Mag-log in盗賊団の皆さんが感動と号泣と荷運びを終えたところで、ぼくとアナイナがいる家にやってきた。
手に手に、焼けた魚だの炙った干し肉だの多分酒が入った壺だのを持っている。
「……えーと?」
「飲もう!」
「えーと」
シエルさんの端的な言葉に悩んでしまったぼくに、ヒロント団長が笑いかけた。
「儂らだけの町を造ってくれたお礼と、儂らのこれからを祝って、宴会をしようと言う話になった。主役は君だ。来てくれるかな?」
「そ……」
「喜んで!」
ぼくより先にアナイナが返事した。
「アナイナ……」
「こういう時はね、盛大にお祝いするのがいいの! みんなもそれを願ってるの! 何がどうあってもこの町を造ったお兄ちゃんがこの宴会の主役なの! お兄ちゃんがいないとお祝いにならないの!」
「そういうことだよ、クレーくん」
ヒロント団長が大きく頷いた。
「何のお返しにもならんが、せめて感謝させてくれ。エアヴァクセンから出てきたばかりの君らの舌には合わんかも知れんが、今儂らにできる精一杯で感謝させておくれ」
「……じゃあ……うん、お邪魔じゃなければ……」
「おいおい、妹さんも言っただろう、君が主役だと」
主役……ねえ。
ぼくは結構地味な子供だった。エアヴァクセンでは同年代の子供を集めて一緒に教育するけど、その中でもかなり目立たない方にランクインしていた。集団行動で町の外へ見学に行った時に、ちょっと用足しに行った隙に忘れられてみんな帰ってしまって、両親が慌てて迎えに来たことがある。
主役なんて、なったことない。
でも……一応この宴会は、ぼくの「まちづくり」に感謝してってことなんだから、ぼくが主役になるのかなあ。
「行こ、お兄ちゃん!」
アナイナが手を引っ張って、盗賊団の皆さんがぼくを担ぎ上げて、わっしょいわっしょいと町の広場へ向かった。
宴会は、本当に素朴なものだった。町の広場に火を焚いて、そこで肉や魚を炙りながら食べる。食料を持たされなかったぼくには半日ぶりの食事で、「食獣」のマンジェさんが美味しくしてくれている。
盗賊団……と言っても反エアヴァクセンを掲げたこの人たちは、話に聞く盗賊団と違って、移転者狙いでも旅をするのに必要な金と荷物は残すらしい。つまり、森の奥に金銀財宝を積み上げてさらってきた女を侍らせて……と町から離れて贅沢三昧、とは縁がない人たち。
狩った野獣や釣った魚を干したり燻したりして保存して細々と食い繋いでいたって話。
今回の宴会はそんな大事な保存食を大盤振る舞いしたらしい。
「……目が覚めたら夢だった、ってのが一番ありそうなオチだけどな」
ヴァダーさんが呟く。うん、ぼくも、それありそうだと思ってた。
「大丈夫、それだったらこの宴会も夢だから」
マンジェさんが自分のスキルで固くなった干し肉を柔らかくして炙ったものをぼくに渡しながら言う。
「次は、この町が目が覚めたら消えていたってオチ」
「ヴァダー、夢も希望もないこと言わないでくれ……」
何かアパルさんが泣きそう。
「ん~、こういう時には何が必要かなあ」
アナイナが唇に指を当てて考えて、パッと立ち上がった。
「みんな、手拍子!」
盗賊団の皆さんが目を丸くする。
「わたしに合わせて、1、2、1、2!」
手を叩き出したアナイナにつられて手拍子が起こる。
「お兄ちゃん、ちゃんと見ててね!」
と言うと、アナイナは火の周りを廻るように踊り出した。
旅用のコートの裾をさばいて、ステップを踏み、両手を空に掲げ、星空に祈るようなポーズを取ったと思ったら、身を屈めて、ジャンプして、くるりと回る。
まるで炎の精霊のように。
いつの間に踊りなんて覚えてたんだろう。
ぼくと違って目立つアナイナだから、特別に教わっててもおかしくないんだけど。
見上げた先、夜空には満天の星。
エアヴァクセンはスキルの力で夜でも明るいから、こんな、「降るような星空」を見ることは一回もなかった。
……お父さんとお母さん、心配してないかな。
ぼくが追放されて、アナイナが
今頃心配してるだろう。
アナイナは町を出る許可すら取っていない。アナイナは目立つ存在で、だからこそ自分勝手な行動は成人した後のキズになる。
町長が切れてないといいけど……。
「お兄ちゃん!」
高いソプラノに顔をあげると、アナイナがニッコリ笑顔でこっちを見ていた。
「どう? どうだった?」
盗賊団の口笛や拍手が飛ぶ。
「うん、良かったよ」
「もう! お兄ちゃん、見てなかった!」
アナイナが口を尖らせる。アナイナは勘もいい。ぼくが上の空だったのに気付いてたんだろう。
「ちゃんと見ててって言ったのに!」
「ゴメン、ちょっと考え事してて……」
「もー! お兄ちゃんはわたしを見てないとダメなの!」
「そういうワガママも、来年には許されなくなるんだぞ」
成人するから。
「いや、光の精霊神に捧げる見事な舞じゃったよ」
ヒロント団長が拍手しながら言った。
「もしかしたら、妹君は炎関連のスキルの持ち主かも知れないね」
アパルさんが感心したように呟く。
あ、聞きたいことがあったんだった。
ぼくたちは無事にグランディールに辿り着いた。「追跡者の姿はないか?」「……ないね」 ヴァローレが辺りを「鑑定」して人とスキルの気配がないのを確認した。「よし」 地面に落ちる影。見上げれば巨大な浮遊物体。あれがぼくたちの町だと知っているのはぼくたちだけ。 降りてこい、と念じると、グランディールは音もなく降下してきた。「おう、おう、おう!」 ソルダートが門に捕まりながら、こっちを見下ろしてきた。「アレがヴァローレを連れてったから、何かヤバいことあったのかなと思ったけど、全員無事でよかった!」 すぅ、と音もなく着陸するグランディール。 わいわいと町民が寄ってくる。「ご無事で、町長」「良かった、何もなかったんだ」「ベッドは売れたのか?」「あら、この牛車、私のじゃないわ」 ファーレの言葉に、サージュが首を竦める。「ピーラーが荷物ごと持ってった」「牛車も?」「うん、こっちはトラトーレが準備してくれたもの」「まあ、次にこれが使えるならいいのだけれど」 ファーレはそれでも不満顔。自分が作った牛車を知らない相手に持っていかれたのが気に入らないんだろう。「ていうか、相手は荷車を用意してなかったの?」「ああ。危うく幌まで持っていかれる所だった」「グランディールの町スキルでできた紋章を、持っていこうって?」「そうなんだよ、ピーラーが欲しい欲しいって」 シエルも不愉快そう。町の紋章を危うく持っていかれる所だったんだから文句も出るだろ。ぼくも言ったし。「おまけに尾行されてスキルアイテムまで入れられた」 全部、下で作った町に見える塀の所に引き付けて放って来たけど。「グランディールに滅茶苦茶興味持ったのか?」 ヴァダーが溜息混じりに呟いた。「うん。そうでなきゃ二つも手段使って追いかけてこない」「というか、初めての物は自分のものにしなきゃ気が済まないようだな」 サージュがまたも「知識」を搔き集めてきた。「期待の新人、新しい町、というように注目を集めるものを、真っ先に、そして全部手に入れたがる」「町なんてどうやって手に入れるの。町長になりたいの?」「いいや。外から口を出す立場になる。つまり、多大な寄付を送って町政に関わってくるんだ。新しい町は金に困っていることが多いから寄付を受け取らざるを得ない。それと引き換えに品物を自分優先
「そう……だと思われるのですが……」「なんだ、自信のない」 馬に乗った男女五人がついてきて、森の中にいきなり現れた塀と門を見て唖然とする。「グランディールの牛車があの門の中に入っていったのは見たのですが……声もしない、人の気配もない、牛車の音すらしない」「見失った、のか?」 ピーラーの視線が凍てつく。「中に入っていった、それだけは確かです」 依頼主は怖い顔をする。 彼の意向に従えなければ、ポルティアの未来はない。 フリーの門番は所詮コウモリ。あっちにもこっちにもつくからこそ大きい稼ぎがあるのだが、あっちからもこっちからも見放されれば守ってくれる者はいない。だから、ポルティアはピーラーという保険をかけていた。彼に自分が見つけた才能のありそうな若手を商会に紹介すると同時にピーラーに教える。そうすればポルティアはピーラーのお気に入りとして、懐も温かくなるし名前も売れる。 ピーラーの新人潰しに関わっていると言ってもいいが、ポルティアはそれは何とも思っていない。期待に応えきれず潰れる方が悪いのだ。 だけど、グランディールが……あの若い町長が、ピーラーに逆らった。初めてピーラーの無茶に応えた町長が、別荘のデザインをしてくれという依頼を断った。見事な銀染めのグリフォンの紋章が入った幌を渡さなかった。 これまで何人もの新人を潰してきたピーラーには、信じがたいことだった。 これまでの新人は、何とかピーラーの注文に応えようと四苦八苦した。そして期待を裏切って潰れて行った。もちろんピーラーは潰したくはなかった。ただ、一切の妥協をしなかった。それだけの話だ。 新人は自分の意向に応じるもの。断るなんてありやしない。 そういう反発心。そして、それ以上に沸き起こった好奇心。 グランディールはどんな町なのか。 あの町長が率いる町はどんなものなのか。 見てみたい。 ……見てみたい! だから荷物にスキル「跡追い」を込めたアイテムを混ぜ込み、自分を使って後を追わせたのだ。直接町へ行ってデザイナーと交渉しようと。自分の望むあれやこれやを作らせようと。 だからこそ、ここで見失うわけにはいかなかった。スキルと人力で追跡させている。「スキルアイテムはあの中なんだな?」「はい、間違いなくあの中に」 短髪の女性が頷く。「よし」 ピー
ヴァローレの瞳が金色に光る。 普通の物の鑑定ならどうということもないけれど、他人のスキルや誰かがスキルを仕込んだ痕跡などを鑑定する時は目が光る。だからこっそり鑑定することができない。 今は関係ないけどね。スキルの痕跡を見てるって知られて困る人はここにいない。 目を光らせながら一つずつ荷物を見ていくヴァローレ。 手にとってはじっと見て、「違う」と呟いて牛車から下ろす。 そうやって一つずつ荷物を下ろしながら確認していき、ある一つで目を止めた。「これだ」 呟いて、荷物の中からヴァローレが引っ張り出したのは、野菜の種の袋に仕込まれた小さな留め具だった。「スキルが仕込まれてる」「どんなスキル?」「ん~……」 金色の目が留め具を凝視。「これのある場所を特定できる、かな」「リューの「場所特定」みたいな?」「ああ。だけどスキルを込めたものがないと特定できないタイプらしい。じゃなきゃこんなもの仕込まない」 留め具をぼくの手の中に落とすと、次の荷物に取り掛かる。 全部の荷物を「鑑定」するのに半刻かかった。「うん、これだけだ。数を置いたら怪しまれると思ったのかな」「これをここに置いていけば、追ってこられない?」「ああ。他の物にスキルやそれに関係する気配はないからね」 ぼくには何の変哲もない留め具にしか見えない。それが見えるヴァローレはすごいと思う。「だから、スピティで仕込まれたものがあるとすればこれの他にはない」 金の瞳が緑の瞳に戻る。「っと、こんな感じでいいかい?」「十分十分。ありがとうヴァローレ。きみがいてくれてよかった」「鑑定ならエアヴァクセンの鑑定師より上かもな」「おい、褒め殺すつもりか? SSランクの鑑定師なんて、手の届かない人間だろう」「いやいや、それこそスキルすら「鑑定」するスキルは珍しい。君の故郷はレベルと低上限で惑わされて追い出したんだろうが、失敗したな」「僕は失敗してもらえてよかったけど」 照れ隠しのように頭を掻いて、ヴァローレは呟く。「そりゃあ盗賊に身を落としていた頃は先の見えない人生で真っ暗だったけど……。僕は、グランディールで役に立った方が、他の町で鑑定師として扱われるより楽しい……と思う。鑑定師を見たこともないヤツが何言ってんだって思われるだろうけど」「そう言ってもらえると嬉しい」 これはぼく
ポルティアは牛車が入っていって閉じられた門と、跳ね橋を見つめていた。 なんだろう。 人の気配が……ない。感じられない。 門構えはAランク以上と言っていい。ここはポルティアの知る場所から外れているから、いつの間に出来たかは知らないが、森を切り拓いて作られたばかりと言われれば納得はできる。それだけ新しさがある。 こんな立派な門構えの、新しい町だったら、もっと活気があってもいいのに、静まり返っている。スピティから金と荷物がやってきたのだ、ざわめきや歓声が聞こえてもおかしくないのに。 しかし、これだけの門を作ったのなら、人はいるはず。こんなものを作って誰も居ないなんてことはない。 何とか覗けないか……? 馬を木に繋いで、木に登ってみる。 見えない。塀が高すぎる。 何とか……中を……。 ◇ ◇ ◇「見てるな」「見てるね」 塀の見張り穴から覗いて、ぼくとサージュは呟いた。 あっちからは見えないけど、こっちからは木に登ろうとしているポルティアの姿が丸見えだ。「やっぱり追跡されていたか」「ピーラーが諦めるなんてないと思ったから」 塀に寄りかかってぼくは肩を竦める。「で、この案は、町長の仮面で思い浮かんだのか?」「ううん」 ぼくはニヤッとした。「二つ以上作れるか、試してみる機会だと思ったんだ」 そう言って、ぼくは塀の内側を見渡す。 そこには、何もなかった。 塀でぐるりと囲まれた内側は、のっぺりとした平地があるだけ。 ここは、一応町だ。 何故かというと、ぼくが「まちづくり」で作ったから。 だけど、町民が誰も居ないから、建物も何もない。外から見れば立派な町に見えるけど、内側は空っぽ。 「まちづくり」には町民が絶対必要なわけで、町民なしで町を造ろうとしたらこういうことになる。「町」には見えるけど人の暮らす場所じゃない。「でも、これだったら、町を二つ以上造ることも可能ってわけだね」「だが、お前が行ったり来たりしなければならないんじゃ?」「多分、町に必要だと思ったら、行き来する町スキルが出来るんじゃない?」「……本当に便利なスキルだな」 尾行者の見張りをサージュに頼み、ぼくは何もない町を見渡す。 牛車がぽつんとあるだけ。 アレに頼んで、ヴァローレを呼びに行ってもらったからだ。 見たところ、追手は
馬車を街道の端に止めて、馬車の観察を始める。 なんせ荷物もトラトーレの御厚意で積んでもらったので、何処かに何かが隠してあってもおかしくない。 なんだ? と三人がきょとんとしている間に、牛車を飛び降りて、辺りを見回す。 とりあえず人の気配はない。 それを確認して、森の柔らかくなった土に枝で字を書いた。 『誰かが聞いているかもしれない』 サージュ、アパルが飛び降りてくる。アレが続こうとするのを手で止めた。(牛車を見てて) 目で訴えると分かってくれたらしい。軽く片眼を閉じて頷き、御者台に座り直し、幌の方を向く。 アレの目に変わった様子がないので、地面の文字を足で踏み消して、新しい言葉を書く。『ピーラーがあんなに簡単にベッドと幌を諦めたのがおかしいとぼくは思う。』 アパルとサージュがぼくの顔を見る。 『あれだけわがまま放題の男が、グランディールにあれだけ興味を持っている男が、ああも簡単に諦めるか? グランディールデザインの家、グリフォンの幌。そして何より、グランディールそのもの。』 文字を一旦踏み消して、何事もなかったかのようにならし、また文字を書く。 『トラトーレはグランディールとの取引を大事にしたいだろうからこっちの事情を慮ってくれるけど、ピーラーはグランディールに興味を持っている。デレカートも言ってたろ。ピーラーは興味を持ったら全て手に入れたがるって。』 『アレのスキルですぐに逃げた方がいいか?』 サージュの文字に、ぼくは一度書いた文字をまた踏み消して書き続ける。 『今、アレのスキルを使うのは得策じゃない。ヴァリエのようなスキルがあるかもしれないし、スキルじゃなくてついてきている人間もいるかもしれない。それに、アレのスキルは二度目を使うには間がいる。もしかして追いつかれた時に逃げられないのは痛い。』 アパルとサージュが頷きあって、サージュが自分の書いた文字を消す。 『これから先どうすれば?』 『人の尾行はともかく、スキルとなると逃げられない。』 ふと、ぼくはそこで思い付いた。 そのことを地面に書くと、呆れ果てた二人の姿。 この文字も踏み消す。 視線を感じて顔をあげると、アレが地面を凝視していて「おい、正気か?」と目線で聞いてきた。だからぼくも正気だと頷き返す。「なるほどねえ」 アパルが呟いた。「
「ははは、それで牛車ごと売ってきたと」 デレカートが愉快そうに笑う。 ここはデレカート商会の建物。トラトーレが四頭立て牛車の準備と、ついでに礼という名の生活用品などを積み込むのに時間がかかるので、ぼくを囲んでてくてくとデレカート商会まで歩いてきたというわけ。「トラトーレとしてはピーラー氏は失いたくない顧客ですからな。ピーラー氏自身は厄介な方ですが、彼が紹介する顧客は大手の信頼のおけるところばかりで」 なるほどねえ。それであれだけワガママ聞いてたわけだ。いい客を連れてきてくれる客は大事大事。「しかし、話に聞く巨大ベッド、四ヶ月後なのでしょう? 間に合うのですか……?」「一つ目も二ヶ月で間に合いました。既にデザイン画も上がっております。それに、デレカート氏との契約も捨てる気はありませんから」「ありがたい」 デレカートが笑みを浮かべる。「こちらも注文が殺到していましてね、断られたらどうしようかと心配していたところですよ」「それはありませんからご安心を」 アパルが笑顔で請け負った。「ピーラー氏は気に入ったものは全て手に入れたがる。グランディールに興味を持ったようですが、今回のベッドでさらに興味を持ったと思われます。トラトーレも気を使うと思いますが、影響力はスピティ内部にしか影響しない。お気をつけて」 デレカート商会から受けた注文は、近くのAランクの町長の執務机。代替わりしたので、箔をつけたいらしい。 ちゃんとイメージ図も注文も整っているので、難しくはないだろう。 デレカートの商売は、堅実且つ着実。初めての取引相手にいきなり大物を任せることはない。もちろんピーラークラスの顧客もいるんだろうけど、そういう客を抑えるだけの力がある。 商会を立ち上げたのはデレカートが先で、デレカートと肩を並べるのにトラトーレは無茶を通すしかなかったというのがサージュの「知識」。 その結果があのバカでかいベッドに辿り着く、というわけ。 思えば最初に紹介された時のトラトーレが先手打たれた時にあちこちのギルドに繋ぎを取ったりして好印象を取ろうとした必死の対応は、後発組が先発に追いつくのに必要な努力だったんだろうな。 でも……あんな対応を受けたんじゃ、大変だろうなあトラトーレも。 ありがたいっちゃありがたいけど、商売としてやっていくにはデレカートの方が安心できる。
「……素晴らしい、その一言ですな」 トラトーレがそう言ってぼくの顔を見る。「草原をイメージした、五人も並んで眠れそうなベッド。……完成しないと思っていましたよ」「無理もない」 アパルが苦笑する。「うちのデザイナーが何夜もかけてデザインしたものです」「木質も作りも何もかもが素晴らしい……」 トラトーレがごくりと唾をのむ。「グランディールの町スキルは真に、真に素晴らしい!」「……ありがとうございます」 アパルやサージュでなく、ぼくが頭を下げる。「これを、ピーラー氏に直接お渡しすればよろしいでしょうか」「はい。私共は既に仲介料を受け取っておりますので」 それにしても、とト
それから月日が過ぎ、ようやっとベッドの一つが完成した。 と言っても、ベッド製作時間はほぼ一瞬。町民がベッドが出来るように念じ、細かいデザインやなんかをシエルが思い浮かべるだけ。それだけで超巨大ベッドが出来上がる。 もっとも今回はちょっと例外だったけど。 いつもなら家具工場の中に出来るようにと念じるけど、今回は町の門……入り口に出来るようにと念じたのだ。 だって、デカいんだもん。ベッド。 一旦町を下ろし、ファーレに特製の牛車を作ってもらい、乗せる手間を省くため、幌を被せず、四頭立て牛車の上に作り上がるようにと念じてもらった。 完成したベッドはそりゃあすんばらしい出来だったけど、門
シートスの懇々としたお説教はその後も続く。「二人とも町長の特別な存在になりたいんでしょうけど、町長が町民の誰かに贔屓したら他の町民に不満が出るでしょう? 町長には平等でいていただかないと困るんです。それを妹だ騎士だと自分が一番名乗り上げて……自分が優先されないと気が済まない! あなたたちは恐らく、自分こそが町長の一番お気に入りと認められたいのでしょうが、町長に町民の一番気に入りがあっては困るんです! なりたいと思う気持ちは分かりますよ? あなたは町長の妹ですし、あなたは町長に忠誠を捧げたい。町長の特別になりたい。でもその結果がどうなるか考えたことがあるんですか?
シートスと一緒に町の通りを歩く。 道はガラガラ。「ちょっと通りが寂しいですね」 シートスも思ったらしく、ポツリ、呟く。「まだ大人がギリギリ二十人程度だからなあ。もうちょっと増やしたいところだけど」 人数が少ないから閑散とした雰囲気は拭えない。人口は増やしたいけど今は他の町在住の人を入れるわけにはいかない。グランディールの名前は知られてもいいけど、飛ぶとか反則技いっぱいあるとか知られるとまずい。押しかけられても困るし町民に逃げられた町に逆恨みされても困る。 ということで放浪者をスカウトするしか今のところ手はない。「わたしの知り合いが何人か放浪しているんですけど、降りた時に見かけ







