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偽りに満ちた愛

偽りに満ちた愛

By:  慶安(けいあん)Completed
Language: Japanese
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流産を五回繰り返した後、なぜ私の身体は赤ちゃんを守れないのかと医師に相談に行った。 しかしドアの外で、夫と医師の会話を耳にしてしまった。 「君が処方した中絶薬はなかなか良く効くな。彼女はもう五回も流産した。いつになったら子宮摘出手術ができる?安斎恵梨(あんざい えり)に俺の子供を産ませるわけにはいかないんだ」 「ああ、それと流産予防薬も追加で処方しておいてくれ。真希が妊娠したからな。絶対に健康な赤ちゃんを産ませるんだ」 医師が言った。「しかし恵梨さんの身体はこの数年で随分弱ってて、もう二度と子供を授かることは難しいかもしれないが……」 滝沢竜一(たきざわ りゅういち)は平然と答えた。「だから何?奴に子供が産めなくなるように、わざと何度も流産させてきたんだ!」 「まあいい、その話はこれまでだ。これから真希とマタニティ用品を買いに行くんだ」 ドアの陰でその言葉を聞きながら、私は全身の血の気が引いていくのを感じた。 結局、私が必死に守ろうとした愛は、ただの笑い話に過ぎなかったのだ。

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Chapter 1

第1話

流産を五回繰り返した後、なぜ私の身体は赤ちゃんを守れないのかと医師に相談に行った。

しかしドアの外で、夫と医師の会話を耳にしてしまった。

「君が処方した中絶薬はなかなか良く効くな。彼女はもう五回も流産した。いつになったら子宮摘出手術ができる?恵梨に俺の子供を産ませるわけにはいかないんだ」

「ああ、それと流産予防薬も追加で処方しておいてくれ。真希が妊娠したからな。絶対に健康な赤ちゃんを産ませるんだ」

医師が言った。「しかし恵梨さんの身体はこの数年で随分弱ってて、もう二度と子供を授かることは難しいかもしれないが……」

私の夫、滝沢竜一(たきざわ りゅういち)は平然と答えた。

「だから何?奴に子供が産めなくなるように、わざと何度も流産させてきたんだ!」

診察室で竜一はなおも話し続けていた。

「ちょうどいい。お前も産婦人科医だ。妊婦が普段何を食べればいいかアドバイスしてくれ。真希に作ってやりたいんだ」

向こうに立っていた医師で彼の友人でもある風間昴(かざま すばる)は眉をひそめた。

「秘書の真希さんにそこまで気を遣うのか?恵梨さんが君の妻だろう!」

竜一の表情が曇った。「どうしてあの女の話を出すんだ?」

「妻だとしても、俺の心の中では真希の方が大切だ!」

「それに、あの女はもう三十だ。顔中そばかすだらけで毛穴は黒ずみ、肌はカサカサ。見てるだけで吐き気がする。まるで水風船のように膨れ上がった体に、スタイルなんてものはない。離婚しないだけでも十分に親切なんだ!」

昴は呆然とし、友人がこのような恥知らずな発言をするとは信じられない様子だった。

「しかし君が今の成功を掴んだのは、全て恵梨さんの支えがあったからじゃないか?あの女がスポンサーを探し、投資家を紹介してくれなければ、五年前に君の会社は倒産していたぞ」

その言葉は竜一の痛い所を突いたらしく、声を荒げた。

「過去の話はもう終わったことだ!いつまでも蒸し返すな!」

「あの女には十分な金をやっているだろう?真希は俺しかいないんだ!」

昴は諦めたように妊婦向けレシピを手渡した。「竜一、君は本当に変わってしまったな」

「もうこれ以上は言わない。友人として忠告しておくよ。人間は最低限の良心を持つべきだ。苦楽を共にした妻をここまで酷く扱えば、いつか必ず報いを受ける」

竜一は彼を睨みつけると、レシピを奪うように掴み、ドアを叩きつけて去っていった。

私は慌てて階段室に身を隠し、彼の慌ただしく去る背中を見送った。

病室のガラス戸に、自分の姿が映り込んでいた。

まだ三十歳というのに、体はふくれあがり、肌はたるんで、輝きを失った顔にはそばかすが散らばっている。確かに従業員数千人を抱える会社を経営する滝沢竜一の妻にはふさわしくない。

若く美しい女が彼の傍に立つのが似つかわしい。

しかし思い返せば、あの時竜一の会社は資金繰りに窮していた。私は彼を助けようと投資家を訪ね歩き、十分な資金を調達して窮地を脱させようとした。

夜遅くまで企画書を作り、契約書の作成に追われて食事も満足にとれず、胃を悪くした。

そして子供を産むため、排卵誘発剤の注射痕が腕に無数に残っている。

それでもなお、前の五度は赤ちゃんを守れなかった。

私の体は風船のように膨れ上がり、肥満で醜くなっていった。

彼が私を嫌うのも無理はない。今の私に男を惹きつける魅力などないのだから。胸が締め付けられるように痛んだ。

理解できなかった。竜一、私を愛していないのなら、そう言ってくれればいい。離婚すればいい。なぜ私の産む能力を奪おうとするのか。なぜ不倫し、裏切るのか。

私は医師の元へは向かわず、一人で家に帰った。

この別荘は竜一との新婚の家だ。当時彼の事業がようやく軌道に乗り始め、私たちは喜びいっぱいでこの家を買った。

あの頃はベッドで抱き合いながら、これから男の子と女の子を一人ずつ産もうと話し合った。

四人家族の幸せな生活を。

だが今、この家には幸せの気配など微塵もなく、偽りだけが充満していた。

バルコニーに立ち、過去の思い出を辿っていると、涙が頬を伝わった。

長い時間が過ぎ、私はようやく決心した。竜一、もうあなたはいらない!

部屋に戻ろうと振り返った瞬間、竜一の車がゆっくりと戻ってきて、玄関前に停まるのが見えた。

バルコニーから車の中を覗くと、彼は吉川真希(よしかわ まき)と楽しそうに話し、親密に笑い合っていた。まるで熱愛中のカップルのようだった。

ふと見上げた竜一が突然私に気づき、目にかすかな動揺が走った。

「恵梨、どうしてバルコニーに?冷えるだろう、風邪を引いたらどうする」

私は軽く笑って首を振った。「大丈夫よ。部屋にいたら少し息苦しくて、外の空気を吸いたくて」

玄関にたどり着いた時、彼が真希に去るよう指示する声が聞こえた。

私の姿を見るや、彼はすぐに両手を広げて抱きしめてきた。

「手がこんなに冷たい?もう二度とこんなことするなよ。病気になったら心配だ」

「病院からビタミン剤をもらってきた。忘れずに飲んでくれ」

私は内心嘲笑しながら、彼から薬の箱を受け取った。

「わかった」
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