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第3話

Autor: 雪中の手紙
「ええ、一向に構わないわ!」京奈は千輝を鋭く睨みつけ、冷ややかな声で言い放った。「たとえ婚約破棄になったとしても、今回の個展は私のものよ。あなたが勝手に誰かへ譲る筋合いなんてない!」

怒りが頂点に達したのか、千輝はふんと鼻で笑った。そして心臓がすくむほどの凄まじい音を立ててドアを叩き閉め、そのまま立ち去ってしまった。

京奈は胸元をきつく押さえ、荒い息を吐き出した。瞳の奥に限界まで溜まった涙が、今にもこぼれ落ちそうになる。「千輝、約束を忘れたのはあなたの方じゃない……」

かつて交わした甘い誓いの数々が、今は鋭い刃となって彼女の心を容赦なく切り刻んでいた。

スマートフォンの画面には、かつての2人のツーショット写真が映し出されていた。昔の千輝は、高熱を出していても彼女の我が儘に付き合って一日中遊び回ってくれたし、彼女のために一面の薔薇畑を作り、どんな時でも無条件で彼女の味方をしてくれた。

それなのに今は、他人のために彼女を傷つけ、幾度となく諍いを繰り返している。

「千輝……もう、あなたのことはいらないわ」彼女は乱暴に涙を拭うと、決然とした足取りで会社を後にし、個展の会場へと直行した。

会場に足を踏み入れるや否や、満面の笑みを浮かべた彩緒が近寄ってきた。「京奈さん、来てくれたんだね!」

京奈は眉根を寄せ、警戒心を露わにして問い詰めた。「どうしてあなたがここにいるの?」

彩緒は手にした会場の譲渡契約書をひらひらと見せつけ、甘ったるい声で笑った。「京奈さん、千輝さんがこの会場、もう私に譲ってくれたんだよ!もしかして、何も聞いてないの?」

その言葉に、京奈の心臓がどくりと大きく跳ねた。彼女は契約書をひったくるように奪い取る。末尾に書かれた千輝のサインが、残酷なほど鮮明に目に飛び込んできた。まるで重いハンマーで心臓を打ち据えられたかのような激痛が走り、そのあまりの痛さに指先が微かに震えた。

「京奈さん、これでやっと信じる気になった?」彩緒は嘲るように口角を上げ、挑発的な視線を向けてきた。

京奈は必死に冷静さを保ち、爪が食い込むほど強く拳を握りしめた。「社印すら押されていないわ。こんなの無効よ」

彩緒はふんと鼻で笑い、1枚の招待状を差し出してきた。「当日、偉大なデザイナーである京奈さんには、絶対に参加してよね!」

京奈は冷ややかな目を向けた。「あなたのその作品がどうやって作られたか、私が知らないとでも思っているの?」

彩緒は一瞬慌てたように後ずさりしたが、その拍子に彼女の首元から赤い薔薇のネックレスが覗いた。それは、京奈が留学する前に、千輝へ自ら手渡したはずのプレゼントだった。

「そのネックレス……どうしてそれを持っているの?」京奈の声が激しく震えた。

「千輝さんが私にくれたんだよ!」彩緒は見せびらかすように言い放ち、その瞳には優越感が満ち溢れていた。

怒りで頭が真っ白になった京奈は、手を伸ばしてそのネックレスを力任せに奪い取った。彩緒が悲鳴を上げる。「きゃあっ――痛い!千輝さん!」

千輝が猛スピードで駆け寄ってくる。京奈は躊躇うことなく、奪ったネックレスのチェーンを完全に引きちぎった。千輝の怒声が響き渡る。「京奈、一体何をしているんだ?」

京奈が口を開くよりも早く、千輝は彩緒を背後に庇うように立ちはだかった。「俺たちはもう婚約しているんだぞ。どうしてそうやって彩緒にきつく当たるんだ?だいたい、たかがネックレス1つじゃないか」

京奈は引きちぎれたネックレスを握りしめ、涙で視界を滲ませた。「たかがネックレス1つですって……?」18歳だった千輝は、これを一生身につけると約束してくれた。だが25歳になった彼は、そんな誓いなどとうの昔に忘れてしまった。

千輝は彩緒をなだめると、薬を取りに背を向けてその場を離れた。千輝の姿が見えなくなった途端、彩緒はさっきまでのしおらしい表情を消し去り、嘲笑を浮かべた。「へえ、伝説の『初恋の人』も、大したことないんだね」

「ふん、ならあなたは何のつもり?その初恋の『身代わり』?」京奈は「身代わり」という言葉をことさら強調し、彩緒の分をわきまえさせた。

「それがどうしたっていうの?」彩緒はギリッと歯を食いしばった。「彼が今愛しているのは私よ!」

「彩緒、由美子さんがあなたみたいな人間を、彼のそばに置いておくと本気で思っているの?」京奈は冷ややかな声で、彩緒の浅はかな幻想を的確に打ち砕いた。

彩緒の顔色が一瞬にして青ざめる。京奈はこれ以上無駄口を叩く気にもなれず、きびすを返して立ち去ろうとした。

だがその時、彩緒が突然京奈の腕を強く掴み、陰険な笑みを浮かべて囁いた。「ねえ、もしあなたが私を階段から突き落としたところを、千輝さんが見たらどうなるかしら?」

京奈は驚愕に目を見開いた。反応する間すら与えられず、彩緒は自ら派手に階段の下へと転げ落ちていった。

次の瞬間、千輝の悲痛な叫び声が響き渡る。「彩緒!」

彼は階段を猛烈な勢いで駆け下りながら、焦燥と怒りに満ちた目で京奈を睨みつけた。まるで、彼女がすでに確定した大罪人であるかのように。

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