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第 588 話

Author: 一笠
秋司の拒否するような態度に、志穂は少し気まずそうに言った。「水谷監督、すみません。お会いできたのが嬉しくて、ちょっと舞い上がってしまいました......

職業病みたいなものだと思ってください。名刺は捨ててもらっても構いません。今日は凛の友達として、皆さんに会いに来たんです」

「その悪い癖は直した方がいいぞ。芸能事務所の人間を見ると、すぐしかめっ面をする」慎也はゆっくりと言った。

「これも職業病だ」

秋司は少しむっとしてそう言うと、名刺を受け取った。「凛の顔をたてて名刺はもらうが、それ以外の要求は受け付けない」

志穂は慌てて手を振った。「そんなつもりは......」

「水谷監督、彼女はただの友達
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