忍びの掟は絶対。だというのに、次期族長が外部からミドリという女性を連れてきた。次期族長の辰巳の婚約者として私・ヒバリがいるのに…。 族長の家に呼び出されたと思ったら、ミドリは辰巳の子を妊娠しているから婚約を解消してほしい。と。
View More次期族長の辰巳が外部からミドリという女性を連れてきた。
ここは、所謂忍びの里‘子(ね)の里’。
次期族長のコトラは私の婚約者。……のはずだ。
「なんなの?次期族長だからって調子に乗ってるの?族長なら何でもしてもいいってわけ?外部から女性を連れ込むなんて前代未聞の醜聞じゃないの?里のことは外部には漏らさないってのが掟でしょ?それが次期族長直々に破ったの?これどうよ?」
モミジ…怒り過ぎ。
この子は私の妹のモミジ。
忍びにしてはちょっと感情の調節が上手くできないかな?それ以外は完璧なんだけどね。
私は族長に呼び出された。
族長の家にて、辰巳とミドリという女性もいる。
「あー…、非常に申し訳ないんだが辰巳と貴殿の婚約を解消してほしい」
言ってることは下手(したて)だけど、族長がこっちにいうことは下っ端の忍びにとってみれば、命令。
「何故ですか?」
「辰巳のやつがなぁ・・・そこにいるミドリという女性を妊娠させた」
はぁ?単なる浮気でしょう?婚約解消じゃなくて、辰巳有責の婚約破棄の間違いよ!
「えーっと、婚約解消ではなく、婚約破棄の御間違いでは?族長!」
この場にモミジがいたら、暴れ狂っていただろう。
「一応、次期族長という肩書もあるからな。婚約解消で我慢してほしい」
モミジがここにいなくてよかった。
「要約すると、『次期族長の浮気により私・ヒバリは次期族長の辰巳と婚約解消をする』ですよね?間違いはありますか?」
少し圧をかけながら言うと、流石に族長は納得してくれた。
「俺はミドリに誘惑されたんだよ!」
だからどうしたの?
自分には婚約者がいる。と誘惑を断る事も出来たはず。断れなかった時点で辰巳は黒です。
「以上ですか?ではそのように、里の他の方ともお話をしないとならないのでこの場は失礼しますね」
私はその場をサッと立ち去った。
「おねえちゃん、なんだって?」
「婚約破棄じゃなくて、婚約解消だって。全く誘惑されたからとか言っても、婚約者がいながら浮気したという事実はつきまとうのに哀れよね」
「何よそれ!」
やはりモミジは暴れ狂った。連れて行かなくて本当に良かった。
「カエデ、今の事は本当なの?里の外部から女を連れて来て、その女は妊娠している?で、婚約解消?女を馬鹿にしてるの?」
やっぱりね。里の女性陣は怒るわよね。
「よし!あの女について散々調べてやる。もう、親の事までキッチリと!」
里の女性は頼りになるなぁ。
「里に外部から女性を連れてくるのはどうかと俺も思う。単純に掟を破ってるわけだし、ダメだよな。そして、その女は妊娠している?里の外部で遊んでいたのか?次期族長としてどうなんだ?あんまり信頼とか尊敬はできないなぁ」
こうなるから外部とは絶縁してるってのに、馬鹿だね~。
その後も夜会という夜会であの女の狙いと思わしき男のダンスに誘われ、踊りながらあの女の醜聞を伝えた。 全く、あのくらいのことで顔色が悪くなったり、体調不良になったり弱々しすぎるわよ! あの女の本丸かな? 今日は主催者が殿下の夜会。 気合いを入れて行こー!おー! 「モミジ、大丈夫なの?」「今までの男のだらしないことこの上ない!ちょっと醜聞を聞いただけで顔色を変えて、噂の『かめれおん』ってやつ?は虫類らしいけど」 まあ、モミジの好みはドーンとしたしっかりとした男の人という事ね。チョットやそっとじゃ動揺しない人か。 「何なの?今夜も貴女がいるの?」「あら?私がどの夜会に出席しようとも自由でしょう?」 そう言って私は颯爽と会場に入った。 流石に凄いわね。アレは…しゃんでりあってやつかしら?全部がらすなのよね?掃除が大変そう。食事も美味しそうだけど、まずは様子見でいつもどおり壁の花で様子を見ましょう。 あれ?私をチラチラ見る男女が多数いるけどなんで、これでも耳もいいんです。野山で育ったし。 「今まで何回も子供を産んでるって、その度に衰弱死させているらしいわよ?」「私が聞いた話だと敵対する華族に貢がせたとか?」 何よそれー!全部あの女のことじゃない‼ウワサの出所は間違いなくあの女の実家でしょうね。何もこの夜会でひそひそ言わなくても。否定すると逆に話が長くなるし、下手すると里の話にまでなるから、放っておきましょう。 けたたましい喇叭の音と共に殿下が現れた。 はぁ、この殿下もあの女の毒牙にかかるのか…。不憫。 その時壁の花になっていた私の元に殿下がやってきて、ダンスを申し込まれた。「私には多くの噂が付きまといますが、それでも私でいいのですか?」「私は其方が良いのです。私と1曲踊ってくれませんか?」 その後、私は殿下と踊りました。「殿下にまず伝えておきます。噂は事実無根。私とは関係ありません。関係あるのはあそこにいる、商家の娘ミドリ嬢です。噂は全てミドリ嬢について言ったものです」 その後も他の夜会でも伝えたような事を殿下に伝えました。「それが事実ならばミドリ嬢の実家を調査せねばならないな」 よしっ!これでミドリは社会的に抹殺よ。「あっ、証拠が隠滅されないように、抜き打ちで調査に行くことをオススメします。それと、あの家
はぁ、やっぱり面倒なことになると思ったのよ、あの女。「私のおねえちゃんを煩わせるなんて。あの女、里を追い出す前に命を頂戴すれば良かったのに」 そうは言っても生まれたばかりの赤子から母親を奪うのは酷じゃないかと思うのよね。「3人全員の命を頂戴するのです!」 モミジ、物騒よ…。 ほら、猿巳が保護されてやってきた。「埃っぽい物置小屋に押し込められて、食事も与えられず、衛生的にも状態が悪いです」 なるほど、オムツを交換する人間がいなかったようね。 お尻の皮膚がもう少しで爛れ堕ちるところだわ。里で養生しなさいな。大人の事情に巻き込まれて可哀そうに。「育児経験がある方は里にいるわよね?お任せしたいんだけど、いいかしら?」「はい、夜泣きとか大変なんですが…。何この子、夜泣きする元気がないくらい衰弱してるんじゃないかしら?どうやったらこんなになるの?」「どうやら、ミドリの実家では食事が与えられていなかったらしいわ」「あんの女狐!」 この人もモミジと同じタイプの人かしら?「精一杯努力しますわ。そのうちもう夜泣きが里中に響き渡るくらい元気な子にします!」「お手柔らかにね。夜泣きで里の場所が特定されるのは不本意よ」「おねえちゃん、凄いわ!流石私のおねえちゃん!族長!って感じする‼」「そう?普通に接してるつもりなんだけど?」 一応、族長の元・婚約者だからかしら?「どうにかして、あの女にも一泡吹かせたいわね」「おねえちゃんの顔はバッチリあの女にバレてるだろうけど、私はどうかな?私があの女が狙ってる男を落としまくるっていうのは?」「いいけど、夜会には招待状とか必要なんじゃないの?」「そういうのの偽造に長けた人が里にいること知ってるくせに」「モミジを危険なところに送り込みたくないのよ」「おねえちゃん優しいー!おねえちゃん大好きー‼」 モミジもいい加減にいい年なんだから、男性との出会いがないものかしら?今回のミドリの狙ってる男を落としまくりの中に理想の男はいるのかなぁ?いやいや、出会いというか、里の中でいいひとはいないものか、なんだか親心だわ。 計画してからちょっとしか時間が経っていないのに、招待状が偽造された。「この招待状があれば、今夜開かれる裕福な商家の夜会に参加できます」 仕事が速すぎ。優秀だわ。「さて、夜会だもの。ドレスかしら?
「流石は辰巳ですね。腐っても元・次期族長」「褒めても何も出ないぞ?ちなみに、合言葉の答えは?」「簡単ですね。『カツラ使用者』ですよ。本人の前では使えない合言葉ですよね。でも里の中で浸透しちゃってる。小さい子までわかってるんですよ」 カツラを使うという事が?族長の威厳…。「まぁ、これが用意した資料となります。旅の途中でボロボロにならないようにあえて羊皮紙を使用しました。文字はそこら辺の木の幹の上で書いたので、汚いですねぇ。机の上で机の上で書くのは変でしょう?さて、子の里に喧嘩を売ったのですから、相応の覚悟があるのでしょうね。辰巳はしばらく…そうですねあと1週間ほど野営をしてください。ユーキ…猿巳ですが、簡単に保護を致しました。亥の連中は鍛錬をしているのですか?というくらい簡単でした。貴方方二人は里を追い出されたわけですから、再び里で暮らすことはできません。今は非常時なので、ユーキあぁもう猿巳でいいですね。猿巳は里で保護している状態です。残念ながら辰巳は里に入る事はできませんが、猿巳の命は保証しましょう。ミドリの実家にいるよりもずっといい生活をしていますよ」「ミドリの実家で猿巳はどんな生活をしていたんだ?」「まず、埃っぽい物置小屋での暮らしですね。乳児にはありえません。そのままでは肺の腑が病気になることが懸念されます。食事にあたる乳ですが、辰巳には当初乳母が与えるという話だったのですか?明らかに違いますね。あの小屋で猿巳は一人っきりで生活をしていました。乳児が一人っきりです。オムツが汚れようとも、お腹が減ろうとも世話をする人間はいません。あるのは埃っぽい環境だけです」「……」 俺は絶句してしまう。ミドリの父は初孫ではないのか?「ああ、ミドリの父にとって猿巳は初孫ではないですよ?ミドリは以前にも同じようなことをしでかしまして。その時の子はもう亡くなっているのですが」 猿巳も何もなかったかのように殺してしまうつもりだったのか…。「1週間ほどたった時にミドリの実家へとその紙を持って行ってください。おそらく情報を欲しがっているのは亥の里。そこに書かれているのは、亥の里についての詳細です。構成人数、それぞれの得意技、肝心な亥の里の場所など詳細に記されています。亥の里の人間も流石に手を出してはいけない相手と認識できるでしょう。ミドリの父にそれを渡してからは貴
俺は里での生活がなんて恵まれていたのかを思い知った。 一時の快楽のために全てを失ってしまった。 ユーキが人質になっている……。 また里を裏切ることになるのか。 掟を破り、外部の女を里に入れた報い。 ミドリの父は何がしたいんだ? 里の情報を得て何をしようとしている? 「辰巳、キョロキョロ周りを見ずにそのまま聞いてください。当然ながら、あなた達二人には尾行をつけて追放をしています。私はその一人です。ミドリの方についていますが、ミドリのまわりには忍びのような経験をした人がいないので、気取られることはないでしょう。ユーキ…猿巳の事ですね?その子が人質になっていると?それならば、我々としてはその子を助け出しましょう。貴方がすべきことは、偽の情報をミドリの父に与えることです。情報を欲しがっているのは恐らく‘亥の里’でしょう。では、数日後に里の付近で…」 俺はない頭で考える。 亥の里の者が情報を欲しがる?ならばミドリの付近に亥の里のやつらがいるのでは? 俺はミドリの側に近づいた。 なんか淑女のような出で立ちのミドリがそこにはいた。 俺の境遇もユーキの今の状態も何もなかったのように着飾っている。「辰巳、近づかないでよ。汚いわ。私はこれから裕福な商家の夜会に招待されているのよ。貴方には一生縁がないでしょうね」 そう嘲笑しながら彼女は去って行った。 ミドリの事はもうどうでもいい。この異質な気配…。 ミドリの側に忍びがいる。それも複数人。護衛か? ならば、子からミドリにつけていた尾行の人間は?消された? ミドリが恐ろしくなった。 俺に出来ることは子の偽情報を持ってくることのみ! おそらく、里の外で情報を書いた紙を渡してくれるのだろう。 俺はミドリの父を裏切らないように今度は亥の里の連中に尾行されているようだ。 俺が言うのもおかしな話だが、俺に「尾行されてるな~」とか思われるあたり、亥の里の人間の忍びとしての能力は子の里よりも劣っていると俺は思う。 子の里の人間には尾行されてると全く気付かなかったからな。 そういえば、ユーキのところには護衛はついていないのだろうか?亥の里の。子の人間なら勝てるとは思うが……。 ミドリはああして着飾って夜会へと行き、自分へと貢ぐ男を探すんだろうな。俺はどうしてあんなに尻の軽い女に骨抜きにされての
なんだかスッキリした。 目隠しをした物証さん達は帰ってもらった。 ただ、ミドリの実家の元・使用人さんはあまりにも哀れなので、この里でよければという条件でこの里が受け入れた。 もちろん受け入れたことは秘密だし、しばらくは一応の監視がついている。「この度は本当に感謝している」「本当ですよ!私のおねえちゃんがいなかったらこの里がどうなってたことやら。辰巳が族長になったら、里を出ていくって人が沢山いたんですよ!」 このモミジの発言には流石の族長も驚いていた。「次期族長という立場でありながら、外部の女性を妊娠させて里に連れてくるなど言語同断です!」「ゴホンッ。それでだなぁ、今回の動きを鑑みて次期族長にはカエデが相応しいと思うのだがどうであろう?」「私のおねえちゃんが族長ですか?完璧です☆」「そうか?カエデはどうだ?承諾してくれるか?」「ちょっと考えさせてください」「もうーっ、おねえちゃんたらその場で承諾すれば良かったのに」 頬を膨らませたモミジは可愛いが、この件はまだ引きずる気がする。「辰巳、当然里の場所はどこにあるか知ってるんでしょ?」「地図を見てもわからないけど、迷子にはならない」「そう」 二人の子供を抱えながら微笑むミドリを見て、辰巳は何かが奥歯に挟まったような違和感を覚えた。 その後二人は、ミドリの実家に身を寄せることとなった。「初めまして。辰巳と申します。この子の父親です」 「あぁそうなの?」と、ミドリの母は実に淡白だった。歓迎するでもなく、叱責するでもなく……。 ミドリの父にはこっ酷く折檻を受けた。嫁入り前の娘さんが一年近く行方不明だったんだし、この間は里の人間に目隠しで写真を撮られたのか。と甘んじて受け入れることとした。 が、ミドリへの対応は良いとして、俺とその子に対しての対応が全く異なる。どういうことだ?通常ならば『婿』として扱われるのではなかろうか?使用人への対応に似ている。 ミドリの父も俺は『旦那様』と呼ぶように言われている。子供の名前は‘ユーキ’となったと聞いたが、初めてこの家に来て以来顔を見ていない。今はどこにいるのだろう? 使用人のウワサだと、物置小屋で生活しているらしい。ミドリの父にとってだって初孫ではないのか? ユーキには専属の乳母がついていると聞いた。ミドリも一応良家のお嬢様というやつなので
さて、物証さん達には大声で自分が今までしてきたことを話してもらおうかしら?・華族①「私はミドリと何度も体を重ねた。そして対立する華族家とミドリの奪い合いになり、ミドリ発案でどちらがミドリに満足してもらえるかということで争った。もちろん自分の体の事でもミドリに貢ぐ金品のことでも」・華族②「私の方がこんな軟弱華族の男よりもミドリを満足させられたはずだ。体でも金品でも。金品については親類から最近グチグチ言われてなかなか自分の思うように貢ぐことはできなかったが、カラダについては自信がある!」・商家の男「なんだとぉ!俺が一番彼女を抱いたという自信があるね。家もそんなに離れてないし、何より平民だというつながりがある。そんななよなよ華族の男たちよりも叩き上げの男として俺の方が絶対に彼女を満足させられたね!」 なんて、醜い争いなんだろう。小さい子供には聞かせられない。家の中に入るように厳命してよかった。・実家の使用人「ミドリ様の実家では高利貸しを行っており、最初こそ少ない金利だと言って近づくのです。まるでパトロンにでもなるかのように。しかし、時間が過ぎると、ゴロツキを雇ってお金の回収を強行します。家財が回収されるならまだいい方です。最悪娘さんが娼館に売られてしまうことも……。私は耐えられずそんな家を辞めたのですが、退職金も出ませんでしたし、他家への紹介状も持たせていただけませんでした」 後半部は初耳だけど、がめついなぁ。 結構な大声で喧伝してもらってるから、屋内に隔離しているとはいえ、無邪気な子供の耳にも入る事になり、一緒にいる少し年上の子は質問攻めでなんか可哀そうだ。 あとでお礼になんかあげよう。「ミドリ、これは本当の事なのか?」「嫌だ。里の方って冗談がお好きなのね。まさか!そんなわけないじゃない懸命に連れてきたみたいだけど、これって掟を破ってることにならないのかしら?」 ミドリがシラを切る事は想定内。 仕方がないので、物証(華族が貢いだものを購入時の領収書)とそれに書かれているもの。同時にミドリの両親を写真に写して見せた。 写真にはミドリの両親、貢がれたものが写っている。 領収書は別に持ってきた。「族長、コレが物証となります。外で大声で喧伝していることは真実です。現実を受け止めて下さい」「うむ。ここまでの物証があるとなると外での言葉は
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