「わっ……すごいっ! なにこれ~♪ いい匂いになってるっ!」
ミーシャは、自分の体をくるくると見回しながら、目を輝かせた。髪の毛はさらさらと揺れ、耳の先まで嬉しそうにぴくぴくと動いている。その表情の変化はまるで猫のように愛らしく、見ていて飽きることがなかった。
「そういえば、まだ名前を聞いてなかったな。俺はユウヤ」
ユウヤは、改めて自己紹介をした。ミーシャは一瞬きょとんとした後、ふわりと笑って答える。
「わたしは、ミーシャだよ。えっと……ユウちゃん?」
少し照れたように、けれど嬉しそうに名前を口にする。その頬はほんのりと赤く染まり、耳もぴくりと揺れた。
「うん。よろしくな、ミーシャ」
「うん♪ よろしくぅ~、ユウちゃん♪」
ミーシャは、満面の笑みでユウヤに返事をした。その笑顔は、まるで長い冬の終わりに咲いた一輪の花のように、あたたかく、まぶしかった。
「夜も遅いし、そろそろ寝ないとな。ミーシャの部屋って、どこなんだ?」
ユウヤがそう尋ねると、ミーシャはぱっと顔を輝かせ、嬉しそうにユウヤの手をぎゅっと握った。
「こっち、こっちぃ~♪ ユウちゃん、ついてきて~♪」
まるで宝物を見せるかのように、ミーシャは軽やかな足取りで家の中を案内してくれた。手を引かれるままに進んだ先には、ふんわりとした雰囲気の、いかにも女の子らしい可愛らしい部屋があった。淡い色合いのカーテンに、ぬいぐるみが並ぶ棚。ベッドも整っていて、すぐにでも眠れそうな状態だった。
ユウヤは念のため、洗浄魔法で部屋全体を清めておいた。埃や放置されていた時の臭いを取り除き、空気まで澄んだように感じられる。
「綺麗にしておいたから、そのまま寝られると思うぞ」
そう声をかけると、ミーシャは嬉しそうにベッドに飛び込み、ふかふかの布団に顔をうずめた。そして、幸せそうな表情のまま、ユウヤを見上げて尋ねた。
「ありがと。ユウちゃんは、どこで寝るの?」
(え? どこでって……どこで寝ればいいんだ?)
ユウヤは一瞬、言葉に詰まった。正直、ベッドで寝られればありがたい。けれど、ここはミーシャの両親の家だった場所だ。勝手に寝室を使うのは気が引けるし、ミーシャだって嫌かもしれない。
(とりあえずはソファーでもいいか……。寝られればどこでもいいし)
ユウヤは、少し困ったように眉をひそめながら尋ねた。
「俺は……どこで寝ればいいんだ?」
するとミーシャは、まるで当然のことのように首を傾げて答えた。
「えっと……それはユウちゃんの家なんだから、好きなところで寝ていいよ~。わたしと一緒に寝るー? いいよ。ほらぁ~♪」
そう言って、ミーシャは自分のベッドをぽんぽんと叩いた。銀色の髪がふわりと揺れ、月明かりを受けてきらきらと輝く。透き通るような青い瞳がまっすぐにユウヤを見つめてきて、思わずドキリとした。
布団をめくって、まるで「入ってきて」と言わんばかりにアピールしてくる。
(いやいや……それはさすがに……)
「いや。俺は……ベッドがある部屋を勝手に見つけて寝るよ」
ユウヤは、思わず早口でそう答えてしまった。ミーシャは特に気にした様子もなく、にこりと笑って頷いた。
「そっか……おやすみなさいっ♪」
「おやすみ~」
ユウヤはミーシャの部屋をそっと後にし、リビングのソファに腰を下ろした。ふぅ、とひと息つきながら、今日一日の出来事を思い返す。
(……なんか、すごい一日だったな)
気づけば、考え事をしていたはずが、まぶたが重くなり、そのままソファの上で静かに眠りに落ちていた。
♢新しい朝と料理の才能翌日……
「ユウちゃん……起きて~! 朝だよ~、ユウちゃんっ!」
聞き慣れない、けれどどこか心地よい可愛らしい声が耳元に届いた。ユウヤは、まだ夢の中にいるような感覚で、ぼんやりと目を開ける。
(あれ……? ここは……? ん? 誰だ……? うわぁ……可愛い……ネコ耳だ……)
目の前には、銀髪のネコ耳少女――ミーシャが、にこにこと覗き込んでいた。
「うわ……あぁ、ミーシャか……」
ユウヤは、ようやく現実に意識が戻り、状況を理解した。
「わぁっ、びっくりさせないでよぉ~。ソファーで寝たんだ? ベッドで寝ないとダメだよっ」
ミーシャは、少し呆れたように言いながらも、その表情はどこか心配そうだった。可愛らしい眉が、ほんの少し下がっている。
「そういうミーシャは、昨日の夜は外で寝ようとしてたっぽいけどな?」
ユウヤが軽くからかうように言うと、ミーシャは「うぅ……」と小さく唸りながら目を逸らした。ネコ耳がぴくりと動き、気まずさを物語っている。
(えっと……まだ7時か。朝食でも作るか)
ユウヤは立ち上がり、軽く伸びをした。眠気はまだ残っていたが、ミーシャの笑顔を見ていると、不思議と体が動いた。
(とはいえ、俺が作れるのは……肉を塩コショウで焼くくらいか。あとはパンと、昨日の残りのスープ……うん、十分豪華だろ)
そう思いながら、ユウヤはキッチンへ向かい、朝食の準備を始めた。フライパンに火を入れ、じゅうっと肉の焼ける音が響く。香ばしい匂いが、ゆっくりと部屋に広がっていった。
そう言うなり、勢いよくユウヤの隣に座り、さらにそのまま膝の上に頭を乗せて寝転がってきた。小さな体が、まるでそこが定位置かのように心地よさそうにフィットする。「昨日は睨んできてたのに、今日は甘えてくるんだなー?」 ユウヤが少しからかうように言うと、ミーシャはむぅっと頬を膨らませた。口を尖らせて、不満げな表情を浮かべる。「だってー……知らない人が、勝手にわたしの家に入ってたんだもんっ」 その言葉に、ユウヤはふと表情を和らげた。(……そりゃそうだよな。両親を亡くして、家を追い出されて……大切な思い出の家に場所に、知らない奴がいたら、そりゃ不快な思いもするよな) ユウヤは、ミーシャの気持ちを改めて理解した。彼女の中にある寂しさや不安が、少しずつ言葉になって現れてきているのだと。「……ごめんな。驚かせたよな」 ぽつりとそう言うと、ミーシャは小さく首を振った。「ううん。今は……ユウちゃんがいて、よかったって思ってるよ」 その声は、どこかくすぐったくなるような優しさを含んでいた。「そりゃ……睨みたくもなるよな」 ユウヤが優しく言葉をかけると、ミーシャは少しだけ視線を逸らし、照れたように笑った。ネコ耳がぴくりと動き、ほんのりと赤く染まっているのがわかる。「ごめんね~? でも……ユウちゃんなら、住んでもいいよー」 その言葉は、まるで許しと歓迎を一緒に包んだような、柔らかい響きだった。「そっか……じゃあ、一緒に住もうな」 ユウヤが微笑みながらそう返すと、ミーシャの顔がぱっと明るくなった。「うんっ♪ 一緒に住むぅー♪」 ミーシャは嬉しそうに笑いながら、ユウヤの膝の上でくるりと体を丸めた。まるで、ようやく安心できる場所を見つけた子猫のように。 その小さな背中を見つ
「わぁ~! 美味しそう~! お肉~♪ お肉~♪」 ミーシャは、焼き上がる肉を見て目を輝かせた。湯気の立ち上るフライパンを覗き込みながら、尻尾をふわふわと揺らしている。その瞳は、まるで星が宿ったようにキラキラと光っていた。「味は……あんまり期待すんなよー」 ユウヤは、少し照れくさそうに肩をすくめながら言った。料理には自信があるわけじゃない。ただ、できる範囲で精一杯やっただけだ。「ん? 美味しいよー♪ ユウちゃん、料理もできるんだ~! すごーい!」 ミーシャは、焼きたての肉を一口頬張ると、満面の笑みでユウヤを見上げた。口元には肉汁がほんのり光り、幸せそうに尻尾をぱたぱたと揺らしている。 その姿を見て、ユウヤの胸の奥がじんわりと温かくなった。自信のなかった料理を、こんなにも嬉しそうに食べてくれるなんて。(おおぉ……俺、意外とやるじゃん。これ……普通に美味いぞ? もしかして、料理の才能あったりして?) そんなことを思いながら、ユウヤは思わず頬を緩めた。ミーシャの言葉が、素直に嬉しかった。「ふふっ、ありがとな」 照れ隠しのように笑いながら、ユウヤはミーシャの皿にもう一切れ肉を乗せた。♢ミーシャとの絆と新たな日常(えっと……臭いはなくなったけど、服がな……) ユウヤは、ミーシャの身なりに目をやった。彼女が着ているのは、くたびれたワンピース。ところどころ破れていて、布地も薄くなっている。肩口や裾には小さな穴が空いていて、見る人によっては妙に刺激的に映るかもしれない。(ボロボロのワンピースじゃ、かわいそうだよな……。昼にこっそり村に戻って、服を買ってくるか。ついでに家にも顔を出して、「しばらく戻れない」って伝えておかないとな) そんなことを考えながら、ユウヤはミーシャに声をかけた。「ミーシャ、今日の予定は?」 ミーシャは首を傾げ、ネ
「わっ……すごいっ! なにこれ~♪ いい匂いになってるっ!」 ミーシャは、自分の体をくるくると見回しながら、目を輝かせた。髪の毛はさらさらと揺れ、耳の先まで嬉しそうにぴくぴくと動いている。その表情の変化はまるで猫のように愛らしく、見ていて飽きることがなかった。「そういえば、まだ名前を聞いてなかったな。俺はユウヤ」 ユウヤは、改めて自己紹介をした。ミーシャは一瞬きょとんとした後、ふわりと笑って答える。「わたしは、ミーシャだよ。えっと……ユウちゃん?」 少し照れたように、けれど嬉しそうに名前を口にする。その頬はほんのりと赤く染まり、耳もぴくりと揺れた。「うん。よろしくな、ミーシャ」「うん♪ よろしくぅ~、ユウちゃん♪」 ミーシャは、満面の笑みでユウヤに返事をした。その笑顔は、まるで長い冬の終わりに咲いた一輪の花のように、あたたかく、まぶしかった。「夜も遅いし、そろそろ寝ないとな。ミーシャの部屋って、どこなんだ?」 ユウヤがそう尋ねると、ミーシャはぱっと顔を輝かせ、嬉しそうにユウヤの手をぎゅっと握った。「こっち、こっちぃ~♪ ユウちゃん、ついてきて~♪」 まるで宝物を見せるかのように、ミーシャは軽やかな足取りで家の中を案内してくれた。手を引かれるままに進んだ先には、ふんわりとした雰囲気の、いかにも女の子らしい可愛らしい部屋があった。淡い色合いのカーテンに、ぬいぐるみが並ぶ棚。ベッドも整っていて、すぐにでも眠れそうな状態だった。 ユウヤは念のため、洗浄魔法で部屋全体を清めておいた。埃や放置されていた時の臭いを取り除き、空気まで澄んだように感じられる。「綺麗にしておいたから、そのまま寝られると思うぞ」 そう声をかけると、ミーシャは嬉しそうにベッドに飛び込み、ふかふかの布団に顔をうずめた。そして、幸せそうな表情のまま、ユウヤを見上げて尋ねた。「ありがと。ユウちゃんは、どこで寝るの?」(え? どこでって……どこで寝ればいいん
「お前、普段の飯ってどうしてるんだ?」 何気ない口調で尋ねると、少女の表情がわずかに曇った。箸を持つ手が止まり、視線が皿の上に落ちる。「ん……? えっとぉ……今の家、居づらくて……逃げてきた。夜は、食べてない……」「そっか~」 ユウヤは、それ以上詮索することなく、静かに頷いた。少女の言葉に、どこか胸が締めつけられる。「……家に戻れとか、言わないの?」 少女がぽつりと尋ねた。ユウヤの反応が意外だったのか、少し訝しげな目を向けてくる。「居づらいなら、仕方ないだろ~? 無理して戻っても、ツラいだけだろ?」 いきなり家族を失って、知らない家に放り込まれたら、誰だって戸惑うだろう。ユウヤは、少女の気持ちを思いやった。「お前って、料理はできるのか?」 話題を変えるように尋ねると、少女は小さく首を振った。俯いた耳が、しょんぼりと垂れている。「うぅ……できない……」「掃除は?」「むぅ……やったことない……」「洗濯は?」「はぅぅ……できない……ごめんなさいぃ……」 少女は、できることが何もないことに気づき、申し訳なさそうに肩をすぼめた。その声は、今にも消えてしまいそうにか細い。 ユウヤは、そんな彼女の姿を見て、ふっと笑った。「じゃあ、これから覚えればいいじゃん。ゆっくりでいいからさ」 少女の目が、ぱちりと瞬いた。驚きと、ほんの少しの安堵が、その瞳に浮かんでいた。「は? あ、別にできなくてもいいんだけどさ。なんで謝るんだ?」 ユウヤは、少女の反応に首をかしげた。責めるつもりなんてまったくなかった。ただ、純粋な疑問だった。
熱いものは熱いまま、冷たいものは冷たいまま。 肉や野菜も傷まず新鮮なまま保てる――まさに万能の保管庫だ。「ついでに、ちゃんと冷やす機能も欲しいよな……」 すぐ隣に、同じような木箱をもう一つ用意。 魔石に〈フロスト〉の魔法を付与して、“冷蔵庫”としての機能を持たせた。 これで保存環境は格段に向上した。 暑い日の冷たい飲み物から、作り置きのスープまで―― どれも快適に保管できる。「んふふ……快適生活ができるな。アリア、驚くだろうな……?」 アリアの驚いた顔を想像すると、自然と笑みがこぼれる。 ふたりの暮らしが、またひとつ豊かになっていく。「……でも、だいぶやり過ぎた感があるな。まっいっか、アリアと暮らすだけの家だしな。他の奴は、ここには入ってこれないんだし……」 前世での暮らしにはまだ遠いかもしれない。 けれど――この異世界で、ここまで快適な生活環境を整えられたことは、 確かな誇りでもあった。 ♢ミーシャとの共同生活 アリアが作ってくれた料理を、異空間収納から取り出し、盛りつけていたときだった。 ――外で、「ガタッ」と何かが揺れる音がした。 不審に思って扉を開けると、そこには銀髪のネコ耳を持つ少女がいた。 玄関近くの壁にもたれかかり、座ったままウトウトしていたらしい。 こちらに気づくと、少女は一瞬気まずそうな表情を浮かべ、それをすぐにムスッとした顔に切り替えた。「そんなところにいないで、家に入るか?」 ユウヤが優しく声をかけると、少女はプイッとそっぽを向いた。「ふんっ」 でも完全に拒絶しているわけじゃない。 時おりチラッチラッと俺の様子をうかがっているし、昼間のように逃げる素振りもない。 ……ってことは、誘ってほしいってことか? ユウヤは、その不器用な態度からそう察した。「はぁ…&
ユウヤは、アリアの頭を優しく撫でた。「う、うん……。約束ね!」 アリアは、満面の笑顔で頷いた。その笑顔は、寂しさを吹き飛ばすように明るい。 転移でアリアの家の前まで送り、アリアが家に入ったのを確認してから転移で自分の新しい家へと帰宅した。帰宅すると、改めて自分の家だと実感してきた。 大きい家に一人いるとドキドキ、ワクワクしてくる……これって、俺の家なんだよな、スゲェ。何をしてても怒られないし、邪魔もされないぞ……最高じゃん。♢新たな魔道具の創造 ちょっとした趣味で、最近は魔石を使った魔道具づくりにハマっている。 ……とはいえ、家ではなかなか自由にできなかった。 スキルのことが親にバレたら面倒なことになりそうで、いつも気を遣いながらこっそり作業していたからだ。 でも今は、もうそんな必要もない。 この拠点なら――誰に遠慮することもなく、堂々と趣味を楽しめる。 そう思うと、なんだか心がふわっと弾んでくる。 さっそく、拠点のキッチンにあるカマドを改造することにした。 まずは――カマドの内部を丁寧に洗浄。 それから、内側に魔石を一つはめ込み、《ファイア》の魔法を付与する。 これで、カマド自体をオーブンとして使えるようになった。 次に、カマドの上部にさらに魔石をセット。 今度は、前世の記憶にある“コンロ”をイメージしながら、魔石に《ファイア》を再度付与。 火力をレバーで調整できるよう細工を施す。 ――これで、薪を拾う手間も、割る手間も、火を点ける手間もまるごと解消された。 薪の保管スペースすら不要になったのは、大きな進歩だ。 あとは……そう、水まわりだよな。 薪の次に手間なのは、やっぱり水の確保と管理だ。 どうするか考えながら、部屋の中をぶらぶらと歩いていると、ふと良い案が思い浮かんだ。 外に出て、まずはブロック製の大型タンクを設置。 その中に魔石を埋め込み、《ウォーター》と《防汚》の魔法を付