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11品目:ヴァルドルのフルコース ~肝臓のポタージュ~

last update 최신 업데이트: 2025-04-15 11:00:36

 ヴァルドルは昨日までと同じく、狭い檻の中で膝を抱えて座っている。

 別に気にかける必要もないのだが、どうにも気になってしまって、僕は準備をしながら、さりげなく檻の近くを通り、魔物の様子を伺った。すると、かすかな声が聞こえた。

「……ま、こ……ぐ……で……」

 魔物の言葉はわからない。助けを求めているのか、神に祈りでも捧げているのか。

 いや、意味のある言葉なはずがない。この魔物にそんな知能はないだろう。

 ……本当に?

「助手君、そろそろ時間だ」

 考えを巡らせているうちに、エルドリスの声が響いた。

 僕はヴァルドルを一瞥し、調理台へと戻る。

 生放送の時間が迫っている。今日もまた、お届けしなければ。

 "極上のエンターテインメント"を。

  ◆

「皆さま、こんにちは。『30分クッキング』です」

 カメラに向かって、いつもの挨拶をする。

「本日は、フルコースの第三弾。ヴァルドルの肝臓を使ったポタージュを作ります」

「ヴァルドルの肝臓は、鉄分と脂肪が豊富で、クリーミーな味わいが特徴だ。燻製にすることで、濃厚な旨味が際立つ」

 エルドリスは説明しながら、檻の扉を開いた。僕は彼女に言われる前にヴァルドルの鎖を引き、昨日と同じように蹲《うずくま》った態勢にさせる。

 彼女の靴底が魔物の横っ腹を蹴りやり、まるで猫でも転がすかのように、全長四メートルの魔物の体を仰向けにした。

「では、開いていく」

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