家に戻ると、車の中で未完だった行為の続きを再開した。

すべてが、まるで水が流れるように自然に進んでいった。

一方その頃、紗雪は海辺のベンチに座っていた。

傍らには一本のビール缶が置かれ、彼女の手にはもう一本。

そのまま口元に運び、ごくりと喉へ流し込んだ。

紗雪は今、ひとつのことを考えていた。

この会社、自分は本当に帰るべきなんだろうか?

あるいは、どんな立場で行けばいいんだろう?

美月にはあんなことまで言われたのだ。

もう、会社に顔を出す自信がない。

なにより、美月や会社の上層部にどう顔を合わせればいいのかもわからない。

紗雪は大きく息を吐き、再びビールを口に運んだ。

喉を刺激するアルコールの辛さが、ようやく「自分はまだ生きているんだ」と感じさせてくれる。

しかし、どれだけ時間が経っても、スマホはまったく鳴らなかった。

傷つかないわけがない。

彼女は、美月から何かしらの連絡があると信じていた。

ただの冗談だと、きっと戻って
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第390話

    もうこんなに時間が経ったのに、山口にスマホは返されたんだろうか。秘書は首を振り、少し落胆した様子で紗雪を見つめた。「まだ返信はありません」その一言に、紗雪の胸の中にもどかしさが広がった。母の様子を見に行きたいだけなのに、どうしてこんなにも多くの障害が立ちはだかるのだろう。紗雪は視線を落とし、瞳にいつもの明るさも自信も消え失せていた。全身からは諦めのような空気さえ漂っている。そんな彼女の姿を見て、京弥の胸中も穏やかではなかった。彼の中の紗雪は、ずっと自信に満ちて明るい女性だった。なのに今は、自分に自信が持てず、迷ってばかりで、まるで別人のようだ。これが彼の知る紗雪じゃない。京弥は心に浮かんだ思いを、そのまま口にした。「さっちゃん、元気を出してよ。これはまだ始まりにすぎないんだ。最初から諦めるつもりか?少しの挫折で立ち止まってたら、この先も思いやられるよ」彼は唇を引き結び、一気に言い切った。「それに、君は二川の会長代理だろ?その程度のことで折れるような存在じゃないはずだ」その瞬間、紗雪の心に何かが突き刺さったような気がした。横にいた日向も、思わず京弥に一目置くような目を向ける。彼のことを見て、こんなに口が立つとは思わなかった。まさかこれほど説得力のある言葉を、迷いなく語るとは。紗雪は京弥を見つめた。その口ぶりに怒るどころか、彼の言葉には確かな説得力があった。ほんの少しつまずいただけで、自分は諦めようとしていたのか?「わかってる。安心して。立ち直るから」彼女は再び前を向き、さっきまでの落ち込みようが嘘のように、生き生きとした表情を取り戻した。その姿を見て、日向は心の中で感心せざるを得なかった。やっぱり、紗雪を一番よく理解してるのは京弥なんだ。たった数言で、彼女は完全に立て直してしまった。日向は唇を引き結ぶ。少し胸が痛んだけれど、今は感情に振り回されている場合じゃない。何より大切なのは、紗雪が元気になること。そうすれば、ようやく母親に会いに行くことができる。余計な思いに足を取られている暇などないのだ。紗雪は秘書に向き直り、にっこりと笑った。「今、私たちの前で山口に電話してみて」「社員同士で、会社用とは別の連絡先くらい持ってるんでしょ?」仕事

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第389話

    あまりにも悩みすぎて、山口は病室の中をうろうろしながら頭を抱えていた。紗雪にこの件を伝えるべきかどうか、決めきれずにいたのだ。しかし、もし伝えるとしたら、どんな言い訳をすればいいのかもわからなかった。山口は病室に長い間とどまり、次に自分が何をすべきか分からなくなっていた。ベッドに横たわる、まだ意識の戻らない美月を見つめながら、小さくつぶやく。「美月会長......あなたが目を覚ましていたら、きっとどうすればいいか分かったはずなのに......」山口は、今や完全に自信を失っていた。取締役会の方も、どう対応していいか見当がつかない。そんなことを考えるたび、頭が痛くなる。もう、成り行きに任せるしかないか。もともと自分はただの雇われ人だ、そこまで悩むことじゃない。悩んだからって給料が上がるわけでもないしな。そう思うと、山口はすべてを放り出すようにソファにどさりと座り込み、虚ろな目で時計を見つめながら、緒莉が戻ってくる時間を心の中で数え始めた。......一方その頃、紗雪のもとでは、いくら待っても秘書からの連絡が来ず、焦りはますます強くなっていた。しかも、オフィスにいる京弥と日向を前にして、どう次の一手を打つべきかも分からず、困り果てていた。取締役会の人間たちは、美月の所在を巧妙に隠していた。というのも、この情報が漏れれば二川グループの株価に影響が出かねないと恐れているのだ。そのため、彼らは一切外に漏らさず、二川グループに悪影響が及ぶのを恐れて、徹底して隠し通していた。何しろ、美月はこれまで何年もかけて築き上げた信用とイメージ、そしてその言動すべてが二川グループと密接に結びついていた。言ってしまえば、今の美月は二川グループそのものの象徴なのだ。だからこそ、紗雪にできるのは秘書の連絡を待つことだけで、どこから調べればいいのかすら手がかりがない。彼女の困りきった表情を見て、日向は思わず声をかけた。「大丈夫。僕にできることは何でも言って」「笑わせるな。俺の女に、お前の手助けなんて必要ない」日向の言葉に、京弥は面白くなさそうに反応し、紗雪を力強く引き寄せてその腕の中に抱え込んだ。その行動はあまりに強引で、独占欲に満ちていた。だが、紗雪は拒むことなく、そのまま彼の腕の中に収まって

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第388話

    一方その頃、緒莉は病室へ戻り、スマホを山口に手渡した。山口はスマホが無事だったのを見て、胸を撫で下ろした。何せ、これは彼が最近買い替えたばかりのスマホだし、今は会長が入院中で、もう一度買い換える余裕も時間もなかった。もし壊れていたら、誰に弁償を求めるべきかも分からない。「緒莉さん、紗雪さんは後でこちらに来られますか?」山口さんは恐る恐る尋ねた。緒莉の表情をうかがいながらも、紗雪が来るのかどうか気になっていた。正直に言えば、会長が倒れたのは彼女と話した直後のことだった。それがどうであれ、彼女の母親なのだから、一度は見舞いに来るのが普通だと思ったのだ。ところが、その一言を聞いた緒莉の表情が一変した。「来るかどうか、あなたに何の関係があるの?何を企んでいるわけ?」その言い方に、山口はすっかり固まってしまった。「そういうわけではありません。ちょっと確認しただけです......」「余計なことに首を突っ込まないで。あなたが気にするような話じゃないわ」緒莉は冷たい目で山口を見たが、それ以上は何も言わなかった。たとえ山口が母の側近であったとしても、躾けるべき時には躾けなければならない。口では「緒莉さん」と呼びながら、心の中では「紗雪さん」のことを気にしているなんて、どういうつもりなのか。山口はそんな緒莉の態度に戸惑っていた。自分は会長の専属秘書であり、本来は会長の指示を仰ぐ立場だ。だが、目の前のお嬢様に命令される形になっているこの状況は、納得がいかなかった。会長ですらこんな物言いはしなかったというのに、彼女に一体どんな権限があるというのか。長年仕えてきた者として、プライドもあった。結局、山口は何も言わなかったが、その表情は険しかった。二人は無言のまま、ただ黙って美月を見守り続けた。その後、緒莉は「食事を買ってくる」とだけ言い残し、部屋を出ていった。「あと、紗雪に居場所を教えるとか、馬鹿な真似はしないで。もしやったら、ただじゃ済まないから」山口は拳を握りしめ、その顔にはなんとも言えない表情が浮かんでいた。彼には、緒莉がどうしてそこまでするのか理解できなかった。だが、自分はただの雇われの身だ。最終的には我慢を選ぶしかなかった。彼が黙って頷くと、緒莉は満足げに病室を後に

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第387話

    そう思った瞬間、日向は義憤に駆られて京弥を睨みつけた。ちょうど京弥も無言で彼の様子をうかがっていた。二人の視線が交差すると、京弥は一瞬だけ動きを止めたが、すぐに敵意を孕んだ眼差しで睨み返した。「もうやめてよ。すぐに秘書が来るから」紗雪がちょうどよく口を開いた。京弥と日向は顔を見合わせると、同時に黙り込んだ。どちらも引くつもりはない様子だった。この様子を見ていた紗雪は、呆れるしかなかった。こんな時にまで子供じみた争いをして......普段は落ち着いていて大人びた態度を見せていたのに、今はその片鱗すらない。彼らの態度を見て、紗雪は少し頭が痛くなってきた。日向は何か言いたげだったが、最終的には紗雪の手前、ぐっとこらえた。もちろん彼にも分かっている。紗雪の中で、自分と京弥は比べ物にならないと。だって彼らは夫婦なのだから。紗雪がもう結婚したと知っていても、日向はどうしても諦めきれなかった。人生で好きになれる相手に出会えることなんて、そうそうあることじゃない。もし今回を逃したら、次に出会える保証なんてどこにもない。出会えたこと自体がすでに縁だ。そう簡単に手放すなんて、できるわけがない。三人は顔を見合わせたまま、気まずい沈黙が流れる。京弥は日向の心中を知る由もなかった。もし知っていれば、きっと日向をこのままにはしなかっただろう。自分と紗雪はすでに婚姻届を提出している。にもかかわらず、他の男がまだ自分の妻を狙っているなんて、冗談じゃない。男として、それがどれほど腹立たしいことか。紗雪もまた、二人の考えを知ることはなかった。彼女の頭の中は、今は母親のことしかなかった。もし二人にそれぞれの思惑がなく、一緒に母親を見舞いたいと思っていなかったら、彼女はとうに二人をこの場から追い出していた。無駄に会話を交わす意味もないし、時間の浪費にしかならない。京弥は紗雪の焦りに気づいて、彼女のそばに寄り、日向の目の前で手を握った。「俺がついてるよ」「お義母さんならきっと大丈夫だ」その言葉には、明らかに下心が込められていた。わざと日向の前で言ったのだ。日向に嫉妬してほしかったし、紗雪が自分のものであることを、相手に見せつけたかった。それに、誰にでも簡単に狙われる

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第386話

    何せ、他の人たちにはそんな度胸はない。まさに京弥がいるからこそ、紗雪もこんなに強気でいられるのだ。日向は自然な流れで紗雪の隣に立ち、彼女に紹介を始めた。「さて、早く会社の中を見に行こう。何をしたいのか、考えがあるんだろう?」三人が中に入ると、すぐに笑顔で迎えてくれる受付の姿が目に入った。「こんにちは」受付の声は柔らかく、態度も丁寧そのものだった。そして視線が紗雪に向けられた瞬間、その瞳がぱっと明るく輝いた。紗雪は彼女に軽くうなずき、すぐに口元に微笑みを浮かべた。その様子を見て、京弥と日向は少し驚いたようだった。このふたり、ずいぶん親しそう......?案の定、すぐに受付は紗雪の服の裾をそっと引っ張り、彼女のそばに寄って、会社の最近のゴシップをひそひそと話し出した。「聞いて、昨日ね、財務部で大変なことが起きたの......それに、数日前には営業部の内野さんと足立さんが、案件の取り合いで大喧嘩しちゃって......」紗雪は楽しそうに最後まで話を聞いてから、わざと真面目な顔をして小さく咳払いをした。「はいはい。今は勤務中だし、他の人もいるんだから、ちょっと真面目にね」受付は素直にうなずいて、きちんとした態度で約束するように笑いながら言った。「次からは気をつけます〜」そんなやりとりを見て、日向は思わず笑いながら紗雪に尋ねた。「紗雪って、普段から社員とそんなに仲がいいの?」「うん。勤務中とプライベートは別モードだけど」その言葉を聞いた日向は、少し驚きを隠せなかった。まさか、あの几帳面な紗雪の口からそんなセリフが飛び出すとは思っていなかったのだ。紗雪は二人を自分のオフィスに連れて行こうとし、受付に向かって声をかけた。「じゃあ、またね。こっちも用事があるから、続きは今度」受付は真剣な顔でうなずき、彼女の後ろ姿を見送った。もともとはお互いに会えば軽く挨拶する程度の関係だったが、ある時ふと紗雪の意外な可愛らしさに気づいてから、徐々に距離が縮まっていった。今では、面白い話があればつい彼女に話したくなる。今日もその例に漏れなかった。紗雪は受付に別れを告げると、すぐに日向と京弥を連れてオフィスの方へと歩き出した。そんな彼女の姿を見て、日向は声をかけずにはいられなかった。「紗雪

  • クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!   第385話

    「何せ妻がどれほど綺麗で優秀か、俺が一番よく知っていますから」京弥は口元の笑みをさらに深め、「他人がどう思おうと俺には関係ありませんが。まあ、今回はその言葉を信じてあげましょう」と言い放った。「ああ」日向は眉をひそめながらも、そう返してきた。その会話を隣で聞いていた紗雪は、思わず顔を赤らめた。こっそりと、日向の目を盗んで京弥の腕を指でつねる。「......」京弥が彼女を見ると、紗雪の目には明らかな警告の色が浮かんでいた。それを察すると、京弥の驚いた顔はすぐにへりくだるような表情に変わった。紗雪は小さく鼻を鳴らすと、ようやく機嫌を直した様子だった。綺麗って......そんなの聞いてる方が恥ずかしいよ......それも日向がいる目の前で。紗雪は心の中で京弥に対して「恥というものを知らないのか」とつぶやいた。「それより、あなたはなんでここに?」紗雪は疑問を口にした。二人は事前に約束してた?......とはどうしても思えない。この険悪な空気を見る限り、そんなはずがない。紗雪は顎に手を当てながら、二人を交互に見つめた。京弥と日向も互いに一瞬視線を交わし、紗雪の目を意識してか、少し気まずそうだった。京弥は咳払いを一つして、先に説明を始めた。「何を想像してるんだ」「電話をかけたけど出なかったから、心配になって会社に来たんだよ」そして、日向の方へ軽く顎をしゃくって示すと、不満そうに続けた。「そしたら来てみたら、この二人がいるってわけだ」京弥の少し責めるような口調に、紗雪は珍しく罪悪感を覚えた。急いでスマホを取り出して確認すると、電源が切れていた。「ほらね。出なかったのはわざとじゃないの」紗雪は申し訳なさそうに微笑んだ。自分を心配して、わざわざ会社に来てくれた。そう思うと、胸の中にほんのりとした甘さが広がる。京弥はそんな彼女の頭をくしゃっと撫で、「もういいよ。責めてるわけじゃない。さあ、中に入ろう」と優しく言った。そこでようやく日向も要件を思い出したように、「そうだ、紗雪。会長のところにはやっぱり君が直接行った方がいい。他の誰が行っても、君ほど安心できないだろうからね」と告げた。その一言に、紗雪は日向へ感謝の眼差しを向けた。日向という人は、本当に気配

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status