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第372話
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植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第1197話
「お母さんのところは今、まだ朝の六時だよ。あと一時間くらいしたら電話してみようね」三浦が宥めるように言った。「お母さんは仕事に行ってるだけだし、仕事が終わればちゃんと帰ってくるよ」「もしママも帰ってこなかったら、私と弟はどうすればいいの？」レラは突然しょんぼりした。その時、蒼がいきなり泣き出した。三浦は慌てて蒼を抱き上げ、泣いている理由を確かめた。ちょうどその頃、門の外に一台の車が停まった。レラはすぐに駆け出し、外を覗いた。車から降りてきたのはマイクだった。大股でこちらへ歩いてくる。「マイクおじさん！」レラは泣きながら走り寄った。マイクは眉を寄せ、数歩で彼女の前に辿り着くと、抱き上げた。「どうしたんだ、泣くなよ」「パパとママに会いたいの」レラは目をこすりながら訴える。「君のパパは家にいるんじゃないのか？」昨日の夕方、マイクが来た時には奏がいた。だが言葉を交わす機会もなく、二人はほとんど話さなかった。「もう出て行っちゃった。電話も通じないの」レラは口を尖らせた。「三浦おばあちゃんはママが悪いって言うけど、私知らなかったの。昨日から今朝まで、パパにずっと口をきかなかった。パパ、怒ってるかな？」「パパが君に怒るはずないだろ」マイクは彼女を抱いたまま屋敷に入った。「それに、パパとママのケンカだって、必ずしもママが悪いとは限らない。少し待てば、そのうち仲直りするさ」「本当？」レラは涙をぬぐった。「ああ、俺が嘘ついたことあるか？」レラは無理やり笑みを浮かべ、すぐに眉をしかめた。「弟がおしっこじゃなくてうんちした。早く私を外に連れてって！」マイクはすぐさま彼女を抱えて庭に出た。一時間後、マイクはとわこにビデオ通話をかけた。数秒後、とわこはすぐ切ってしまった。マイクは呆然とした。どうして切ったんだ？再びかけ直そうとした時、とわこから電話がかかってきた。「とわこ、どうしてビデオ通話を切ったんだ？」「今、病院にいるの。ネットの調子が悪いから、電話で話したほうがいいと思って」とっさに理由を作った。本当は、昨夜一晩泣き明かしたせいで目が腫れ上がり、とても見せられる顔ではなかったのだ。目だけでなく、声までかすれていた。マイクはその声を聞いた瞬間、異変に気づいた。「そうか。でもレラがお前に会いた
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第1196話
「俺は自分の目で見たもの、耳で聞いたものしか信じない」奏はとわこの泣き声を聞きながらも、心は揺るがなかった。これまでは、彼女の目に涙が浮かぶだけで、無条件に折れてきた。その無数の甘さと許しが、今の結果を招いたのだ。すでにすべてを手放した今、彼女の策が再び通じることはない。「あなたは何を見たの？何を聞いたの？」とわこは取り乱して叫んだ。「事実は、あなたの見たものや聞いたものなんかじゃない！それは片方だけなの！私は別れない！あと数日だけ待って！必ず説明するから」以前なら、彼はその言葉に耳を傾け、もう数日だけ猶予を与えたかもしれない。だが今は、数日どころか、数時間でさえ待つつもりはなかった。「用事を済ませたら、すぐに帰国しろ。忘れるな、お前にはまだ三人の子供がいる」そう告げて、奏は電話を切った。耳に響く「ツーツー」という断線音に、とわこの心は冷え切った。まるで硬い鉄板にぶつかったように、冷たく痛む。奏は彼女に別れを告げ、子供のことまで託した。彼は会社も、彼女も、子供もすべてを手放してしまった。彼女は執念のようにもう一度番号を押した。「おかけになった電話は電源が入っていないため、かかりません」システム音声とともに、自動的に切断された。画面を見つめながら、とわこは呆然と立ち尽くす。彼はこうして、何の迷いもなく、彼女のもとを去っていった。風のように、煙のように軽やかでありながら、決して翻ることのない決意をもって。日本、空港。携帯を切った奏は、ふと後ろを振り返った。過去は、過去のままに。失ったものなど、最初からなかったのだと思えばいい。彼の人生は、ただリセットボタンを押されたにすぎない。これから先、もう誰の束縛も受けることはない。夕暮れ。レラは家に戻ると、まず父の姿を探した。「レラ、パパを探してるんでしょ？」三浦がすぐにその気持ちを見抜く。「今朝、あなたが学校へ行ったあと、家を出ていったの」レラはランドセルを下ろし、視線を落とす。「どこに行ったの？」「何も言わなかったわ。ただね、今朝あなたが口をきいてくれなくて、少し傷ついてたみたい」「だってママと喧嘩したんだもん！私、絶対に口きかない！」レラはぷりぷり怒りながら、弟の前へ。「ばか弟、あんただけよ、まだパパって呼ぶの！」
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第1195話
結菜の病室に入ったとわこは、ベッドに近づき、その細い手をそっと握りしめた。「結菜、今は本当に苦しいと思う。でも諦めないで。もう適合する腎臓が見つかったの。すぐに手術ができるから、終わったら元気になるわ」結菜の瞳に淡い笑みが広がり、弱々しい声が漏れる。「どうして私を見つけられたの？」「ええ、少し前に見つけたのよ。お兄さんはずっとあなたが生きているって信じてた。だからあなたも強くならなきゃ。手術が終わったら、一緒に彼に会いに行こう。いい？」とわこが励ますように言う。「元気になれたら、もちろん会いに行くわ。驚かせたいな……」そう言うと結菜の顔がぱっと輝いた。「こんなにうれしいの、久しぶり」「これからもっと楽しいことが待ってる。蓮もレラも、あなたのことをずっと忘れたことはない。蒼も元気でね、今はパパとママって呼べるし、歩く練習も始めたの」「とわこ、もしかして腎臓を見つけてくれたのはあなた？」結菜は感謝で潤んだ目を向ける。「真はずっと探してくれたけど見つからなくて……彼が私のためにどれだけ苦しんでるかを見てたら、もう生きていたくなくなったの」「そんなこと言わないで。あなたはもう十分に苦労してきた。これからは必ず穏やかな日々になるから」「うん……お兄さんのところに帰りたい。会いたい……」結菜の瞳から焦点が消え、か細い声でつぶやく。「帰れるなら、何だってする……」力尽きるように言葉を終えると、再び眠りに落ちてしまった。真が毛布をかけ直し、とわこに目を向ける。「君に会う前は、こんなことは一度も言わなかった。君を見て、奏に会いたい気持ちが強くなったんだ」「真、手術はいつできる？」とわこは待ちきれないように問いかける。「体があまりに弱っていて、今にも息が途切れそうで怖い」「早くても明後日だ。明日は術前の検査をしないといけない」真は彼女の肩を軽く叩き、言葉を添える。「君が早く奏の誤解を解きたい気持ちは分かってる。大丈夫、俺と結菜でちゃんと説明するよ」とわこの瞳が熱く滲む。「私、彼に憎まれるのは構わない。ただ、彼が今、私以上に苦しんでいるかと思うと……会いたくて、話したくてたまらないの」「とわこ、今は考えすぎるな。帰って休め。結菜も黒介も俺が見てるから。奏だってすぐに真実を知る。彼の苦しみも、そう長くは続かない」とわこは静かにうな
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第1194話
無数の通知が一斉に飛び込んできた。奏は不要な情報をすべて弾き、ブラウザを開く。トップニュースに映し出されていたのは、自分の顔写真だった。過去のすべてが、この瞬間で終わりを告げた。そして、とわことの関係も同じように幕を閉じたのだ。昨夜、レラが帰宅したとき、家にいた彼を見て、その瞳は冷たく、どこか怯えが混じっていた。娘に歩み寄りたい気持ちは山ほどあったが、その反応を目にした瞬間、彼は何も言えず、軽々しく近づく勇気も持てなかった。今朝も同じだった。三浦が髪を梳いてやっているそばで、彼は黙って見守るだけ。髪を整え終えると、レラはすぐにランドセルを背負って家を飛び出していった。一度も彼を見ず、一言も口をきかずに。まるで彼が化け物か何かであるかのように。ただ、蒼だけは何も分からない。抱き上げれば笑いかけ、今でも「パパ」と呼んでくれる。けれど彼は、もはやあの光に包まれた奏ではなかった。会社はもう彼のものではない。肩書きも権力も、すべて黒介に渡した。子どもたちにとって自分がどんな価値を持つのか、もう分からなくなっていた。そのとき、着信音が鳴り響き、思考の闇から現実へと引き戻される。数秒間ディスプレイを見つめた後、彼は通話ボタンを押した。「奏、あの女に利用されて、今のお前は丸裸だ。ネットを見たか？やつらがどれだけお前を嘲っているか」「栄光に満ちていた頃は、誰もがお前を敬い、恐れていた。耳に入るのは賛美ばかりだったろう。だが今は違う。お前は落ちぶれた犬だ。誰も助けはしない。溺れようがどうなろうが、笑い者になるだけだ。水を飲んで必死にもがく姿がどれだけ滑稽か、ってな」電話越しの声に、奏の目は鋭く細まり、拳が白くなるほど握りしめられた。「奏、俺は見捨てない。俺のところに来い。いい酒もあるし、お前にふさわしい舞台も用意できる」葉巻をくゆらせながら剛は重々しい声で続ける。「前にも忠告したはずだ。とわこはいい女じゃない。俺が見てきた女はお前が食った塩より多い。女を大事にすれば、女は頭の上に乗る。女を従わせたければ、まず翼を折れ」「今どこにいる？迎えを寄こす」「兄貴と呼ぶかどうかは好きにしろ。まずはこっちに来て休め。頭を冷やせ」アメリカ。とわこは病院で黒介の入院手続きを済ませ、病室で洗面を手伝い、その後もつきっ
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第1193話
その話題は、とわこの胸を深くえぐった。「奏は持っていた株をすべて黒介に譲ったの」真は一瞬言葉を失ったが、やがて口を開いた。「黒介に譲ったならいいじゃないか。あとで黒介が彼に戻せば済むことだろう」「悟と弥が同意するはずがないわ」とわこは言った。「黒介は今、彼らの戸籍に入っているの」「とわこ、黒介を普通の大人として見ればいい。そうすれば頭を抱えることもなくなる」真は冷静に口にした。「僕から見れば、黒介にあの親子の後見人は必要ない。自分のことは自分で決められる。まるで、かつて結菜が自分で蒼に輸血することを決めたようにね」真の言葉は、とわこに大きな勇気を与えた。「とわこ、僕は何を手に入れたのかよくわからない。でも、それを君たちに返せるなら返したい」黒介は必死に話を理解しようとしていた。「君が言うなら、全部従う。これからは君の言うことだけを聞く」黒介は、和夫のもとから悟のもとへ渡され、色々な経験をした末に気づいた。自分に一番よくしてくれるのは、とわこだけだと。「黒介、ありがとう。手術が成功したら、この件をしっかり考えるわ」とわこは胸を打たれた。病院に着くと、彼らは結菜の病室へ入った。どんなに覚悟を決めていたとしても、実際に結菜を目にした瞬間、とわこは崩れ落ちるように泣き出してしまった。結菜は骨と皮ばかりに痩せ細っていた。もし隣の心電図の波が動いていなければ、生きているとは思えないほどだった。「とわこ、泣かないで。彼女はもう長い間、病に苦しめられてきた」真の声は震えていた。「だから君が黒介を見つけられないと言って、奏と口論になりそうだと聞いたとき、やめろと言ったんだ。彼女はずっと死にたいと思っていた。諦めなかったのは僕の方だ。奇跡を待っているんだ。奇跡が起こるかもしれないだろう？」黒介は病床の結菜をじっと見つめ、小さな声で尋ねた。「彼女が僕の妹なの？」「そうだ。彼女が結菜で、君の双子の妹だ」真はスマホを取り出し、病気になる前の結菜の写真を見せた。「病気になる前は、とても可愛くてね。君にも少し似ている」黒介はその写真を手に取り、じっと見つめ続けた。血のつながりが全身に染みわたっていくような感覚が広がる。「今すぐ僕の腎臓をあげてくれ！」黒介は真にスマホを返した。「休まなくて大丈夫か？」黒介は首を横に振った。
植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた 第1192話
今いちばん大事なのは、やはり結菜の手術だ。「黒介、まずはアメリカへ行って、妹さんに会いに行こう！」とわこは運転席に座り、車を空港へと走らせた。空港へ向かう途中、彼女は三浦に電話をかける。「三浦、ちょっと急用で今からアメリカに行くわ。いつ戻れるかはまだ未定なの」三浦「え、戻れる日が未定ってどういうこと？レラと約束してたじゃない、夏休みにアメリカへ連れて行くって」「それは大丈夫。マイクがその時に連れて来るから」彼女は答えた。「そう……でも、急用って何？レラは夜になれば必ず聞いてくるわよ」「手術があるの」少し間を置き、とわこは簡潔に言った。「わかったわ。安心して行ってきて。家のことは心配しなくていいから」電話を切った三浦は、ソファに座る奏を重い表情で見やった。「旦那さま、とわこが……」「彼女のことは話さなくていい」奏は三浦の言葉を遮った。「どこへ行こうが彼女の自由だ」三浦は胸を痛めながら言う。「でも旦那さまが家にいると知れば、きっと会いに戻ってきますよ」「俺は彼女に会いたいとは思わない」奏はソファから立ち上がり、大股で階段を上がっていった。その背中を見送りながら、三浦は孤高で寂しげな姿にため息をつく。「とわこさん、なんで海外へ行くのかしら？」千代が歩み寄り、尋ねた。「せっかく旦那さまが帰ってきたのに、とわこさんはまた出て行くなんて……まるで示し合わせたみたいじゃない？」「そんなことはないと思う」三浦は答えた。「国外で手術があるって言ってたわ」「そうなの？それでいつ戻るの？」「戻れる日が未定って」三浦は言いながら、ふと疑念を口にした。「まさか本当に二人で会わないように約束したのかしら？手術なら期間があるはずなのに、なんで未定なの？」「可哀想なのは三人の子どもたちよ」「蓮はまだいいのよ。自立心が強くて、もともと旦那さまを受け入れていなかったから。だからとわこと旦那さまが別れても、彼にはあまり影響がないの」「でも旦那さまの会社、何かあったみたいよ」千代は先ほど電話で聞いたことを思い出した。「常盤グループを人に譲ったって」三浦の顔色が変わる。「そんなはず……」「詳しくはわからないけど、今回の喧嘩はそのことが原因かもしれないわね。常盤グループは大企業だから、上層部に変動があれば公表されるわ。
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