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第30話 :聖女の使命

Author: 渡瀬藍兵
last update Last Updated: 2025-06-09 19:02:37

まずは……一人ずつ、私が診ます」

私は静かにそう宣言し、ゆっくりと村人たちに視線を送った。衣服は擦り切れ、顔色も真っ青。今にも倒れてしまいそうな人が、そこかしこにいる。

「ゴホッ、ゴホッ……!」

苦しげな咳が響いたかと思えば、その口元から血が滲み出るのが見えた。

(これは……本当に急がなきゃ)

「ミストさん、シイナさん。お手伝いをお願いします。村人の方々を、私のもとへ一人ずつ誘導してください!」

ふたりはすぐに頷き、動き出してくれた。私は続けて、シオンさんとグレンさんの方を向く。

「シオンさん。お肉とミルク……それからバターと小麦粉を、近くの町で買ってきていただけますか?」

「分かりました」

すぐさま風の魔力をまとって飛び立とうとする彼を、私は慌てて呼び止めた。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

急いで自分の財布を差し出す。

「これは……私のわがままでやることなんです。こっちの財布に入っているリヴィアを使ってください」

「……分かりました」

シオンさんは穏やかに頷いて、そのまま風に乗って空へと舞い上がった。

次に私は、グレンさんの方へ振り向く。

「グレンさん。私が祈っている間に木を切ってきてください。村人たち、呪いの影響で体温が下がっているみたいなんです。村の中央で、大きな焚き火を起こしてあげてほしいんです」

「おう! 任せろ!」

力強くそう答えて、グレンさんは勢いよく走り出していった。

──さあ、次は私の番。

「では、これより浄化に入ります」

私は、最初に来たひとりの男性の手をそっと取った。

「《聖なる光よ、清め給え》」

聖語の祈りとともに、聖属性の浄化魔法を行使する。この人の苦しみが、少しでも軽くなるように──そう願いを込めて。

その瞬間、柔らかな黄金の光が彼の全身を優しく包み込んだ。

けれど──

(っ…!この呪い…強い…!すごく濃い……!)

光だけでは祓いきれないほどの穢れが、体の芯にまで深く染み込んでいる。私は祈りの力を強め、さらに深く、内側へと意識を集中させた。

(お願い……届いて……!)

祈りを込め続けると、やがて呪いの瘴気がすーっと薄れていくのが感じられた。

「あ、あれ……体が、楽に……」

私はその手を離さず、穏やかに、でも確かな祈りを続ける。やがて、光が静かに収まり、彼の顔色は見違えるほど良くなっていた。

「……ふうっ」

(よかった……)

けれど──「ゴホッ、ゴホッ!」

咳はまだ完全には止まっていない。それだけ、呪いが深く根を張っていたっていうことなんだ。外側だけじゃなく、内側からも……もっと時間をかけて、癒していかなければ。

(でも、今は──次の人を)

***

そうして私は、およそ二十人の村人に祈りを捧げ、浄化の光を注ぎ込んだ。

「お疲れ様です……エレナさん」

そっと声をかけてくれたのは、ミストさんだった。

「ありがとうございます……でも、まだ……」

(どうにか祓えた。けれど──まだ完全じゃない。だからこそ……)

そんなとき──「戻りました」

風の音を伴って、シオンさんが静かに帰還した。

「シオンさん……! すみません、あんなお使いをお願いしてしまって……」

「いえ。あなたは、あなたがやるべきと信じた道を進んでください」

「……胸を張って」

その穏やかな笑顔と言葉が、すっと胸の奥へ染み込んできた。

「こっちも準備できたぜー!」

元気な声とともに、グレンさんが姿を見せる。村の中央では、大きな焚き火が力強く燃え上がっていた。パチパチと薪の爆ぜる音。その温もりに、寒さに震えていた村人たちの顔が、少しだけ和らいで見えた。

──みんな、なんて頼もしいんだろう。

込み上げてくるものをこらえながら、私は静かに目を伏せ、次にやるべきことへと意識を向けた。

***

私はグレンさんの焚き火の前に立ち、そっと手をかざした。

掌から流し込んだ聖なる魔力が、オレンジ色だった炎を柔らかな金色へと変えていく。ゆらゆらと優しく揺れるその光は、見ているだけで心を和ませるようだった。

──この聖なる炎の熱が、呪いの再発を防いでくれる。

次は──私は村の奥から出てきた、年配の男性──おそらく村長さんであろう人に声をかけた。

「すみません……料理場をお借りしてもいいですか?」

「おお……貴女のおかげで、ワシらはこうして生きておられる。どうか……お好きに使ってくだされ……」

彼は深々と頭を下げてくれた。

***

──さあ、次は料理だ。

呪いは祓った。けれどそれは、一時的なもの。この呪いは、放っておけば時間と共にまた体を蝕んでしまう。

だからこそ、内側からも“癒し”を与えなければいけない。

私は、シオンさんが買ってきてくれた食材をそっと抱きしめるように受け取り、温かなシチューを作ることに決めた。

生物から生まれた食材には、神聖なエネルギーを帯びさせることができる。ミルク、バター、そしてお肉。これを食べてもらえれば、きっと、内側から呪いを和らげてくれるはず。

料理場に足を踏み入れると、そこは想像以上に荒れていた。割れた鍋、ひび割れた調理台、欠けた食器ばかり。

でも、使えないわけじゃない。

そのとき──「私も、お手伝いしますよ」

ミストさんが、ひょこっと顔を出して、私の隣に立ってくれた。

「ミストさん……ありがとうございます……!」

「じゃあ、始めましょうか!」

ミストさんの明るい声が、薄暗い厨房に響く。

二人で手分けして、なんとか使えそうな鍋や調理器具を洗い、準備を整えていく。ミストさんの手際の良さには、本当に驚かされる。私が野菜を洗っている間に、彼女はもう硬いお肉の筋を丁寧に取り除いていた。

「こちらのハーブも使用しますか?」

「あっ…!はい!ハーブでお肉を揉みますので!」

「わかりましたー!!」

彼女はそう言うと、近くにあった乳鉢で、驚くほど手際よくハーブを鮮やかな緑色の粉塵にしていった。それを牛肉全体にまぶすと、食欲をそそる爽やかな香りがふわりと漂う。

「ミストさん、ありがとうございます。ここからは、私がやります」

私は覚悟を決め、ローブの袖をぐっとたくし上げる。そして、ハーブがまぶされた牛肉を前に、一度目を閉じ、静かに祈りを捧げた。

両の手のひらに聖属性を込めると、両手からふわりと温かな金色の光が溢れ出す。

聖なる力を纏ったその両手で、私は牛肉を掴み、ぐっと体重を乗せて、一心不乱に揉み込み始めた。

(お願い……!皆さんの呪いを祓って…!)

必死に、夢中で力を込める。私の手から放たれる光が、じわじわとお肉に浸透していくのが分かる。だんだん息が上がってきて、額に汗が滲んできた。

「エレナさん、私たちはあなたが誇らしいです」

「そ、そんな……誇らしいだなんて。私は戦闘ではあまり役に立てないですし……だから、こういうところで頑張らないとって……」

夢中で手を動かしながら、思わず弱音がこぼれた。すると、ミストさんは野菜を切る手を止めずに、でも真っ直ぐな声で言ってくれた。

「それが、すごいんですよ、エレナさん」

彼女の声は、柔らかくも、確かな響きを持っていた。

「私たちはパーティです。得意なことも、不得意なこともある。だからこそ、あなたが苦手なことは、私たちがやればいいんです。その代わり、私たちができないことを、こうしてあなたがしてくれる。それだけで、もう十分なんです」

そのまっすぐな言葉が、深く心に染み込んでいく。

「……はい」

「さあっ! 村人の皆さんのために、このミスト! 腕を振るわせていただきます!」

明るい笑顔でそう言いながら、ミストさんは調理を再開する。

私は改めて思った。

──私は、なんて素敵な仲間たちに出会えたんだろう。

***

二人で野菜を炒め、お肉を入れ、大きな鍋にシオンさんが買ってきてくれたミルクをたっぷりと注ぎ入れる。乳白色の液体が、優しく鍋を満たしていく。

私はおたまを両手でしっかり握りしめて、目を閉じた。

(この村の人たちが、元気になりますように。)

祈りを込めて、ゆっくり、ゆっくりと鍋をかき混ぜる。私の手のひらから、温かい光がシチューに溶け込んでいくのが分かる。

だんだんと、乳白色だったシチューが、淡い金色の光を帯びていく。聖なる優しい香りが、厨房いっぱいに満ちていった。

そして……

──できた。

湯気の立つ鍋の中で、具材がとろりと煮込まれている。聖なるシチュー。

それは静かに、完成を告げていた。

この料理なら──この“祈り”なら、きっと彼らの呪いを癒してくれる。

「ふぅ……」

安堵のため息をついた、その時だった。

「二人とも、お疲れ様」

シイナさんが、まるで計ったかのように厨房に顔を出した。

「シイナさん……」

「あとはこちらで配っておく。俺と、グレンと、シオンでやる。二人は、少し休んでくれ」

「……ありがとうございます」

体の芯にずっと力を込めていたせいかな。足がふらつき、少しだけ膝が震えた。

私はそのまま、そばにあった古い椅子に腰を下ろす。

「ありがとう、ございます……」

小さく呟いて目を閉じると、ふわりと意識が遠のいていくのが分かった。

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