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真実③

作者: 緋村燐
last update 最終更新日: 2025-06-09 17:31:23

 家の裏手に行っていてと言われて先にそちらに愁一さん達と向かう。

 少ししてから来た叔母さんは、見覚えのある小瓶を人数分持ってきていた。

「これは……」

「これはロート・ブルーメの麻薬成分を中和するための薬よ。二年前美桜が被害に遭ってしまったでしょう? やっぱり必要だってことになってこっちも研究して作っておいたのよ」

「そうなんだ……」

 渡された小瓶を見ながら感心するとともに、どうして今これを飲むのかが気になった。

 それは愁一さんも同じだったようで質問していた。

「でも何で今この中和剤を飲まなきゃならないんだ?」

「……計画通りに事が運んでいれば、きっと今あの花畑は火の海だからよ」

『え!?』

 私と愁一さんの声が重なる。

「火の海って!? 紅夜は無事なの? それに計画って?」

 思わずまくし立てたのは私。

 火の海なんて物騒な言葉を聞いたんだから仕方ないと思う。

「まずは地下に降りましょう。花畑までは少し歩くから」

 叔母さんは私の言葉には答えず地下への入り口を開けた。

 家の裏側の外壁としか思えない場所が扉のように開き、エレベーターの箱が現れる。

「さ、みんな乗って。中和剤も飲んでおいてね」

 そうして言われた通りに私達はエレベーターに乗り込み中和剤を飲んだ。

 ん? この味、やっぱり。

 栄養ドリンクに似ているけれど、どこかクセのある味。

「これ、紅夜に飲ませたのと同じもの?」

 思わず呟くと、「飲ませた?」と叔母さんに聞き返される。

「あ、うん。紅夜が地下に連れて行かれる前に口移しで飲ませたの。……あ、紅夜が腕使えない状態だったからだよ!?」

「ああ、そういうことか」

 切羽詰まった状況のときに何してんだって思っちまった、と愁一さんが笑う。

 ちゃんと付け加えて説明しておいて良かった。

「そっか、もしかしたらそ

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    「愁一さん、すみません。スマホありがとうございました」「あ、ああ……なんかあんた、すげぇな。……まさか隆志さんが紅夜の実の父親だったとか……」 愁一さんはスマホを受け取りながら驚きの表情で私を見ていた。 今の会話は私の声しか聞こえていなかっただろうけど、それでも会話内容の推測は出来たんだろう。 今のやり取りを理解してくれていた。「別にすごくなんかないですよ。……ただ、ちょっと記憶力が良いだけです」 記憶力が良いだけ。 見聞きしたものを覚えているというだけ。 そして、思い出すことが出来たからそれらを繋げられただけだ。「いや、それ十分すげぇから」 呆れられたけれど、私からしたらケンカも強くて頼りになる愁一さんの方がすごいと思う。「……私からしたら、紅夜に頼られている愁一さんの方がすごいですよ」 そう言ったら変な顔をされてしまった。「頼ってる? 紅夜が? いいように使われてるようにしか思えねぇけど」「そうやって甘えてるんですよ、きっと」 そう言うともっと変な顔をされてしまったので、少し笑ってしまう。「……だって、愁一さんや赤黎会の人達はあの花畑と紅夜を守ってくれていたんでしょう?」「……それは」 ロート・ブルーメの花畑がこの黎華街の本質。 その意味がずっと分からなかった。 でも花弁に麻薬成分があると知って、分かった気がする。 全てが、あの花から始まったんだ。 あの花を育てるためにこの街を買ったという隆志さん。 その頃はまだ、ここまで危険な街じゃなかったんじゃないだろうか? その答えとなる話を愁一さんはしてくれた。「……赤黎会はな、ちょっと大きくなりすぎちまって……。受け

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