LOGIN橋本のセリフに耳を傾けながら、店でのやり取りを思い出す。言葉巧みに責められっぱなしな上に、自分との見た目の比較など、落ち込む要因しかなかった。それだけに、宮本は目から鱗が落ちた。「なるほど……」「今度店に顔を出したとき、胸を張って言ってやれ。『陽さんを抱いてます』ってな。腰抜かすかもしれねぇぞ!」「ついでに、陽さんの腰を抜かしてあげたいんですけど」 とても小さな声でのおねだりだったが密閉空間ゆえに、橋本の耳にしっかりと聞こえてしまった。「何を言ってやがる……」「見てわかるでしょ。俺の――」 言いながら自身の下半身に指を差す宮本の姿に、橋本はギョッとして顎を引いた。「今夜は陽さんがやめろって言っても、めちゃくちゃにしちゃうかもしれません」「俺、明日も仕事なんだぞ。ちょっとくらいは手加減してくれ」 濡れた髪をかき上げて立ち上がり、そっぽを向く。頬だけじゃなく耳まで赤くなっている様子に、宮本の笑みが隠しきれなくなった。声を立てて笑うと、浴室に反響しまくる。「雅輝……」「やっぱり陽さんには敵わないな。沈んでいた俺の心を、一瞬で持ち上げるんだから」 宮本は勢い良く立ち上がって、橋本に抱きついた。強く抱きしめたはずじゃなかったのに、喘ぎ声に似た声が口から漏れ聞こえる。「まずは陽さんが感じやすい、バックからしたいんだけど」 耳元で甘やかに囁かれた言葉に、橋本は黙ったまま頷いた。 峠のコーナーを容赦なく攻めるような無茶ぶりはしなかったものの、熱の入った宮本の行為に、橋本はなすすべがなかったのだった。
浴室に宮本の断言する声が響いた。「雅輝、ホントおまえってばバカだな」「バカなのはわかってる。陽さんが江藤ちんと逢ったときの気持ちが、野木沢さんに逢ってやっとわかったくらいだし」 宮本はしゅんとして、なぜかその場に正座をした。「ごめんね、陽さん」「なにがだよ?」 正座をした宮本の前にしゃがみ込み、顔を覗き込む。橋本の視線を受けて、目の前にある顔が慌てふためいた。「陽さんってば、そんな色っぽい顔を近づけないでくださいよ。理性をきちんと押し留める、俺の気持ちも考えてください」「もっと雅輝の気持ちを教えてくれ。野木沢に俺と関係があったって聞いたとき、どんな気持ちになったんだ?」 顔を近づけるなと注意されたばかりだというのに、橋本はわざと顔を近づけた。宮本は大好きな恋人の顔をまじまじと見つめながら、ごくりと喉を鳴らす。「雅輝、ほら吐いちまえって」「あ、えっと……、野木沢さんは陽さんの好みなんだなって。俺と違ってイケメンだし、漂ってる雰囲気が上品な感じで、俺と違いすぎると思ったら、自然と落ち込んじゃった。陽さんの相手が不細工な俺でいいのかと」「俺も思った。江藤ちんみたいなイケメンじゃねぇし」「そんなことないっ! 陽さんは俺にはもったいないくらいの、すっごくいい男です」「ハハッ、ありがとな。そんでもってその言葉、そのまま返してやるよ」 言いながら宮本の頬を、橋本は両手で包み込んだ。「おまえの持つ純真無垢な心は、見た目のいい野木沢が持ってない、すげぇものなんだぞ。雅輝は俺にとって、もったいないくらいのいい男さ」「陽さん……」 太い眉をへの字にして、あからさまにしょんぼりしている宮本に、橋本は触れるだけのキスをした。「おまえ野木沢に、俺を抱いてること言ってないだろ?」「そんなこと言う雰囲気じゃなかったです」「それなら好都合だ」「好都合?」 宮本は橋本に顔を掴まれたまま、わけがわからず首を傾げる。そんな不思議顔をしている恋人を、優しいまなざしで見つめた。「アイツは、おまえが俺に抱かれてると思ってる。つまり同じネコだと思って、今回ケンカをふっかけてきたということさ」
*** 仕事で汗をかいたから、先にシャワーを浴びたいと言ったというのに、待ちきれなかったのか、浴室に乱入してきた宮本。 躰を洗っている最中の橋本はギョッとして、扉を開けた宮本をガン見するのがやっとだった。欲情に満ちたまなざしを注がれるだけで、同じ気分に陥る。「雅輝……うっ」 橋本のつぶやきを封じる口づけは、一気にボルテージをあげる。 修行僧のようにシャワーを受け続ける宮本をなんとかせねばと、必死にコックを捻って止めたが、髪から滴る水もお構いなしに、首筋へと顔を移動させる。「んっ!」 ぐらついて背中を預けた先は鏡だったらしく、背中にひんやりした冷たさを感じた。「陽さん…陽さんっ」「ああっ、あっぁッ」 舌先を使って、執拗に胸の頂を責められる。以前はそんなに感じなかった行為だったが、最近はぞくぞくするような、なんとも言えない快感を覚え、あられもない声が出てしまった。「陽さんは俺の――」 胸を吸いながら宮本の空いた手が、後ろの秘部へと伸ばされる。なぞるように割れ目を伝い、そして――。「んうっ!」 滴る水滴に導かれて、指が1本挿れられたのがわかった。 解しやすいように尻を突き出すと、宮本はしゃがみこんで橋本自身の先端を優しく咥え込む。「うっ、あっあっ…もっと」 もっと深く咥えてほしいのに、宮本はそれをせずに先端を弄ぶ。その間も後孔の入口は順調に解されていき、指の数が増やされていた。「雅輝、意地悪するなよ」「んっんっんっ、陽さんの美味しい」「もっと咥えろって、それじゃ物足りない」「だったら、俺の中に挿れる?」 意外な言葉に、橋本の快感がどこかに飛んでしまった。「な、なにを言って……。どうして」「俺のこと、抱きたいって思わないの?」 何度も瞬きする橋本を、宮本は下から仰ぎ見た。視線を逸らさずに、まっすぐ見つめられるせいで、橋本の緊張感が自然と増していく。「雅輝を抱くなんて、考えたこと――」「付き合う前に、俺を襲ったでしょ。今は抱きたいと思えないんだ」「おまえ、野木沢に嫉妬してるだろ」「してる、すっごくしてる。今すぐ陽さんに抱かれたいくらいに!」
*** スラックスのポケットに手を突っ込んでマンションの鍵を探りつつ、仕事で疲れた躰を引きずりながら通りを歩いていると、その存在にすぐに気づくことができた。合鍵を渡しているのに、なぜだかマンション前で星を見上げている恋人を目の当たりにして、橋本は慌てて駆け寄る。「雅輝、どうした? 鍵を失くしたのか?」 橋本のかけた声に反応して振り向き、靴音を立てて駆け寄るなり、掻っ攫うように抱きつかれた。「おいおい。鍵を失くしたくらいで、俺は怒らないって。また作ればいいだろ」 骨が軋むくらいの強い抱擁に呆れながら宥めてみたものの、宮本は橋本の肩に顔を埋めて、一向に喋ろうとしない。「雅輝?」 昼間逢ったときとは一転した様子に、橋本はありえそうなことを考えてみる。思い当たるフシは、一つしかなかった。「おまえ野木沢と、なにかあったのか?」 野木沢というワードが出たタイミングで、宮本の躰がビクついた。「図星か、めんどくせぇな」「ごめんなさい、俺は」 放り出すように橋本から手を放した宮本は、俯いたまま後退りして距離をとる。それを引き留めるために橋本は手を伸ばして、宮本の右手を掴み寄せた。「違うって。めんどくせぇのは雅輝じゃない。野木沢のことさ」 通りに誰もいないのをいいことに、掴んだ右手をさらに引っ張り、近寄った宮本にキスをした。触れるだけで終わらせようとしたのに、橋本の後頭部を掴んだ宮本が、これでもかと深く口づける。「んうっ……」 橋本の甘い声を聞いて、宮本から唇を外した。「陽さん、俺ね、俺は」「俺は雅輝が好きだ」 宮本の言葉を遮った橋本のセリフに、宮本の瞳がゆらりと揺らめく。不安をかき消すような内容だったからか、目の前の顔から困惑の色が消えていった。「陽さんには敵わないな……」「伊達に年食ってるわけじゃねぇってことさ。とりあえず話は、家に帰ってからするか」 橋本は宮本の利き手を掴んで歩き出そうとした。それなのに、引っ張る力を無にするように立ち竦む。「雅輝、これ以上手をかけるなって」「話し合う前にそのぅ……、むぅ」「なんだ? 早く言えって」 ぐいぐい引っ張ったら、やっと歩き出した宮本。引きずられるように歩きながら、ぽつりと呟く。「陽さんとエッチがしたい……」 蚊の鳴くような小さな声に反比例して、橋本の頬がぶわっと赤く染まったのだった
「は?」 呆けたようにきょとんとした宮本は、口を半開きにしたまま、野木沢をまじまじと見つめる。「ずっと忘れられなかった。逢えなかった間も、いつもアイツを思い出してた。でもさっき逢ったら、諦めていた想いが再燃して……」「再燃、え…っとそれは、鎮火する見込みは――」 間の抜けた質問を投げかけていことがわかっていたが、問わずにはいられなかった。「嘘ですよ」「へっ?」「宮本様が大切にしてる橋本を、僕がとるなんてありえませんよ。脅かしてすみません」 丁寧に頭を下げて詫びる野木沢に、「そうですか、びっくりした」なんていう言葉と、のんきすぎる対応をする。短い間のやり取りだというのに、精神の疲労が半端なくて、今すぐにでも家に帰りたくなった。「橋本とまたご来店する日を、お待ちしております」 野木沢は頭をあげるなり、営業スマイルで宮本を見据える。自信満々の笑みを目の当たりにし、目を瞬かせながら取り繕うような笑顔を見せた。「はいぃっ、陽さんとそのうち顔を出しますね。失礼します!」 ぺこりとお辞儀をしてから、そそくさと逃げる感じで店をあとにした。 胸元をぎゅっと握りしめて、デコトラを停めてある駐車場に向かう。着ているシャツが、汗でじっとり湿っていた。(あの様子は野木沢さんが、冗談を言ってるように思えなかった。どうしよう、陽さんの好みっぽい彼が迫ったら、心変わりするかもしれない。だって俺は陽さんの好みと、かけ離れているから――) 心が押し潰されそうになりながらも、午後からの仕事をなんとかこなした。早く仕事を終わらせて、橋本が住むマンションに行くことを目標にしたお蔭で、いつも以上に手際よく仕事をこなせたのだった。
自分から遠慮せずになんでも言ってくれと告げた手前、答えにくいことを問いかけられても、返事をしなければならない状況に追い込まれて、宮本の頭の中がぶわっと混乱した。「よ、陽さんに取り入ってなんて、そんなんじゃなく……」「橋本は簡単に落とせる男じゃないことはわかってる。だから、橋本の好みとは離れてる君と付き合っているというのが、不思議でならなくてね」「えっと、なんていうか、粘り強く交渉したみたいな感じで。むぅ……」 後頭部をバリバリ掻きながら、どうやって説明したらいいか困惑する宮本に、野木沢は真顔のままサラリと告げる。「自分の躰を提供したとか?」「ひっ! そんな大胆なことは、俺にはできませんっ」「僕はしたよ。橋本に頼んで抱いてもらった」 突然のカミングアウトに、宮本の顔が凍りついた。 さっきまで考えていたことが粉々に砕け散り、見る間に真っ白になる。アホみたいに口をパクパクさせるのが精いっぱいで、まったく言葉にならなかった。「とはいえ学生時代のことだから、かなり前のことだけどね。橋本自身決まった相手がいない状態だったし、僕を抱くなんて簡単だったのかもしれないけど……」「野木沢さんは、陽さんのこと――」「好きだったよ。抱かれた当時は、すごく嬉しかった……」「そう、ですよね、やっぱり」 橋本がいなくなってから、野木沢の態度が豹変したことについて、一応納得した宮本だったが、今カレとしてどんな対応をしていいのかわからず、視線を右往左往させる。(陽さんが江藤ちんと対峙したあの日、そのときの陽さんの心情を慮れなかった俺って、すっごく最低だったかもしれない。過去のこととはいえ、こんなに妬けるなんて、思いもしなかった) 彫像のように硬い表情の宮本を見て、野木沢はいたわるようにそっと話しかける。「すみません。昔の話を持ち出して、宮本様の気分を害してしまって」「やっ、だっ、大丈夫です。陽さんがモテるのは、わかっていたことですし」 宮本は必死になって、たどたどしい口調でなんとか対応する。なんともいえない嫌な汗が、背中に流れるのを感じた。「お優しいんですね」 野木沢は相手が戸惑うような曖昧な笑みを浮かべて、宮本に向かって微笑む。「それほどでも……」 妙な笑みを目の当たりにして、自分も愛想笑いをすべきか悩んだときだった。「その優しさに、甘えてしまい
笹川に太刀打ちできないことくらい嫌というほど分かっていたが、手を出さずにはいられなかった。 顔面に向かって、ジャブの連続を浴びせる。しかし打ち込んだすべての拳を易々と受け止められた挙句に、疎かになっていた足元を掬われ、前のめりの状態で派手にすっ転んだ。「陽さんっ!」 しかも土下座に似た形で転んだため、目の前の無様な姿をどんな気持ちで宮本が見ているだろうか。そのことを考えただけで、悔しくてならなかった。(ちくしょう、俺は好きな男すら守れないのか――) 下唇を噛みしめながら起き上がろうとした瞬間に、笹川の足が横っ面を踏みつけて、橋本を動けないように固定する。「やめてください。貴方の
ワンエイティが横付けされたのをきっかけに橋本が助手席から降りると、バトル後でぼんやりしていた俺も、慌てて運転席から降り立った。「まーくん、お待たせ♡」 泣き真似した女が宮本に抱きつこうとしたので、橋本は無言のまま女の襟首を掴んで、素早くそれを引き留めた。「おじさんってば、ちょっとくらいいいじゃない。私の完敗だったんだし、まーくんに慰められたいんだってば」「余計な刺激を与えるな。バトルしたあとで、雅輝は疲れてるんだから」「とかなんとか言っちゃって。本当は恋人のまーくんに、触れられたくないだけでしょ?」 女が告げたセリフに橋本はたじろぎ、掴んでいた襟首から手を放すと、すかさず腕を掴
「エッチな俺は嫌?」「俺は男だ、そんな対象じゃないだろ」 俺が喚くと、加賀屋は顔の前にある両手を力ずくで外した。まっすぐ注がれるまなざしに、うっと言葉を飲む。「そんなの関係ない。だって笹良だから」「でも……」「笹良の全部を、俺のものにしたい」「うぁ、そんな、の」「このまま強引にしようと思えば、スムーズにコトを進められる。だけどそれをしたくない俺の気持ち、わかってくれよ」「加賀屋……」「俺のこと、気になってるんだろ?」「ぅ、うん」 加賀屋に導かれるように、すんなりと答えてしまった。それは嘘偽りのない気持ちだったので、あっさり告げることができたのだが――。「気になる俺に触
***(ああもう笹良のヤツ、めちゃくちゃ可愛かったな――)「ううっ、もぅ嫌だ……」 ふたり並んだベッドの上で、笹良は俺に背を向けたまま、他にもブツブツ文句を言い続ける。それに耳を傾けながら、優しく話しかけた。「気にすることないって。俺しか知らないことだろ」「気にするに決まってるだろ! 普段はこんなに早くないんだからな!!」 勢いよく起き上がりながら喚き散らした笹良の顔は、見たことのないくらいに赤く染まっていた。耳朶まで赤くなっていることに吹き出しそうになりつつ、にっこり微笑みながら口を開く。「実際俺もイキそうだったし。ずげぇ気持ちよかったよな!」「嘘つくなよ……。加賀屋のと俺