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閑話 第4話 むすめですぅ……

last update 最終更新日: 2025-07-15 12:05:59

「藤堂さん」

「はい」

「全治1か月ですね」

「はい!?」

 レントゲンの結果を見ながら柏木医師《かしわぎせんせい》はこちらを見ずにあっさりとそう言い切った。

「どうしますか?」

「と、いいますと?」

「ええ、骨折の場合固定するためにギプスをするのが通常ですが、藤堂さんは刑事さんのようなので、なるべく動ける方がいいのかと思いまして」

 感心した。この医師《せんせい》はちゃんと患者に向き合いながら、患者の利益を考えて治療計画をしてくれる。初めに少し疑ってしまった自分が恥ずかしくなる。

「ご配慮ありがとうございます。何か方法はありますか?」

「そうですねぇ……。その折れてる部分的に固めるぐらいしかできないと思いますが……あとは長い時間移動するときの補助に松葉杖を使うくらいでしょうか」

「立ったりはできるんですよね? 」

「できるとは思いますけど痛いですよ?」

「息子に飯《めし》を作ってやらないといけないんで、台所に立つくらいの時間我慢できればいいんです」

――何だろう。そう言った途端に医師《せんせい》がじぃ~っと俺を見ているような……。うんよく見るとこの女性《ひと》綺麗なだなぁ……。っと、いかんいかん。へんな気を持ってはアイツと同類だ。それだけは避けねば。

「えと、失礼ですが……藤堂さんはお一人でお子様を育てていらっしゃるんですか?」

「え? ええ、そうですネ。たまに両親に見てもらってますがね」

「ああ、そうですか。ではウチと一緒ですねぇ」

ニコッと笑顔をみせた。

――あれ? この顔どこかで見たような……。

俺と話しながらも医師《せんせい》の手は休むことなく動き、俺の足に固定具を巻き付けていく。

「そういえば、ここに来る前に老夫婦に連れられたウチの息子くらいの娘《こ》に会いましてね」

「へぇ~
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