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第27章:追跡の果てに2

Author: 相沢蒼依
last update publish date: 2026-10-22 07:17:00

加藤の追跡を断念して自宅に帰り、自室に引きこもった。机の上に並んだノートとペン、そしてスマホ。窓の外はすっかり夜になっている。時計の針は十一時を回っていたが、眠気は一切ない。

加藤と喋っていた身に覚えのない男の横顔が、何度も浮かんでは消える。

(あれは……どこかで見たのだろうか?)

目をつぶって、記憶の引き出しをひとつずつ開ける。文化祭の人混み、部活動の合同会議、駅前のバス停――断片はどれも繋がらず、焦燥だけが否応なしに募っていく。

俺はノートの左端に「条件」を書き出した。

・背が高い(加藤と同じか、少し上)

・白いシャツ、癖のない立ち姿

・左手人差し指に細いリング(光の反射で見えた)

・加藤と自然に会話 → 初対面ではない

・奏の名前を口にしていた

右側には「候補」を列挙する。まず、生徒会関係者。だが条件に合う者はいない。次に、奏や加藤と関わりのあった他学年。数人該当したが、リングの条件で外れる。

(やはり……有朋学園の外になるか)

そう仮定を立てながら、スマホでSNSを開く。加藤のフォロー欄を遡り、顔写真や集合写真を一枚ずつ丁寧に確認していく。表情や
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    *** 氷室から「しばらく距離を置く」と言われてから、気づけば数日が立っていた。その間、本当に距離を置かれている。 教室で目が合うこともなければ、廊下ですれ違っても声をかけられない。連絡だって、必要最低限の短文だけ。氷室は本気で、俺を作戦の外に置いている状態を貫いた。 理由はわかっている。それは危険だから――そう言われれば、頷くしかない。でも、本当にそれだけなのか。俺が足を引っ張ると思われたからじゃないか。そんな考えが、ふとした瞬間に胸を締めつける。(……本当に、このままでいいのかな) 昼休みも放課後も、やるべきことが見つからない。机に向かっても、ノートの文字は頭に入らない。なにもしないまま時間だけが刻々と過ぎて、氷室が今現在なにをしているのかもわからない。 彼が無茶をしていないか――そう考えると、胸の奥がじわじわと熱くなる。けれど連絡を入れたら、それこそ作戦の邪魔になるかもしれない。 結局、俺はなにもできずにスマホを握りしめるだけだった。(やっぱり俺、またなにもしてない――) そんな自分が、情けなくて仕方がなかった。氷室の隣に立つ資格が、どんどん遠のいていく気がして。 放課後の昇降口から見える窓の外では、今日も夕陽が傾いていく。オレンジ色の光は温かいはずなのに、今の俺にはただ、遠くて触れられない色に見えた。 薄暗い中、自宅まであと少しというそのとき、ポケットのスマホが震えた。画面に浮かんだ通知――それは知らない番号からのメッセージだった。『……君は一人か?』 それを目にした瞬間、背筋がぞわっとした。その短い文字列のあと、数秒だけ入力中の「……」が表示された。次の言葉が来るのを待つだけで、背中を氷柱でなぞられるように冷える。(誰が送ってきてるんだろう? なんで俺を知っている?) 氷室には言われている。「危険だから、距離を置け」と。けれど、危険のほうから俺に近づいてくるなら――。 握りしめたスマホが、手のひらで熱を帯びる。深呼吸を繰り返して落ち着きながら、見知らぬ番号から届いたメッセージを何度も見返す。『……君は一人か?』その短い文字列が、喉を締めつけるように重かった。(……どうする。俺ひとりで……? いや、これは――氷室に知らせるべき問題になる) 迷っている時間はなかった。俺は震える指でスクリーンショットを撮り、そのまま氷室に

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    加藤の追跡を断念して自宅に帰り、自室に引きこもった。机の上に並んだノートとペン、そしてスマホ。窓の外はすっかり夜になっている。時計の針は十一時を回っていたが、眠気は一切ない。 加藤と喋っていた身に覚えのない男の横顔が、何度も浮かんでは消える。(あれは……どこかで見たのだろうか?) 目をつぶって、記憶の引き出しをひとつずつ開ける。文化祭の人混み、部活動の合同会議、駅前のバス停――断片はどれも繋がらず、焦燥だけが否応なしに募っていく。 俺はノートの左端に「条件」を書き出した。 ・背が高い(加藤と同じか、少し上) ・白いシャツ、癖のない立ち姿 ・左手人差し指に細いリング(光の反射で見えた) ・加藤と自然に会話 → 初対面ではない ・奏の名前を口にしていた 右側には「候補」を列挙する。まず、生徒会関係者。だが条件に合う者はいない。次に、奏や加藤と関わりのあった他学年。数人該当したが、リングの条件で外れる。(やはり……有朋学園の外になるか) そう仮定を立てながら、スマホでSNSを開く。加藤のフォロー欄を遡り、顔写真や集合写真を一枚ずつ丁寧に確認していく。表情や服装は違っても、立ち姿や手の癖までは隠せない。 五十件ほど流したところで、心臓が一瞬跳ねた。海辺で撮られた集合写真。中央に立つ背の高い人物――その左手人差し指に、あの細いリングが嵌められている。(……いた!) 名前はハンドルネームだけ。タグには「K」とある。ノートに大きく「K」と記し、赤丸で囲んだ。今日見た輪郭と、写真の姿がピッタリ重なる。もう疑う余地はない。(こいつが――“裏”だ) それでも、声に出すのを躊躇った。今ここで奏に知らせるべきか。だが、根拠はまだ薄い。間違いなく危険を伴うせいで、奏を巻き込みたくはない。 その逡巡が、胸の奥に重く沈んでいった。 窓の外で、犬の鳴き声が遠くに響いた。それを合図のように、ノートを閉じる。(明日からの動きは、この“K”を中心に回る。……必ず、奏の周りから引きはがす) 部屋の明かりを落とした瞬間、机の上のスマホが点滅した。通知のアイコンは、すぐに消える。(誰かに……見られているのか?) 咄嗟に思いついただけで、胸の奥に冷たいざわめきが広がった。暗闇の中で、赤丸で囲まれた“K”だけが、不気味に光って見えた。*** 翌日の放課

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    図書室を出る加藤と奏の背を、少し距離を取って追った。 奏が振り返る素振りはない。きっと今も、加藤との会話を装いながら、警戒を解いてはいないはずだ。 校舎を抜け、夕焼けに染まった渡り廊下を通る。あのあと奏と分かれた加藤は一定の速さで歩き、決して急がない。だが時折、ポケットの中で指を僅かに動かす――図書室でも見た、あの癖だった。(通信か……それとも無意識の合図か) 加藤はそのままグラウンド脇を抜けると、人気の少ない裏門へ向かった。部活帰りの生徒がちらほら通る程度で、視線を逸らしていればヤツは目立たない存在になる。 適度な距離をとって尾行しているが、加藤は一切振り返らない。尾行を警戒している様子も見せない。 裏門から出て、住宅街の細い路地に入る。通学路から外れたこの道は、夕方でも人通りが少ない。 ――こういう道を選んだのは、偶然ではないだろう。 俺は曲がり角で足を止め、わざと一拍置いてから追いかける。角を曲がった瞬間、視界の先に加藤の姿はなかった。(……やるな) 足音を殺して、周囲を探る。すぐにわかった。右手の駐車場の影――そこに加藤が立っていた。 加藤はポケットからスマホを取り出し、誰かと会話していた。その表情は、図書室で見せた柔らかい笑みなど欠片もなく、冷たく研ぎ澄まされている。「……了解。次の指示は?」 低く抑えた声。無駄がなく、従順な兵士のような響きを耳が捉えた。相手の声は聞こえない。だが、加藤の頷き方には、慣れた服従の色があった。(……やはり、“裏”がいる) やがて加藤はふたたび歩き出し、雑踏に紛れながらビルの影へと消える。その直前に、ポケットの中で指を二度叩いた。小さな仕草にすぎない。だがそれは、ただの癖ではなく――明確な「合図」だった。 ビルの隙間は夕方だからこそ薄暗い。外のざわめきが急速に遠のき、足音すら吸い込まれていく。 その奥に立っていたのは、白シャツ姿の人物。逆光に隠れた顔ははっきりしないが、立ち姿には奇妙な既視感があった。 加藤がその人物に近づき、声を潜める。「……計画……予定どおり」 「……奏……監視は……」 断片的な単語だけで、全身の血が凍る。 白シャツの人物が小さく笑い、加藤の合図に応じるように一歩前へ出る。光に微かに浮かんだ輪郭――短く整えられた髪に細い顎。(……コイツは、いったいどこの誰だ

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