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真実②

Author: 緋村燐
last update Last Updated: 2025-06-08 17:31:32

「愁一さん、すみません。スマホありがとうございました」

「あ、ああ……なんかあんた、すげぇな。……まさか隆志さんが紅夜の実の父親だったとか……」

 愁一さんはスマホを受け取りながら驚きの表情で私を見ていた。

 今の会話は私の声しか聞こえていなかっただろうけど、それでも会話内容の推測は出来たんだろう。

 今のやり取りを理解してくれていた。

「別にすごくなんかないですよ。……ただ、ちょっと記憶力が良いだけです」

 記憶力が良いだけ。

 見聞きしたものを覚えているというだけ。

 そして、思い出すことが出来たからそれらを繋げられただけだ。

「いや、それ十分すげぇから」

 呆れられたけれど、私からしたらケンカも強くて頼りになる愁一さんの方がすごいと思う。

「……私からしたら、紅夜に頼られている愁一さんの方がすごいですよ」

 そう言ったら変な顔をされてしまった。

「頼ってる? 紅夜が? いいように使われてるようにしか思えねぇけど」

「そうやって甘えてるんですよ、きっと」

 そう言うともっと変な顔をされてしまったので、少し笑ってしまう。

「……だって、愁一さんや赤黎会の人達はあの花畑と紅夜を守ってくれていたんでしょう?」

「……それは」

 ロート・ブルーメの花畑がこの黎華街の本質。

 その意味がずっと分からなかった。

 でも花弁に麻薬成分があると知って、分かった気がする。

 全てが、あの花から始まったんだ。

 あの花を育てるためにこの街を買ったという隆志さん。

 その頃はまだ、ここまで危険な街じゃなかったんじゃないだろうか?

 その答えとなる話を愁一さんはしてくれた。

「……赤黎会はな、ちょっと大きくなりすぎちまって……。受け

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