INICIAR SESIÓN「一代で終わった町って言うのは、どんな感じなの?」「うん、多分お前も予想していると思うが……」 サイドデスクに置かれた本をサージュは指差す。「設立した町長のスキルの効果範囲が広い町だ」 一瞬、部屋に静寂が満ちた。 エキャルの羽音すら聞こえない。「……「まちづくり」みたいに、ざっくりした町だね」「ああ」 サージュの指先にある本には、「滅び逝く町」と書かれている。「「富める強国」ディーウェスのスキル研究家プラーグマ・ファクトゥムが研究した、素晴らしいと誰もが言ったのに一代で滅びたいわゆる「伝説になり損ねた町」について書かれた書だ」 ディーウェスは三百五十年前から五十年前まで続いた、身近な伝説、SSSランクの町だ。まだディーウェスの偉大さを覚えている人もいる。畑仕事担当で元エアヴァクセン盗賊団団長、ヒロント長老は、小さい頃にディーウェスの住民と話す機会があったらしい。ディーウェスの知識を教えるためにやってきたその人に、ディーウェスはどんなところ? と聞いたら、「みんなで作った楽園だよ」と答えてくれたらしい。長老は「今はグランディールが儂にとってのディーウェスだよ」と笑って言ってくれたけど。 そんな町に住んで、存分にスキル学を学んだ人が書いた書。「伝説になり損ねた……」 まさしく、このまま放っておいたらグランディールが辿るかも知れない道だ。「フォーゲルは鳥の本しかないと思っていたが、珍しい本もあったもんだ。スキル学を政治に役立てず、更にただ真実を知りたいと志すような物好きが手に取る本だからな」「アッキピテル町長には……」「許可を得てるよ。町長になってからスキル学の本も集めたけど自分しか読まないからどんどん読んでくれとさ」 アパルもサージュも椅子に座って、目線で読めと促す。 「滅び逝く町」にはしおりが二枚挟んである。「ここを読めってこと?」 二人が頷くので、そのページを開いてみる。 幸いなことに、ぼくに読める字で書いてあった。 『夢幻の町トラオム』 聞いたことがない。 続きを読む。 『万能のスキルと謳われたエニュプニオン・ソムニウムが一代にして作り上げた町。夢のように素晴らしい町、SSSランク、全ての町が手本にした町だが、エニュプニオン亡き後、誰もそのスキルの後継になれず、文字通り夢幻と終わってしまった町で
アナイナはとりあえず御見舞いに来ない、らしい。 ヴァリエは……どうやら女性陣が説得してくれたらしい。シートスから「弱っている姿を見られたくないという言い訳で大人しくなってくれたので、とりあえず寄ってほしくない時は弱った振りをして追い払ってください」と言う手紙が来た。 なるほど、騎士の主は弱ってる姿を見せてはいけないものなのか。 最近はヴァリエも大人しくなったけど、初対面の時の正体不明ストーカーの戦慄の恐怖はまだ残ってる。逃げ切ったと思ったら町の中から声がした時は、正直、心臓止まるかと思った。 その襲来がないというのだから、安心して本を読みながら考えに浸れる。 アパルが貸してくれた、伝説の町の本。 エキャルをモフりながら読んで、色々考えてみる。 伝説の町が初代で潰れなかったのは、仮住人が目覚めたスキルにあるかも知れない。 例えば空飛ぶ町ペテスタイは、出来てから五・六年後の子供たちには、浮遊や飛行と言ったスキルが多かったという。町長亡き後、彼らが町を飛ばし続けたとか。 そう考えてみると、確かに町によって、発生しやすいスキルはある。 エアヴァクセンは最近はめっきり減ってしまってはいるけれど、その昔は「鑑定」が多かったという。ファヤンスは陶器関連に偏っているし、フォーゲルは鳥に関連しないスキルの持ち主はいないんじゃなかろうかってくらい。 ところが、グランディールにそれがあるか分からない。 ……まだできて一年も経っていない町に判断材料がないってだけのことなんだけど。 一番最初がアナイナで半年後……くらい? その次は五・六年間が空くから、生まれやすいスキルの傾向が全然見えない。十年くらい経たないとはっきりとはしないという。 ……十年後に考えろって話だよな。 でも、今、気になってるんだから仕方ない。 気になったことは気になった時に聞いたほうがいい。後回しにすると聞く機会がなくなっているかも知れないから。 それに、アパルやサージュと町に関する疑問や心配を共有することは、将来のグランディールにとっていいことだと思う。 予想できる不安を早め早めに取り除く。それは町が長く続くのに必要なことだと思うから。 ◇ ◇ ◇「おーう、大人しくしてたか」 サージュとアパルがやってきたのは、相談してから三日後のこと。「
エキャルをモフりつつ、アパルが持ち込んでくれた娯楽本を読んだりして時間を潰す。 時々スヴァーラさんに御見舞いの手紙を書いて、それをエキャルに持たせたり。 スヴァーラさんからは、気にかけてくれてありがとう、エキャルが来るとオルニスも喜んでくれるので嬉しい、体は順調に回復しているし、モルやミアストの目がないというのは安心できるけど、時々自分が助かったのを知っているんじゃないかという不安に襲われる、という手紙が戻ってくる。 この不安ばかりはどうしようもないので、フォーゲルのお医者さんにメンタル面も見てあげてくださいと頼んである。 時々、青色の小さな羽根が手紙についてくる時もある。オルニスの羽根で、オルニスも元気ですよ、と書いてくる。 小さい頃、青い小鳥が幸せを運んでくるという話を母さんから聞いたことがある。 幸せを運んでくる青い小鳥と、その子が大好きな飼い主。 これは、揃って幸せになれないとダメだよな。 フォーゲルを選ぶかもしれないし、グランディールに来るかもしれない。どっちに行くとしても、小鳥の健康は保証するとアッキピテル町長は言ってくれた。 鳥の町フォーゲルは、鳥に好かれている人、鳥に愛されている人を無条件に気に入って、手を貸してくれる。スピティへの展示即売会には来ていなかったけど、フォーゲルで伝令・宣伝鳥売買をしているパサレ・ティールから、ぼくたちが鳥を買いに来た時の印象なんかを聞いていたんだろう。最初の手紙の返事から丁寧だったし、アッキピテル町長にグランディールを案内した時、宣伝鳥の面倒を見ていた鳥飼ティーアを認めてくれたのか、エキャルラットのぼくへの懐きっぷりを認めてくれたのか、その両方か。とにかくグランディールと言う町を高く評価してくれて、Cランクの町を対等に扱ってくれている。そして同じようにスヴァーラさんにも親切にしてくれている。 鳥が懐くのはいい人。鳥に嫌われるのが悪い人。そんな分かりやすい判断基準だけど、鳥のことを何より知っているフォーゲルではそれが一番分かりやすい人間評価だ。 ……もちろん食用の鳥もある。 卵だけを取る鳥だけじゃなく、鳥肉になる鳥もある。 それでも、その鳥の命に感謝して食べろ、とフォーゲルは言う。 命をいただくのだから感謝すべきだ、それが出来ない町には売らない、というのがフォーゲルの主張。 フォーゲルか
「五代、もつか?」「何故、そんなことを?」 聞いてくるアパルとサージュに、ぼくは最近思い付いてから頭を離れなくなった疑問を口にした。「この町、空を飛んで、勝手に家が出来て、土地が広がって、家具や服が出来て、お湯が循環して。これ、ぼく一人のスキルだよね」「ああ」「じゃあ、何かの理由でぼくがいなくなったら、この町は立ち行かなくなっちゃうんじゃないかと思って」 はっとサージュとアパルがぼくの顔を見て、それからお互いの顔を見合わせた。「グランディールがSSSランクに行ったとしても、ぼくがいなくなった途端に滅んじゃったら意味がない。町が続かないといけない……それには、ぼくのスキルを肩代わりしてくれる誰かがいないといけないんだ。だけど、「まちづくり」のスキルがそうポンポン生まれるとは思えない。だから、他の町はどうだったのかなって」「…………」 そう。それがぼくの気がかり。 気が早いかもしれない。ぼくはまだ十六にもなっていない。普通に考えれば短くても後四十年は生きられる。 でも、ぼくがいなくなると、町がどうなるのか。 恐らくは町民から切り捨てられたことで町への罰を逃れられたファヤンスとデスポタ、いずれ自滅するだろうけど、今のところはSSランクの町を維持? しているため町長の座にしがみついていられるエアヴァクセンとミアスト。そんなことを考えていたら不安になってきたんだ。 グランディールは完璧だと思う。衣食住に不自由せず、スキルに拘らずに好きなことがやれて、お金がなくても生きていける。夢の理想郷。 でも、このまま放っておけば、夢はぼくが消えた瞬間に終わってしまう。 だから、他の町が気になったんだ。 伝説と呼ばれる町が、最低でも五代、生き残った理由。 それが分かれば、グランディールも生き続けられるかもしれない。ぼくの「まちづくり」なんていう反則級スキルで成り立った町は、ぼくがいなくなっても生き残る方法を考えないと、一代で終わってしまう。 何か、秘訣はあるんだろうか。 スキル学に詳しい二人なら何か知っているんじゃないか、と思ったんで聞いた。「確かに……調べてみるか」「フォーゲルの書物も見せてもらえるかな」 頭脳二人が動き出すので、ぼくはこれ以上動かないほうがいいな。 椅子に座り直して、薬湯をコップに注ぐ。「でも、町長」 アパルが部屋を出
山に囲まれた盆地にあるフォーゲルに出入りできる門は少ない。 山を縫う街道だけ。空から来る飛行獣や乗用鳥も、フォーゲルの空を覆う鳥移動不可の結界に阻まれるので、一旦街道に降りて獣や鳥を預けなければならない。 そして、別にグランディールに行くルートが一つだけ。 ぼくは頭にエキャルを乗せたままそこへ向かう。 フォーゲル会議堂の奥。 この一件をエキャルラットに持たせた手紙で相談した時、アッキピテル町長はこっちが思っている以上にノリノリで参加希望してきた。「パサレから聞いている。鳥をこんなに可愛がってくれている町からの、鳥と飼い主を助ける相談だし、ミアストに釘を刺す機会でもあるから」と、すぐにグランディールを、ぼくじゃなくグランディールごとフォーゲルに招いてくれた。 山の中にちょうどいい場所があるからと近くまで来たグランディールに町長自ら乗用鳥で乗り付けて、フォーゲルの北の山地の森が深い場所に町を隠せるようにしてくれた。 そして、試してみたことが一つ。 グランディールと地上をつなぐ金の光の輪……上昇門・下降門を、真上と真下だけじゃなく、別の場所に繋げることは出来ないかと思って、アッキピテル町長に場所の相談をしたところ、「ならば町長室はどうだ」と来た。確かに人の出入りも少ないけど……まあ出来るかどうかやってみようと、ぼくを動かすのが厳しいとアパルが会議堂の町長室に行って、試しにやってみたところ、グランディールの門とフォーゲルの町長室が繋がったということで。 ぼくも負担なくグランディールとフォーゲルの行き来が出来るようになって、相談を重ね、エアヴァクセンに送る手紙を書いて送り、エアヴァクセンから使者が来るのを、アッキピテル町長は怒った顔を作って待った。フォーゲルは鳥犯罪に厳しい。鳥を痛めつけた者はよっぽどの事情がない限り、厳罰が下される。町長側近であろうと町長その人であろうと関係ない。厳罰を恐れたエアヴァクセンは案の定、生贄にスヴァーラさんを連れてきてこれで丸く収めてくれと言うことになった。 だから、予想通りエアヴァクセンがスヴァーラさんを連れてきた時、アッキピテル町長、実は心中大笑いだったと言っていた。 スヴァーラさんを無事救助、エアヴァクセンに釘を刺し、ついでにグランディールとフォーゲルの友情も結べた。ぼくらの企ては全て大
「あ……」 スヴァーラさんは片手で自分の口を押えた。「まさか馬鹿真面目にエアヴァクセンに帰るつもりじゃなかったでしょうね?」 しばらく絶句したまま。 そう、考えたこともなかったんだろうね。鳥と一緒にエアヴァクセンを出られる日が来るだなんて。「オルニスくんにとってはこのフォーゲルにいれば安心だと思いますが……エアヴァクセンの人間が来る可能性もありますし」「一応釘は刺したが、ミアストは都合よく忘れる天才でもある。そして図々しい。再び何かを言いにエアヴァクセンから使者を派遣するかも知れない。その時に貴女の姿を見られると厄介が起きるかもしれない」「それは……困りますね」「では、いっそグランディールに来ますか?」 え、とスヴァーラさんがまた目を丸くする。「でもワタシ、エアヴァクセンの人間で……」「グランディールの初期メンバーは、エアヴァクセン町民ばかりでしたよ」 うん。ぼくとアナイナが仮町民で、残りはエアヴァクセンを追い出されたり自分から出てきたりした盗賊団。ぼくがエアヴァクセンを追い出されたほぼ直後に作ったからな。そりゃあ近場の人しかいないだろ。「でもワタシ、ミアスト町長の側近で」「扱き使われてたんでしょう?」「……ええ」「モルに脅されたり殴られたりしてたんでしょう?」「……ええ……」「こうなってまでミアストに味方する義理はあります?」「……ないわ」「ならいいじゃないですか」「……いいのかしら……」 スヴァーラさんはアパルと同じように生真面目な性格らしい。目を伏せ、腕を組んで考え込んでしまった。「まだ体が完全に治ってはいないんですよね?」 ぼくの問いはアッキピテル町長に。「しばらく静養したほうがいいとは言っていたね。定期的に殴られていたのだろう?」「……オルニスを庇うとワタシも殴られたから……」「鳥を質にとって痛めつけ、それでも聞かないと本人を殴る。いずれ鳥への暴行でモルとやらを罰したいところだが」「今やるとスヴァーラさんが巻き添え食うからやめてください」「分かっているよ」 アッキピテル町長は分かっている、と言いながらも、言いたいことはたくさんあるという顔で腕を組んだ。「しばらくフォーゲルで養生してください」 ぼくは壁の近くに行って、窓を開ける。「おいでエキャル」 バサバサッと羽音がして、緋色の伝令鳥……
門まで行った、その光景。 塀で囲まれた部分と、門のすぐ外。 さっくりと切り取られたようになって、その先に地面がない。(まさか?!) その、まさかだった。 恐る恐る切り取られた先を見下ろすと、下には緑のもこもこ。森だ。 つまり……浮いている!「うっそ、本当に……」 盗賊団の皆さんも、ぼくと同じ思いだったらしい。「本当に空を飛ぶとは……」「嘘だろおい……」「なんで……」 呆然とした声が空に流れていく。 真下の山肌に洞窟が見えることから、今はこの町は真上に浮いているようだ。 それだけでとんでもない話だ。 しかも、それがぼく一人のスキルで。 レベル1、Maxの力で。
ほっとしたぼくの耳に届いてきたのは、雄叫び。 なんだ、何があった? 何かあった? 服を着替える暇も惜しく飛び出すと、町はそのままで、並んだ六軒の家の一軒で、ヴァダーさんが雄叫んでいた。「ヴァダーさん?!」「家が……家が消えていない! 町も消えていない!」 ……そうだね、ヴァダーさん、ぼく以上に心配していたからね。目が覚めたら夢だとか消えてたとか。「さて、これからどうしよう」 変な場所に町を造っちゃったなあ……。 森の奥深く、野獣や魔獣が平気で出る場所。エアヴァクセンに気付かれない土地。他の町との交流しようがない僻地。 確かに畑があって獣を捕らえて捌く場所があって水も豊かな
「えっと。アパル、さん?」 綺麗に焼けた焼き魚の身を歯でむしり取りながら、アパルさんは「ん?」と言う顔をした。「スキル学を、勉強してらっしゃったんですか?」「んん? んん、まあ。「法律」なんてスキルのせいか、色々学ぶことが楽しくてね。盗賊に身を落としても勉学だけは捨てられなかった」 身を噛んで飲み込んでから、アパルさんは頷いた。そう言えば宴会前、洞窟から大量の本を家に移動させていた。どうやってあれだけの本を持って出られたのかちょっと不思議な気がする。 それはさておこう。今欲しい情報はそれじゃない。「スキル学って、どんなことを勉強するんですか? 確か「スキル学におけるレベルか上限1
盗賊団の皆さんが感動と号泣と荷運びを終えたところで、ぼくとアナイナがいる家にやってきた。 手に手に、焼けた魚だの炙った干し肉だの多分酒が入った壺だのを持っている。「……えーと?」「飲もう!」「えーと」 シエルさんの端的な言葉に悩んでしまったぼくに、ヒロント団長が笑いかけた。「儂らだけの町を造ってくれたお礼と、儂らのこれからを祝って、宴会をしようと言う話になった。主役は君だ。来てくれるかな?」「そ……」「喜んで!」 ぼくより先にアナイナが返事した。「アナイナ……」「こういう時はね、盛大にお祝いするのがいいの! みんなもそれを願ってるの! 何がどうあってもこの町を造ったお







