シャワーを浴びて服を着替え、しっかりと仕事用の自分に変わる。 これからは要を追いかけるつもりだから、もっと気合を入れなくては。 この会社には本社に移動できるチャンスがあるのは社員の誰もが知っている事で、私は無理を承知でそれを希望してみようと思っている。 何年かかっても、彼の傍で堂々と仕事をできる女性になりたいの。 その事について少し話を聞こうと思ったけれど、まだ課長代理の要の姿は見えない。不思議に思っていると、少し慌てた様子で部長がやって来た。「皆、聞いてくれて。急な話になるけれど、課長代理を務めてくれた御堂《みどう》君が……本日、本社に戻る事になったそうだ」 ……え、今なんて? まるで時間が止まったように、私は部長を見つめたまま動けなくて。 だって……今朝まで要と一緒に居たのに、私は何も聞いてない。「挨拶も出来ないで申し訳ないと言っていたよ。しばらくは僕もフォローに回るから、新しい課長が決まるまで皆で協力して欲しい」 いつか要《かなめ》が本社に帰る事は覚悟していたけれど、こんなに急にいなくなるなんて思ってなかった。 どうして? という気持ちでデスクに戻り、カバンからスマホを取り出し確認する。もしかしたら、何かメッセージが入っているかもしれない。そう期待したけれど……スマホの画面には彼からのメッセージも不在着信も残ってはいなかった。 まるで数時間前に触れていた肌の温もりのように、要が私からそっと消えてしまったようだった……「長松《ながまつ》君、ちょっといいかな?」「部長……」 力なく椅子に腰かけて今日の仕事内容を確認していると、いつの間にかデスクの横に立っていた部長に声をかけられる。 「ついて来て」と言われて連れて来られたのは、普段はあまり使われない個別に話を聞くための相談室。 部長は部屋にいる誰かに「連れてきました」とだけ伝えると、私にも中に入るように言った。「失礼します、長松《ながまつ》 紗綾《さや》です」「ああ、知っているよ。私が頼んで、貴女を呼んでもらったのだからね」 部屋の窓の傍にスーツ姿の男性が立っているが、太陽の光がまぶしくてよく見えない。 私を知っているこの人はいったい誰?「あの、すみません。こちらからでは顔がよく見えなくて……」 多分この人は、それなりの役職に就いている方なのではないかしら? 部長
私の頬を擽るように優しく触れる指先。夢心地でその感触を楽しんで「ふふふ」と笑うと、優しかったはずの指先が私の頬を引っ張り出す。 どうやら気持ち良い眠りの時間も、どうやら終わりらしい。「痛いじゃない……そんな起こし方をして欲しいなんて、頼んでないはずだけど?」「紗綾《さや》が狸寝入りなんてするからだろ? それにちゃんと手加減してる」 確かに要《かなめ》の言う通りだけど、前はもっと優しく起こしてくれていたじゃない? 無言で彼をジロリと睨んだ後、ヘッドボードの目覚まし時計を手に取る。 まだ五時前だけど、一度自分の部屋に帰って仕事に行く準備をしなければいけない。 私の腰に回された要の腕をそっと外して起き上がる。 こうして要と気持ちを確認して肌を合わせて、今度こそきちんと自分のこれからを決めることが出来た。 その事を、彼にちゃんと話さなくては。「要は先に本社に戻って欲しい。貴方が戻ってくるのを待っている人を、これ以上待たせるべきじゃないわ」「……それはどういう意味だ、紗綾?」 ずっと悩んでいた、何度も考えて……それでも私はこの答えを選ぶことにした。「今度は私が、要を追いかけることにするわ。貴方に甘やかされてばかりは嫌だから、少しでも近くに行けるように頑張らせて?」 きっと要は私がついて行くと言えば、生活から何まで面倒見てくれるでしょうね。だけどそれは私の望む二人の未来じゃないの。 だから……「時間がかかっても、必ず要を《迎え》に行くから。今度は、貴方が私の事を待っていてくれる?」 先に私を迎えに来てくれたのは要、今度はその役目を私にさせて欲しいの。私がそう言うと、要は私の頬に手を添えて優しく唇を重ねる。そして……「当たり前だろう? ずっと待ってる。俺は紗綾を信じているから……」 額をくっつけるようにして、互いに至近距離で見つめ微笑み合う。こうして今は優しい時間を過ごせるけれど、すぐに要は行ってしまうはず。 頑張ると言ったけれど、離れることに不安が無いわけじゃなくて……「他の女性に言い寄られたり、流されたりしたら許さないんだから」「何を馬鹿な事を……俺はいつだって、紗綾《さや》だけで手一杯だ」 そんな事を話しているうちに、カーテンの隙間から朝日が差し込んでくる。 もう帰らなくては、準備が間に合わなくなってしまう。 ヘッドボード
「あっ、ああっ……! やぁっ、ど、して……かなめ、だめっ…だからぁ!」 私が既に達している事を要は分かっているはずなのに、彼は指の動きを止めようとしない。 敏感な場所に変わらず刺激を受け続ければ、私の中の熱は収まらず身体はビクビクと何度も跳ねる。 そうやって要《かなめ》は強すぎる快感から逃れようとする私を捕まえて、その手でイきっぱなしにさせてしまう。「あんっ……だめっ、おかしく…なるっ、おねが……い。はぁんっ……また、イっちゃ…っんんーー!」 何度達したのかもわからなくなるほど、理性も身体もドロドロに溶かされてしまった私。 その熱に浮かされたように、何度も何度も彼に強請《ねだ》ってしまう。「指は、やだっ……かなめが、いいっ…! おねが、い……もうかなめが、欲しっ…」 こんな淫らな姿の私を見て要だけ冷静でいて欲しくない、貴方も同じように私を欲しがってよ。 大きく開かれた脚の間、奥からは要の事を欲して蜜がとめどなく溢れてくる。「俺が欲しいか、紗綾《さや》?」 要は私の手を取り、自身のスラックスに触れさせる。 そこはすでにはっきりと彼の欲望を表わしていて、要がどれだけ我慢しているのかもすぐに分かった。 こんなになっても耐えて私を先に蕩けさせてしまうなんて、この人は本当に馬鹿だわ……「要が欲しい……ねぇ、早く来て……?」 思いきり甘えた声で、要の背に必死に腕を回して。もう何も考えられなくなるくらい彼に愛されたかった。 そんな私のおねだりに、要も限界だと言わんばかりに眉を寄せて……「ああ、俺も紗綾が欲しい……」 太腿に移動した要の手が私の脚をさらに広げたかと思うと、その奥に彼の欲望が触れた。 宛がわれた要《かなめ》の熱、それだけでこれから彼に与えられる快感を期待して「はあ……」と甘く息を零す。 私が体の力を抜いたのを見計らい、要はいつもよりも乱暴に腰を進めると一気に私の奥まで貫いた。 その衝撃で跳ねる私のつま先、それだけで達しそうになるのを堪えて要に回した腕に力を入れる。そうしていなければ、私がどうにかなってしまいそうだったから。「あ……ぁあっ、かなめ…きって、言って……?」 ゆっくりと私を揺さぶり始めた要に、こんな時ばかり甘える自分は狡いと思いながらも彼からの言葉を強請る。 だってしょうがない、今すぐ欲しくて堪らないの……
欲を浮べた瞳に見つめられ、私は恥ずかしさに身を捩る。胸からゆっくりと肌の上を移動していく要の手のひら。くびれた腰のラインを確かめて、そのまま下がっていく。 ……これから彼にされることに期待して、私は唾を飲み込んだ。 要の手が私の太腿を過ぎて、足首近くに着くと掴まれてそのまま左右に大きく脚を開かれる。分かっていたことだけれど、やっぱり恥ずかしくて…… すぐに私の脚の間に要が身体を移動させ、閉じさせてもくれない。彼の愛撫によって私がどれだけ欲情して要を欲しがっているのかも、このままではすべてバレてしまうのに。「待ちきれないって、顔しているな。でも、まだ駄目だ」 ……駄目って何が? 私はすぐにでも要が欲しいと思っていたし、彼も同じだと思っていたの。 要は指で私の溢れた蜜をすくい、敏感な場所に触れる。 刺激を欲しがっていたその場所は、要から与えられる愛撫によってどんどん欲張りになる。「あっ、ああっ…もっと、あっ…はぁ……」 これだけでも達しそうだったのに、要は中にも指を侵入させて動かしてくる。一本で慣らすと、すぐに指を増やして私の中を擦る。 要は私が弱い所はもう全部知っていて、二か所を同時に刺激された私は快感に耐えられず嫌々と首を振った。「やだぁ……かなめ、これ…むりぃ……っ…」 だけど私のそんな言葉を聞いて、要《かなめ》は唇を舐めてニッと笑ってみせた。それは普段の彼からは想像出来ない嗜虐的な笑みで、私の身体はビクリと反応してしまう。「……嫌? 本当に止めてもいいのか、紗綾《さや》」 そう言って要は私の中の指を動かすことを止めてしまう。抜いてくれればいいのに、わざとらしく二本の指は私の体内に残されたまま。 先程まで外の敏感な場所を刺激していた指も、今は私の脚の付け根をゆっくり撫でるだけ。それだけでも、私の身体はピクンピクンと動いてしまう。「どうした。答えろ、本当に止めてもいいのか?」 酷く焦らされることによりこれより強い快感が欲しくて、理性的でなんていられなくなる。 今までこういう時は優しかった要、でも全く違う一面を見せられたことで余計に興奮が高まっていく。「だめぇ…やめちゃ、だめ……んっ、んあっ……もっと、して?」 要の手によって、どんどん蕩けてしまいそうになっていく身体と思考。強請るように要の身体を引き寄せた。「そうだ。上手
額から頬、瞼から鼻へ要は私の顔中にキスをしていく。私を少しずつ彼の温度で塗り変えようとしているんじゃないかと思った。 顔へのキスが終わると首へ、今度はそこから耳へとゆっくり移動して行って…… 「待てない」と言ったのに、今夜の要はいつもよりの優しく私を焦らしていく。彼の冷たい唇が触れた場所は、もうじんじんと熱を持っているのに。「はっ、意地悪……っ」 私の弱点でもある耳朶に、要は何度も口付け甘噛みをしてくる。それだけでも私の息は上がり、身体の奥から熱くなる。「どうした、もう我慢出来ないのか?」 わざとそんな事を言うの? 私をこんな風に変えてしまっているのは、他の誰でもない……あなた、なのに。「我慢出来ないんじゃないわ。だけど……今夜は何も我慢したくないの」 意地悪な事を言う貴方には、素直になんてなってあげない。強がる私を相手に、要《かなめ》はどうするのかしら? ……なんて、私にそんな事が言えたのはここまでで。「言ってくれるな。だが、すぐにそんなこと考えられる余裕なんて無くしてやる」 さっきより耳朶を強く噛まれ、そこに気を取られているうちに要の手が私の胸へと移動する。 いつもは優しく包み込むように触れるのに、今日はわざと形を変えるようにその大きな手で強めに揉まれてしまう。 人差し指で胸の先端に触れると、要は親指も使ってその尖りを摘まむようにして弄び始めた。「や……あ、それ…やっ……」 耳の周りを舐められ鼓膜に息を吹きかけられるだけで下半身までゾクゾクとしてしまうのに、要は私の胸への愛撫も遠慮なく続ける。 それだけで私の奥が熱くなり、この身体は彼を受け入れる準備を始めている。「要……だめ、あんっ…それ、やだぁ……」「……は、紗綾《さや》はこれが好きだな。もっとして欲しいって、こんな時くらいは素直に言ってみればいい」 いつもの要はこんなに意地悪じゃない。意地悪な男なんて好きじゃない。 なのに……私を抱いているのが要だというだけで、どうしようもなく感じてしまう。「や、やだ……言わないわよ、そんな事」 言葉ではそう言うけれど、身体は彼の愛撫に反応しもっと強い刺激を欲しがっている。もっと触って欲しい、もっと……「そうか? だがこうして欲しいんだろ、紗綾は」 そう言うと要の唇は首筋から胸へと移動してきて、さっきまで散々指で弄ってい
「仕方ないから、もう一度振り回されてあげる……今夜はもう帰りたくない」 シートベルトを外して、私はそのまま要《かなめ》の頬に口付けると彼の肩に腕を回した。本当は思い切り抱きつきたかったけれど、狭い車内ではそういうわけにもいかなくて。 久しぶりの要の体温、そして彼の愛用している整髪料の香り。そのすべてが愛おしくて……「紗綾《さや》、本当にいいのか?」 さっきまで強引に進めてきたと思えば、今度はそんな心配そうな顔をするから。そういうところ、ちょっと可愛いとか思ってしまうじゃない。 だけどね……「……早く、攫《さら》って行ってよ。要は私の今も未来も、全て奪ってくれるんでしょう?」 そう言って微笑んで見せると、今度は要の方から荒々しくキスをしてきて。いつもは軽いキスから始める要なのに、今日はそんな余裕もない様に深いキスばかりをしてくる。 口の端からどちらのものかも分からない唾液が零れても、それを拭う暇も与えてくれない。それほどまでに、今の要は熱くなっている。「……マンションまで待てないの?」 やっと彼のキスから解放されて、息を整えながら要を睨んだの。あんなキスをされて、こっちだって平気なわけじゃないのに。「俺だけの所為じゃない、さっきのは紗綾も悪かっただろう?」 確かに要を煽るようなことを言ったのは私の方だけれど、だからって……あんなキスをするのは反則じゃない?「……シートベルトをしろ、マンションに帰る」 そう言った要は何故だかいつもより不機嫌そうに見えて、私は首をかしげながらシートベルトを付ける。「今夜は手加減なんかしてやれない、覚悟しておけ」 車を発進させながら要がそんなことを言うから。 私は緊張と期待による胸の高鳴りを誤魔化すように、外の景色を眺めるふりをしていた。 マンションの部屋に入ると同時に、要《かなめ》は私を抱き上げてそのまま寝室へと連れて行く。そんなに焦らなくても、私はもう逃げたりしないのに。 少し乱暴に私をベッドへと降ろしたかと思えば、彼は優しいキスの雨を降らせてくるの。もちろん要からの熱い口付けは嬉しいのだけれど……「待って、汗をかいてるからシャワーを……」 今日だって一日しっかり仕事をしてきているのに。久しぶりに要に触れてもらえるのに、汗臭い身体のままなんて。「いい、もう待てない。今すぐに紗綾《さや》が欲し